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2.3 生産拠点の海外進出、流通システムの効率化(ブランズウィック)
 ここでも、ブランズウィックは積極的な動きを見せている。
 
(ブランズウィック、メキシコにボート工場を新設)
 ブランズウィックは、2002年、テキサス州マックアレン(MaAllen)から南にわずか5マイルのところにあるメキシコのレイノーサ(Reynosa)に、ボート組立工場を開設し始め、以来、毎年1つの割合で同地に工場を開設している。同工場の広さは8万平方フィートで、従業員数は150人である。部品調達もメキシコ国内で行う。
 レイノーサ工場で組立てられるボートは当初、ブランズウィック傘下のU.S.マリーン(U.S. Marine)が擁するベイライナー(Bayliner)というボートブランドのベイライナー175型ルナボートであった。このボートは初心者向けで、新造ボートで販売価格が、9,995ドルという破格の低価格で、通常だと中古ボートの価格である。ベイライナー175は、米国消費者向けの大衆ボートとしては初のメキシコ生産であり、これには業界内で賛否両論があった。
 U.S.マリーン本社では、2002年当時、約800人が勤務し、そのうち約500人が工員としてボート組立に従事していた。同社は、レイノーサ工場で生産を開始する前年に米国内4ヶ所のボート組立工場を閉鎖している。
 ゲンマーのジェイコブス会長は、ブランズウィックのメキシコ工場の開設について「労働者と消費者にとって屈辱的行為だと思う。」との批判声明を出している。これに対して、U.S.マリーンのビル・バリートン(Bill Barrigton)社長は、「原産地がどこかということより、価格の方を消費者は重視している。」、「コストの低い場所で生産することで、その恩恵を消費者に還元することの方が重要だ。」と反論した。
 メキシコ工場の人件費の具体的な数字は明らかにされていないが、北米の工員の給与に比べてかなり低いと見られている。しかし、バーリントン氏は、「ボート製造コスト全体に占める人件費の割合はわずか10%であり、レイノーサ工場の利点は、安くて高品質な部品及び材料が入手できることだ。」と説明する。
 しかし、ジェイコブスは、原産国がメキシコであることが米国消費者に分かると「10人中8人は敬遠するだろう。」、「ディーラーたちは、最近ベイライナーから離れ始め、我々のところに来ている。」、「ベイライナー(U.S.マリーン)のやっていることは、敵に武器を握らせているようなもの。」と述べている。
 ベア・スターンズのアナリストのジョー・ユールマン(Joe Yurman)氏は、「ブランズウィックがやっていることは、品質の良い初心者向けボートを10,000ドルで市場に出そうというもので、この型で10,000ドルは他に例がない。」、「この商品は、ベイライナーのブランド力を強めることになるのではないか。」と報告している。
 組立工場の海外移転に対する競合者や労働者からの批判が続く中、ブランズウィックは2003年、レイノーサに2つ目の工場を開設し、ベイライナー175より1クラス上のベイライナー185の組立を開始した。ブランズウィック・ボートグループのダスティー・マコイ(Dusty McCoy)社長によると、年間8,000から9,000隻のベイライナー185をレイノーサ工場で組立てている。(ニュース・センチネル(News Sentinel)紙4/27/2005)
 さらに、3つ目のレイノーサ組立工場を2005年末に完成させた。
 
(マーキュリー・マリーン、アジア工場を開設)
 マーキュリー・マリーンは、2005年第1四半期に、174,000平方フィートの新しいエンジン製造工場を中国に開設し、40〜60馬力の4ストローク船外機を製造している。同時に、マーキュリー・マリーンは、トーハツとの合弁事業による275,00平方フィートのエンジン製造工場を日本に開設し、2.5〜30馬力の4ストローク船外機を製造している。
 インターナショナル・ボートインダストリーによるとアジア工場(中国と日本)でのエンジン製造は、当初小型4ストローク船外機に限られていたが、マーキュリーの中核製品であるヴェラド(Verado)の中型機種もアジアでの製造が始まっている。
 ブランズウィックの船舶用エンジン部門(実質的にはマーキュリー・マリーン)は、2005年第2四半期(4〜6月)に前年同期比14%増加の売上高7億5,550万ドルを記録し、好調な業績をあげている。
 2005年7月29日付けボーティング・インダストリーによると、エンジン部門の好調は、中国と日本でのエンジン生産によるところが大きい。「最初の年は工場関連のコスト計上で帳簿には表れないだろうが、何年かすれば、それらの工場による投資効果が顕著になるだろう。」とバックリー会長は発表した。
 
 しかし、製造拠点の海外進出は良い面ばかりではない。製造部門の海外流出に過敏になっている米国労働者からの反発を受け、ブランズウィックでは、2004年にヴェラドの生産だけは製造工場を米国内に残すことを労組側と公約している。しかし、元々大型エンジンであったヴェラドに中型の新機種が加えられた際、これらの生産も海外流出は禁止との労組側からの申入れがあり、一部の例外を除き、申入れを受入れた経緯がある。ヴェラドのアジアでの製造は、この例外と見られているが、どの機種が製造されているのかは明らかにされていない。
 また、マーキュリー・マリーンでは、2003年に中国の同社社員がウィスコンシン州にあるエンジン工場の視察に来た際、地元新聞がそれについて、地元の雇用が中国に奪われるおそれがあると報じている。当時マーキュリー側は、「向こう3年間で、業務の一部を中国に移転する計画はあるが、地元の雇用機会を無くすことはない。」と発表し、「ウィスコンシン工場で生産していない小型エンジンの製造を中国で行い、設計や市場開拓、販売、流通の各業務は従来どおり米国内ですべて管理する。」と説明している。
 
(ブランズウィック、中国にボート工場を計画)
 ブランズウィックのバックリー会長は、エンジン工場の中国移転に加えて、180,000平方フィートのボート組立工場も中国南部に建設する計画を明らかにしている。同施設には、2つの工場と管理事務所、そしてショールームが併設される。同工場では、小型ボートの組立を2006年から開始する予定で、最高で年間5,000隻のグラスファイバー製ボートと15,000隻のアルミニウム製ボートを生産する見込みである。
 
(生産拠点の海外移転への厳しい見方)
 最近の中国ブームで、製造業の生産施設が中国に挙って移転している。この場合に、中国の最大の武器は2つある。1つは安い労働力が豊富にあることと、電力が安いことである。もう1つは、生産施設が非常に進んでいることである。中国の製造工場の多くは、日本の協力によって技術的にも品質的にも極めて高度である。さらに最近では、米国本社の多国籍企業が、資金的にも技術的にも援助して中国に製造工場を相次いで建設しているため、中国工場は益々高度化し、良質製品の製造を低価格で実現している。
 一方、米国では、1960年代から製造業務部門の海外流出が顕著になり、米国内における米国民の雇用機会確保とコスト削減との葛藤という課題が、1990年代以降数年に1度は政治争点や社会的関心事になってきた。特にここ数年においては、コンピューター関連業務や事務一般、顧客対応業務、会計事務といった分野を人件費の安い外国に委託する「オフショア・アウトソーシング」の浸透と米中通商の正常化によって、米国民の雇用機会が脅かされているとの感情が広がり、論争の種となっている。
 例えば、米国貿易赤字査定委員会(U.S. Trade Deficit Review Commission)の報告書によると、中国を恒久的正常貿易国(Permanent Normal Trade Relations)に認定する法案が成立して以来、中国との取引を激増させる米企業が増え、「2000年10月1日から2001年4月30日の間だけでも、80以上の米企業が生産部門を中国に移転するつもりである。」と発表している。
 また、「1992年以降、米国内におけるおよそ76万の職が米国の対中貿易赤字のために喪失している。」、「それはちょうど、メキシコヘのアウトソーシングによって喪失した職の数に等しい。」という報告もある。
 そういった産業動向が、米国雇用機会の危機としてみなされて何年も経つため、「国産品を買おう。」という社会的感情機運も改めて高まっている。そんな中、国産製品が主流だったプレジャーボートの組立分野で、ブランズウィックが外国に移転したことは、その競合社らが国産主義を持ち出して批判をする格好の材料となっている。
 
(3Dソフトウェアで生産性効率化を図るマーキュリー・マリーン)
 生産性の効率化を図るため、マーキュリー・マリーンは、オートデスク(Autodesk)社のDWF(Design Web Format)を導入している。オートデスクは、DWFというデザインのソフトウェアを開発する会社である。DWFは、3次元のデザインを他の部署と簡単に共有することで、研究開発(R & D)を飛躍的に効率化させるものである。
 マーキュリー・マリーンは、DWFとDWF Viewer 5を社内の標準ソフトウェアとして導入し、社内をはじめ、納品業者とも製品の3Dイメージを簡単に、そして安全に共有することで、設計から開発管理、複雑なデザインに関する確認を関係者間で行っている。
 2004年10月のPR・ニュース・ワイアー(PR News Wire)によると、世界規模での競争や利益率の低下、さらに大量の注文生産需要の高まりから、ボートメーカーや舶用エンジンメーカー間で、斬新な開発への圧力が強まるばかりか、さらには、開発から市場投入までの期間短縮化も重要になってきた。設計者によるデザインを寸分違わず誰かと共有したり、生産工程の管理及びその確認、それらの情報を他の部署や取引相手と正確かつ迅速にやり取りすることが、競争力増強に直結するようになってきた。
 
(物流拠点の整備)
 ブランズウィックは、ケロッグ・マリーンのあるコネチカット州オールド・ライムを東海岸のP&A拠点としたが、これと平行して、南部にも流通拠点を置こうとしている。ブランズウィックのボート部門は、テネシー州ノックスビルに本拠地を置いており、複数のボート工場を同州に建設し、P&A流通センターもノックスビルに建設する予定である。
 また、バックリー会長は、「ボート輸送費を考慮すると、大型ボートの製造を米国の西部でやるよりは東部でやる方が合理的。」、とも語り、「いくつかのブランドをテネシー工場に移行することを検討中。」、「輸送費が非常に高いため、西海岸で製造している大型ボートは東部で造るようになるだろう。」(ノックスビル・ニュース(Knoxville News)、6/10/2005)という方針を掲げている。
 工場や流通センターの建設地選定には数ヵ月を要する模様である。テネシーには既に、シーレイ(Sea Ray)の工場がノックスビルとテリコ(Tellico)にある。


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