日本財団 図書館


4. 米軍・教育機関の取り組み
 米国におけるナノテク研究開発にとって必要不可欠となっているのが、米軍による支援である。国防総省を中心に傘下の多くの機関が独自にナノテク研究開発に勤しんでいる。
 民間を含めた米国の軍事産業がいかに巨大であるかはすでに周知の事実である。兵器開発が必要としているのはより高度な科学・工学技術であり、そこヘナノテクがもたらす恩恵は計りしれない。それは、兵器の素材、兵士の携行物、生物化学兵器に対する防御、レーダー等の精密機器等、応用範囲が多岐にわたる。
 例えば、国防総省は最新のジェット機の開発を進めているが、ナノテクを駆使して、重量を軽減させ、速度を増し、レーダーや音波を吸収し、さらに自己修復機能を持たせようとしている。一方、米海軍は、サメの皮に似た構造を持つ素材を開発し、潜水艦の外部構造に加えることで推進性能を向上させる研究を行っている。
 もちろん、米軍が独自に行うだけではなく、民間企業や教育機関との連携による開発も進められている。例えば、2002年にマサチューセッツ工科大学(Massachusetts Institute of Technology: MIT)は、兵士の携行物を開発するための研究機関「インスティチュート・フォー・ソルジャー・ナノテク(Institute for Soldier Nanotechnologies)」設置に向けて、政府から5,000万ドルの助成金を受け取った。同時に、デュポン、レイセオン等の民間企業も総額4,000万ドルを出資している。こうした軍産複合体が一斉にナノテク開発に乗り出すことによって、研究開発の進行を加速度的に速めることになると考えられる。
 ここでは、ナノテクに関する研究に関与している米軍の主な研究所及び国防総省内の機関等を紹介する。
 
4-1 米軍の主な研究開発組織
 米軍のナノテク研究開発は非常に多岐にわたり、関係する下部組織も多い。その中でも、主な研究機関を以下に記す。
 
4-1-1 米国陸軍研究所(ARL / US Army Research Laboratory)
住所:Attn: AMSRD-ARL-O-PA2800Powder Mill Ra, Adelphi, MD20783
電話:301-394-2302
電子メール:Public_Affairs@arl.army.mil
プロフィール:
 陸軍省に属するARLは、陸軍の戦闘能力を高めるための科学、技術の研究を行っている。6つの研究局があり、主にその中の武器・材料研究局(Weapons and Materials Research Directorate)で、ナノテクに関する研究を行っている。
 
(1)武器・材料研究局
(WMRD / Weapons and Materials Research Directorate)
住所:Aberdeen Proving Ground, MD21005
電話:410-306-0680 (Dr. Ray Yin)
電子メール:amsrl-wm@ar1.mil
プロフィール:
 弾道、材料、武器技術を専門とし、陸軍及び各兵士に、より効果的な武器とシステムを提供することを目的としている。内部は、弾道と武器コンセプト、最終効果、武器材料の3つの部門に分かれている。
 ナノ材料研究としては、化学生物学防衛に関するナノテク、構造的材料に関するナノ化学、ナノ粒子材料、ナノエネルギー材料の研究を行っている。また、ナノ材料技術研究としては、米国陸軍化学防衛医学研究所(USAMRICD)と米国陸軍感染病医学研究所(USAMRIID)とともに、ナノレベルにおける生物化学汚染浄化に関する研究を行っている。
 
(2)米国陸軍化学防衛医学研究所
(USAMRICD / US Army Medical Research Institute of Chemical Defense)
住所:3100 Ricketts Point Road, Aberdeen Proving Ground, MD 21010
電話:410-436-3277
電子メール:mricd@apg.amedd.army.mil
プロフィール:
 US Army Medical Research and Material Command (USAMRMC)の下部組織。化学兵器に対する防御と化学兵器による傷兵を治療するための医療措置と物質を開発することを目的としている。
 
(3)米国陸軍感染病医学研究所
(USAMRIID / US Army Medical Research Institute for infectious Diseases)
住所:Attn. MCMR-UIZ-R 1425 Porter Street, Frederick, MD 21702
電話:301-619-2285
電子メール:usamriidweb@amedd.army.mil
プロフィール:
 USAMRMCの下部組織。生物兵器から兵士を守るための基礎及び応用研究を行っている。
 
(4)兵士ナノテク研究所
(ISN / Institute for Soldier Nanotechnologies)
(所在地はマサチューセッツ工科大学)
 陸軍省と企業の資金提供で設立された。同研究所の詳細は4-2に記載する。
 
(5)全米デンドリマー・ナノテク・センター
(National Dendrimer and Nanotechnology Center)
(所在地は、セントラル・ミシガン大学)
住所:2625 Denison Drive, Mount Pleasant, MI 48858
電話:988-774-2424
電子メール:cartmkt@cmich.edu
プロフィール:
 2002年、ARL陸軍研究所がセントラル・ミシガン大学とデンドリマー分子を開発するナノテク会社の協力のもとに設立。バイオメディカル、診断、ナノ材料の分野において、デンドリマー技術を応用した研究を行っている。設立当初から、ARL陸軍研究所、FDA、ダウ・ケミカル、マルチゲン・ダイアグノスティクス(Multi GEN Diagnostics)等と提携し、現在は8大学、8研究所、5企業と産官学のパートナーシップを持っている。
 
(6)ナノエネルギー研究センター(Center for Nano-Energetic Research)
(所在地は、ミネソタ大学、デラウエア大学、オクラホマ大学、サウスダコタ大学)
電話:612-626-9081(Professor Zachariahミネソタ大学)
電子メール:mrz@me.umn.edu(同上)
プロフィール:
 陸軍が2001年に、ミネソタ大学(リーダー校)、デラウエア大学、オクラホマ大学、サウスダコタ大学の4大学に設立した研究所。ナノ粒子の成長と表面不動態化、ナノ構造材料のエネルギー放出、ナノ粒子酸化反応速度等に関する研究を行っている。研究者は4大学から合わせて8名、外部から5名、博士課程修了者及び学生が20名となっている。
 
4-1-2 海軍研究所(NRL / Naval Research Laboratory)
住所:4555 Overlook Ave, SW Washington, DC 20375
電話:202-767-2541
電子メール:nrl1030@ccs.nrl.navy.mil
プロフィール:
 海軍と海兵隊の共同研究所で、海事に関する基礎的で集学的な科学研究及び先端技術開発を目的とした研究所である。4つの研究局があり、主にその中の材料科学と構成材技術研究局(Materials Science and Component Technology Directorate)で、ナノテクに関する研究を行っている。
 研究内容は非常に多岐に渡る。主な研究項目は以下のとおり。
 
バイオセンサー 分子センサー 分子力学と化学反応 ポリマー薄膜形成
金属ナノクラスター 繊維のマイクロ構造 ナノ構造コーティング 原子デバイス
3Dナノ構造の特性 ナノ摩擦学とナノ力学 金属材料のナノ構造 カーボンナノチューブ
ナノ結晶 各種センサー向け材料 ナノサイズ半導体 半導体素子
 
 また、これらの研究局とは別に、ナノサイエンス研究所が作られている。
 
ナノサイエンス研究所(Institute for Nanoscience)
住所:4555 Overlook Ave, SW Washington, DC 20375
電話:202-767-2541
電子メール:nanoscience@nrl.navy.mil
プロフィール:
 材料、電子工学、生物学の3分野にまたがって、外部からの研究者も含めて、ナノスケールの革新的で学際的な研究を行うこと、そして、ナノサイエンスという新しくかつ複雑な分野において、未来の先端的な防衛技術を、海軍及び国防総省に提供することを目的として、2001年に設立された。研究分野は、ナノ集合、ナノ光学、ナノ化学、ナノ電子工学、ナノ力学である。2001年の設立で、2003年秋には、最新設備を備えたナノサイエンス・リサーチ・ラボラトリーも開設している。
 
4-1-3 空軍研究所(AFRL / Air Force Research Laboratory)
住所:1864 4th Street, Bldg 11, Room 225, WPAFB, OH 45433
電話:937-656-9876
電子メール:afrl.pa.dl.all@wpafb.af.mil
プロフィール:
 空軍のための戦闘用技術の開発を目的とした研究所である。内部は10の技術局に分かれているが、その中の材料・製造局(AFRL/ML / AFRL Materials and Manufacturing Directorate)において、ナノテク関連の研究が行なわれている。AFRL/MLはさらに7つの部門に分かれており、非金属材料部門(Nonmetallic Materials Division)において、ポリマー、ナノ複合物、製造技術部門(Manufacturing Technology Division)において、ナノ粒子集合とパッキング、ナノ構造技術、ナノチューブ等に関する研究が行なわれている。
 
4-1-4 国防高等研究計画局
(DARPA / Defense Advanced Research Projects Agency)
住所:3701 North Fairfax Drive, Arlington, VA 22203
電話:703-526-6630
電子メール:webmaster@darpa.mil
プロフィール:
 ソビエトの人工衛星スプーニク打ち上げに脅威を感じた米国が、軍事利用可能な科学技術の開発を目的として、国防総省内局に1958年に設立。インターネットの開発を先導した部署としても有名である。ただし、自前の研究所や研究施設を持っているわけではなく、内部は7つの技術オフィスに分かれていて、各オフィスが数多くの研究プログラム計画を担当し、それらの研究を実施できる外部の大学や関連業界に資金提供をしている。現在進行中のナノテク関連の研究プログラムは、以下のとおりである。
 
(1)マイクロマシン技術オフィス(Microsystems Technology Office)
 リソグラフィ、フレシキブルナノ複合有機PV細胞、化学工学分子スケール、チップスケール原子時計、電子・光集積回路、超分子光通信工学等。
 
(2)防衛科学オフィス(Defense Science Office)
 ファイバー、応用分子電子工学、バイオ磁気インターフェースコンセプト、バイオ分子モーター、工学的バイオ分子ナノデバイス/システム、超材料、バイオ分子マイクロマシン・シミュレーション
 
(3)防衛ナノサイエンス革新センター
(CNID / Center for Nanoscience Innovation for Defense)
(所在地は、カリフォルニア大学サンタバーバラ校、カリフォルニア大学ロサンゼルス校、カリフォルニア大学リバーサイド校)
 DARPA国防高等研究計画局とDMEA防衛マイクロ電子工学活動の資金提供で設立された。詳細は4-2を参照
 
4-1-5 科学技術担当国防副次官事務局
(DUSD (S&T) / Office of Under Secretary of Defense for Science and Technology)
住所:3080 Defense Pentagon Washington, DC 20301
電話:703-428-0711
電子メール:ddre_webmaster@dtic.mil
プロフィール:
 兵士に対して、その任務をサポートし勝利をもたらす革新的で優れた技術の提供を目的としている。ナノテク関係では2つのプログラムがあり、国防にとって重要な基礎科学と工学研究を大学において強化する目的で、学際的大学研究戦略(MURI / Multidisciplinary University Research Initiatives)と、ナノテクに関する大学防衛研究戦略(DURINT / Defense University Research Initiative on Nanotechnology)を2001年に開始した。これらのプログラムは、上記の4つの組織、ARL米国陸軍研究所、NRL海軍研究所、AFRL空軍研究所、DARPA国防高等研究計画局の各オフィスを通じて実施されており、大学の研究チームに資金提供を行っている。19
 


前ページ 目次へ 次ページ





日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION