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3-3 州・地方自治体政府の動向
連邦政府が主に国家の競争力強化を目的にナノテク投資に取り組んでいるのに対し、州政府や地方自治体は、新たな産業や雇用創出を柱とした、地域経済の振興を目指しているのが特徴である。だが、こうした州・地方自治体政府によるナノテク投資は、結果的に同分野における米国の競争力を底上げする役割を果たしている。ラックス・リサーチ(Lux Research)の調べでは16、州及び地方自治体政府によるナノテク関係の研究、施設、及び事業育成プログラムに対する2004年の投資額は4億ドルを超えた。以下は州レベルの主なナノテク研究開発インフラ投資の例である。
| 表9: |
州レベルのナノテク研究開発インフラストラクチャ投資の例 |
| 州 |
受益者 |
内容 |
提携モデル |
| アリゾナ |
ナノ・バイオ研究センター |
研究インフラストラクチャ |
大学−州 |
| カリフォルニア |
カリフォルニア・ナノシステム研究所 |
建物インフラストラクチャ |
メトロポリタン−州 |
| フロリダ |
南フロリダ大学 |
大学職員雇用及びインフラストラクチャ |
大学−州 |
| ジョージア |
ジョージア州工科大学 |
建物・研究インフラストラクチャ |
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| イリノイ |
ナノサイエンス・センター(ノースイースタン大学、イリノイ大学、アルゴンヌ国立研究所) |
建物インフラストラクチャ |
非営利−メトロポリタン−地方 |
| インディアナ |
バーディー大学ナノテクノロジーセンター |
建物インフラストラクチャ |
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| ニュージャージー |
ニュージャージー工科大学及びフォトニクス・コンソーシアム |
建物・研究インフラストラクチャ |
州−業界 |
| ニューヨーク |
ナノエレクトロニクス・センター |
EPSCoR* |
大学−州 |
| オクラホマ |
ナノネット |
研究インフラストラクチャ |
大学−地方 |
| オレゴン |
オレゴン・ナノ・マイクロ・インターフェース研究所 |
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大学−業界 |
| ペンシルベニア |
ナノテクノロジー・センター |
建物インフラストラクチャ |
非営利−大学−州 |
| サウスカロライナ |
ナノセンター |
研究インフラストラクチャ |
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| サウスダコタ |
ナノスケール加速応用センター |
研究合致・インフラストラクチャ |
大学−州 |
| バージニア |
ルナ・イノベーションズ、他 |
クリーンルーム・メンテナンス |
大学−州 |
| ワシントン |
ワシントン大学、ワシントンテック・センター |
研究インフラストラクチャ |
大学−州 |
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出典:NSTC Report of the NNI Workshop on Regional, State and Local Initiatives in Nanotechnology September 30-October 1, 2003 (2005)
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16 "The National Nanotechnology Initiative at Five Years: Assessment and Recommendation of the National Nanotechnology Advisory Panel", President's Council of Advisors on Science and Technology, May 2005より引用。
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NNIによると、現在は10を超える州でナノテク関連イニシアチブが実施されており、その数は年々増える傾向にある。
以下は州及び地方自治体政府によるイニシアチブの例である。
表10: 州及び地方自治体政府のナノテク・イニシアチブ
ここでは、ナノテク投資に積極的なことで知られるニューヨーク州の事例ケーススタディとして紹介する。
(1)組織と予算
ニューヨーク州では、州政府行政部(Executive Department)内に設けられた組織「NYSTAR(New York State Office of Science, Technology & Academic Research)」がナノテク産業の育成を柱とした経済振興で中心的役割を果たしている。NYSTARは1999年に成立した州法「2000年仕事法(Jobs 2000)」に基づき新設され、特に大学と民間企業の協力の産物としての将来有望な技術の商業化開発と、それによる企業と雇用創出を目指している。同組織の責任者はジョージ・パタキ知事で、内部組織に諮問委員会(Advisory Council)がある。2000年仕事法は、NYSTARが実施するプログラムやイニシアチブの予算として1億2,000万ドルを確保した。
(2)イニシアチブの内容
NYSTARが実施するプログラム及びイニシアチブは、先端技術の商業化開発に重点をおいている。イニシアチブには8つの「戦略的学術研究センター(Strategically Targeted Academic Research Centers: STARs)」及び5つの「先端研究センター(Advanced Research Centers: ARCs)」があり、それらでは最先端のナノテク研究が行われている。また、15の「先端技術センター(Centers for Advanced Technology (CATs))」では、応用科学、新技術及び技術移転に焦点をあてた研究が実施されており、10の「地域技術開発センター(Regional Technology Development Centers (RTDCs))」では優れた技術を持った小規模製造企業に対する支援に力点が置かれている。イニシアチブの内容と予算は以下のとおり。
(3)「キャピタル・ファシリティ・プログラム(Capital Facility Program)」:6つのSTARセンター及び5つのARC研究開発施設を新設、改善する。予算は9,500万ドル。
(4)「CAT開発プログラム(CAT Development Program)」:5つのCATに助成金を拠出する。予算1,000万ドル。
(5)「ファキュルティ開発プログラム(Faculty Development Program)」:優秀な研究スタッフの獲得と維持を目的に、カレッジ及び大学に助成金を拠出する。予算750万ドル。
(6)「技術移転インセンティブ・プログラム(Technology Transfer Incentive Program)」:ハイテク分野における発明の商業化を支援する目的で、カレッジ及び大学に助成金を拠出する。予算465万ドル。
(7)「NYSTAR指定科学技術法律センター(NYSTAR-designated Science and Technology Law Center)の設立」:新興技術系企業の商業的成功を支援する目的で、ユニークかつ重要なリソースを提供する施設を設立する。同施設はまた、科学技術を取り巻く複雑な法的問題の研究も行う。予算は35万ドル。
このほか、ニューヨーク州では「オルバニー・ナノテク(Albany Nano Tech)17」を推進している。オルバニー・ナノテクはニューヨーク州立大学オルバニー校内に設置されたナノテク等ハイテク関係の研究開発拠点で、試作品製造施設等も完備し、技術の商業化支援に力を入れている。オルバニー校ナノスケール科学工学カレッジを併設し、民間セクター、政府、学術界と協力した、ナノエレクトロニクス関連業界の経済的発展と雇用創出に取り組んでいる。1993年、州政府によって「先端薄膜技術センター(Center for Advanced Thin Film Technology)」が設立されたのがはじまりで、提携企業に最先端の研究開発及び製造施設を提供。協力関係にある企業は、IBM、ゼネラル・エレクトリック(GE)等世界に100企業を超える。
オルバニー・ナノテクは、「インターコネクト・フォーカス研究センター(Interconnect Focus Research Center)」、「先端薄膜技術センター」、「半導体製造技術研究組合(SEMATECH)」といった長・中・短期技術開発プロジェクトにも参加している。
主な資金源はニューヨーク州政府である。これまでに州政府及び業界パートナーから14億ドルの資金を獲得し、ナノエレクトロニクス、フォトニクス、バイオインフォマティクス、情報技術、環境システムの各分野を対象に技術導入センター「センターズ・フォー・エクセレンス(Centers for Excellence)」を設立した。これらのセンターは、ナノテク技術の商業化の加速に貢献している。
また、同州は経済開発省(Department of Economic Development)の下、経済開発関連団体、学術界、及び技術系企業によるコンソーシアム「ニューヨーク・ラブズ・ナノテク(NY Loves Nanotech)」18 を設立し、州内ナノテク産業の情報発信及び企業誘致に取り組んでいる。
同州は企業誘致のために、以下2点のインセンティブを設けている。
(8)ニューヨーク州ベネフィット:
ニューヨーク州内で実施される研究開発及び製造に利用される設備を非課税扱いとする。この結果、企業や研究母体は設備調達にあたり、数千ドルを削減できる可能性がある。また、ニューヨーク州は動産税を設けていない全米11州の1つであり、ニューヨーク州で事業を行う企業が所有する設備には税金がかからない。
(9)エンパイヤ・ゾーン・ベネフィット(Empire Zone Benefits):
州が定めた72のエンパイヤ・ゾーン内で雇用を創出した企業は、最大10年間、ほぼ「無課税」の状態で事業を行うことができる。具体的には、企業登記税(corporate franchise taxes)、消費税、固定資産税等の税金が実質的に免除又は減免される。
図5: ニューヨーク州のナノテク事業
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