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1.3.2 エンジンメーカー
 ミルウォーキー・ジャーナル・センティネル紙(Milwaukee Journal Sentinel、1/7/2005)によると、米国船外機市場は、メーカー各社が数字を非公開にしているため、正確なブランド別市場占有率は分からないが、業界最大手のマーキュリー・マリーンは、市場の約38%を占めていると発表している。その後をヤマハ・マリーン・グループが約33%で追い、以下BRP、ホンダ、スズキ、ニッサンが続く。
 
(2分する船外機の供給先)
 総合ボートメーカーのブランズウィックが大手船外機メーカーのマーキュリー・マリーンを買収したことから、ブランズウィックは自社ボートに自社エンジンを搭載しやすい立場にいる。しかし、米国には独立系の中小規模ボートメーカーが1,000社以上存在することから、マーキュリー・マリーン以外の船外機メーカーは、ブランズウィック系列以外のボートメーカーに売り込むことで、シェア拡大を狙っている。
 
<Mercury Marine Group>
所在地:6250 W. Pioneer Rd., Fond Du Lac, WI 54935-5636
電話:920.929.5040/ ファックス:920.929.5893
従業員:ブランズウィックを参照
年間売上高:ブランズウィックを参照
年間純利益:ブランズウィックを参照
 
【概要】
 マーキュリー・マリーンは、ブランズウィックに買収されてから、そのエンジン生産部門となっている。
 マリーンエンジン製造の大手で、特に、高性能(ボートレース用)エンジン市場で強い。事業を大別すると、「マーキュリー・アンド・マリナー・アウトボード(Mercury and Mariner outboards)(船外機)」、「マーキュリー・マークルーザー・スタンドライブ・アンド・インボード(Mercury MerCruiser sterndrives and inboards)(船内外機、船内機)」、「マーキュリー・アンド・タイフーン・プロペラ(Mercury and Typhoon propellers)(プロペラ)」、「マーキュリー・レイシング・プロダクト(Mercury Racing products)(ボートレース用エンジン)」という部門に別れている。そのほか、ジェット・ドライブやインフレイタブル・ボート、エンジン部品、アクセサリーも出荷している。2004年には「マーキュリー・リマニュファクチュアリング(Mercury Remanufacturing)(部品交換、整備サービス)」という新部門を立ち上げた。
 代表的な製品は、「ヴェラド(Verado)」という4ストロークの高出力船外機である。従来に比べて静かで、速いという評価を受けている。さらに、直噴技術(direct fuel injection: DFI)によって排ガス量を抑え燃費を向上させた「オプティマックス(OptiMax)」も注目されている。
 運営拠点はウィスコンシンにあり、国内の製造工場と流通拠点はテキサス、ニュージャージー、フロリダ、カリフォルニア、オクラホマ、ジョージアにあり、国外ではメキシコとイギリスにある。
 
<Yamaha Motor Corporation, USA>
所在地:1270 Chastain Road, Northwest Kennesaw, GA 30144
電話:866.894.1626(船外機部門)
電話:800.962.7926(ウォータークラフト部門)
従業員:3,700人
年間売上高:21億4,750万ドル
年間純利益:3億7,980万ドル(親会社の2004年実績)
 
【概要】
 米国ヤヤハ・モーターのマリーン事業は、「ウォータークラフト」部門と「船外機」部門に分かれている。前者がPWCのウェイブランナー(WaveRunner)とプレジャーボートを生産、後者が船外機を生産し、米国内販売部門のヤマハ・マリーン・グループ(Yamaha Marine Group)が製品を流通させている。
 米国ヤマハ・モーターには部門が全部で5部門あり、残りの3部門は「オートバイ」、「アウトドア」、「スポーツ」である。同社はヤマハ・モーター株式会社の米国子会社であり、同社全体では35ヵ国に約60ヵ所の工場を所有している。
 
表7 2004年におけるヤマハ・モーター(親会社)の地域別売上高
売上高($) 同社全体に占める割合(%)
日本 2,276,000,000 23
日本以外のアジア 1,446,000,000 15
北米 3,185,000,000 33
欧州 2,207,000,000 23
その他 544,000,000 6
9,658,000,000 100
純利益 379,800,000
 
表8 2004年におけるヤマハ・モーター(親会社)の部門別売上高
売上高($) 同社全体に占める割合(%)
オートバイ 5,073,000,000 52
マリーン製品 1,988,000,000 21
パワー製品 1,719,000,000 18
その他 878,000,000 9
9,658,000,000 100
 
 ウォータークラフト部門では、ボートについてはモーターボートだけを7種類生産している。
 一方、エンジンについては、船外機を4シリーズから計12機種生産し、業界大手の一角を担っている。マーキュリー・マリーンからダンピングで訴えられたことで深刻な問題に直面しているものの、J.D.パワーの賞を受賞したり、積極的な販売促進戦略を展開し、健闘している。
 
 ヤマハ・マリーン・グループは2004年に卸売部門の売上高で前年比5%増、小売部門で前年比10%増を記録した。競合社の成長率平均が卸売部門で3%増、小売部門で5%増(NMMA)だったことを考えると、ヤマハは好調を維持していると言える。同社の市場シェアについて、ダイスコウ社長は「販売された船外機の3台のうち1台がヤマハ製」(ボーティング・インダストリー、7/15/2005)と記者会見で発表した。つまり、2004年の同市場における同社のシェアは33%ということになる。特に、150馬力を超える船外機市場で同社のシェアは50%前後だという。
 
<Bombardier Recreational Products Inc.>
所在地:726 Saint-Joseph Street, Valcourt, Quebec, Canada JOE 2L0
電話:450.532.2211/ ファックス:450.532.5140
従業員:6,200人
年間売上高:24億9,000万カナダドル(親会社の2004年実績)
年間純利益:2,210万カナダドル(親会社の2004年実績)
 
【概要】
 ボンバルディア・レクリエイショナル・プロダクツ(BRP)は、カナダのボンバルディアが100%出資する子会社である。1942年に設立され、豪雪地帯を走るキャタピラートラックの生産で成長した。現在、一般に知られるスノーモービルは、キャタピラートラックから派生した製品である。BRPは1970年代以降、鉄道車両、航空機及び部品をはじめ、戦闘機の技術サービス、大型輸送車、電車、モノレール、路面レール車、ケーブルカーの製造に事業を拡大するとともに、全世界に市場を拡張することで巨大多国籍企業となり、ボンバルディア株式会社として知られるようになった。2003年には、スノーモービルや全地形万能型レクレーションカー(ATV)を中心とするレクレーション製品部門を分離独立させ、それが現在のBRPとなっている。
 主要製品は、「スキードゥ(Ski-Doo)」のブランド名で知られる業界最強のスノーモービルや「シードゥ(Sea-Doo)」で知られるPWCをはじめ、ATV、ジェット ボート(スポーツボート)、船外機、オートバイエンジン、カートエンジン、小型飛行機用エンジンである。
 同社は、事業を「パワースポーツ」と「マリーンエンジン」という二つの部門に分けている。「パワースポーツ」部門には、スノーモービルとPWC、ATV、ジェット ボートが含まれ、「マリーンエンジン」部門では、「ジョンソン(Johnson)」と「エヴィンルード(Evinrude)」という2種類の船外機を製造する。2004年の総売上高は約30億ドルで、そのうち2つの船外機ブランドであるジョンソンとエヴィンルードの売上高合計は6億9,800万ドルであった。
 
 2005年2月〜4月におけるパワースポーツ部門の売上高は、前年同期の4億8,420万ドルから4億7,180万ドルに微減した。売上げ減の理由は、米ドルに対しカナダドルが強くなったためである。同期の純利益は、前年の660万ドルから3,300万ドルに激増した。これはPWC部門での増収が純利益増に貢献したものである。PWC好調の理由は、売れる時期との兼ね合いから製造時期を次の会計年度に先送りしたため、在庫費と製造コストが抑えられたことによる。
 一方、同期におけるマリーンエンジン部門の売上高は、前年同期の1億5,110万ドルから1億3,860万ドルに減少し、480万ドルの損失を計上した。前年同期は1,160万ドルの損失だった。エヴィンルードE-TECエンジンの販売台数は増えたものの、為替レートが不利になったことから相殺された。
 
表9 2004年におけるボンバルディアの部門別売上高
売上高($) 同社全体に占める比率(%)
航空機関連 8,498,000,000 53
車両及び輪送関連 7,205,000,000 44
金融 512,300,000 3
事業部門間取引 (190,000,000)
合計 16,025,000,000 100
純利益 (66,900,000)
 
 ボンバルディアの主要事業所は、パワースポーツ部門工場(ウィスコンシン)、パワースポーツ部門流通センター(カナダ)、販売拠点(ウィスコンシン)、船外機工場(ウィスコンシン、イリノイ、ノース・カロライナ、メキシコ、中国)、船外機流通センター(テキサス、ウィスコンシン)スポーツボート工場(イリノイ)、研究・開発・設計(カナダ)で、ディーラーは北米に約4,000軒ある。全体の従業員数は6万4,600人である。
 
 BRPの船外機事業の始まりは、当時米国最大の船外機メーカーのアウトボード・マリーン(Outboard Marine)が2000年に破産申請した翌年、ジョンソンとエヴィンルードという2つのブランドをアウトボード・マリーンから買収したことによる。
 ジョンソンとエヴィンルードは、品質管理に苦労した製品で人気が低下していたが、BRPが買収してから5年間にわたり改良を重ね、「以前と違って、良質かつ優秀なエンジンに生まれ変わった」とされている。特に2002年以降、ジョンソンとエヴィンルードを同じカタログでの製品紹介・宣伝を打ち切り、別々に掲載し、エヴィンルードを「パワーとスピードのあるハイテク製品」と位置づけ、一方、ジョンソンの特性を「信頼性の高い製品」という宣伝文句で強調した。このようにしてボートディーラーと消費者に対し、大々的な宣伝と営業活動を同時にしかけ、売れ行きが少しずつ上向きになっている。両エンジンは破産申請する前、船外機市場で24%のシェアを獲得しており、BRPの船外機部門の副社長ロック・ランバート(Rock Lambert)氏は、それを取り戻すことを目標にしている。
 
 BRPは、2006年型として115馬力と130馬力のV4E-TEC機種と、150馬力、175馬力及び200馬力のV6E-TEC機種を出荷し始めた。その結果、エヴィンルードE-TECエンジンは2005年秋から、40〜250馬力の間で5機種13型の製品種を市場に出すことになった。
 
 ウィスコンシン州スタートヴァント(Sturtevant)にある工場で400人を雇用してジョンソンとエヴィンルードを生産するBRPのランバート副社長は、日本製エンジンとの競争について、「うちのエンジンは一時、市場でかなり強い地位にいたため、ブランド力があるし、BRPもボンバルディアの名前と、娯楽製品市場での信頼があることから、競争には十分に立ち向かえる。」と話している。
 
<American Honda Motor Co., Inc.>
所在地:1919 Torrance Blvd., Torrance, CA 90501-2746
電話:310.783.2000/ ファックス:310.783.2110
従業員:2,300人
年間売上高:807億500万ドル(親会社の2005年推定)
年間純利益:45億3,600万ドル(親会社の2005年推定)
 
【概要】
 ホンダ・モーターの米国子会社で、6部門における製造・販売が米国ホンダの業務である。6部門とは、「ホンダ自動車」、「アキュラ自動車」、「ホンダ・オートバイ」、「ホンダ・マリーン」、「ホンダ・パワー製品」、「ホンダ・エンジン」である。
 米国ホンダのマリーン事業は大別して2つに分かれる。1つは、オートバイ部門に組み込まれているPWCで、もう1つはホンダ・マリーンに組み込まれている船外機である。
 マリーンエンジン部門では、船外機とジェット・ドライブの2つを生産する。船外機市場向けには、2〜20馬力、25〜90馬力、そして115〜225馬力で6機種ずつ合計18機種を生産している。同社のジェット・ドライブは、浅い湖や川での小型フィッシングボート向けの製品で、35、65、105馬力の4ストロークエンジン3機種がある。
 ホンダ・モーターは1959年、零細のオートバイ販売店をロサンゼルスに開店させて米国事業部を立ち上げた。1979年には同社初の米国工場を設立し、以来、自動車メーカーとしては現地化を最も積極的に進めた。それと同時に、同社の米国内製造部門を管理する子会社を分野別に設立してきた。
 
表10 2004年におけるホンダ・モーター(親会社)の地域別売上高
売上高($) 同社全体に占める比率(%)
北米 43,534,000,000 56
日本 15,606,000,000 20
日本以外のアジア 7,682,000,000 10
欧州 7,380,000,000 9
その他 4,020,000,000 5
合計 78,222,000,000 100
 
表11 2004年におけるホンダ・モーター(親会社)の部門別売上高
売上高($) 同社全体に占める比率(%)
自動車 63,171,000,000 81
オートバイ 9,547,000,000 12
金融サービス 2,326,000,000 3
その他 3,178,000,000 4
合計 78,222,000,000 100
*「その他」には芝刈り機や除雪機、PWC、マリーン・エンジン、発電機、水ポンプ、関連の部品及びアクセサリーが含まれる


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