4.1.2.3 MAN B&W
大型低速エンジン製造最大手のドイツMAN B&W Dieselは、2000年6月、高速エンジン・メーカーRuston、Paxman、Mirrless Blackstone、Regulateurs Europaを傘下に持つフランスALSTOM Dieselグループを買収し、本格的に高速エンジン市場に参入した。この戦略的買収により、Paxman 12VP185、Ruston 20RK270、RK280等の高速船市場で実績のあるエンジンが、MAN B&W製品として販売されることとなった。新たな高速エンジン部門の拠点は英国Stockportである。
現在イタリアFincantieri造船所で建造中のスウェーデンRederi AB Gotland向けモノハル型高速フェリー(122m、乗客定員800人、車両160台)には、世界で最もパワフルな1,000r/minディーゼル・エンジンRK280 4機が搭載される。推進装置はZF6,000NRHギアボックスとKamewa S140 II ウォータージェットで、最高速力は40ノットである。
また、オーストラリアINCAT社が現在建造中の船速50ノットの新Revolutionシリーズの軍用大型カタマラン(112m)にも、初めてRK280 4機(出力36MW)が搭載されることが決定している。
2005年春に就航した英国Brittany Ferries社の新造カタマラン型フェリー(INCAT建造)にはMAN B&W 20RK270が採用された。同船の主な仕様は以下の通りである。
Britanny Ferries社「Normandie Express」の要目概要
前述の通り、現行の高速船HSCの推進装置は、高速ディーゼル・エンジンとウォータージェットの組合せが主流である。
通常プロペラは、高速ではキャビテーションが発生し効率が低下するとともに、損傷も激しくなるが、ウォータージェットは高速でも効率の低下がなく、耐性もあり、35ノット以上の高速域での優位性は明らかである。また、高速での旋回や微速でのその場回頭、スムーズな前後推進性能等の運動性も優れている。
また、スクリュー・プロペラと異なり、船底部より下にはみ出す部分が無く、浅海域での航行が容易であるため、喫水の浅いマルチ・ハル船型の高速船に特に適している。
さらに、ノズルの噴射方向を変える事で船の向きを変えられるため舵の必要が無く、ノズルの逆噴射機構を用いた急制動が可能であるため、高速運航時の安全性が高まるという利点もある。
ウォータージェットのメーカーとしては、英国Rolls Royce傘下のKamewa(スウェーデン)とフィンランドWärtsilä傘下のLips(オランダ)の欧州メーカー2社が大型高速船市場をほぼ独占している。
Kamewaのウォータージェットには、100%アルミ製のAシリーズ等4シリーズがあるが、モノハル船型、マルチ・ハル船型両方の大型フェリー、大型艦艇に搭載されるのは高出力のSシリーズである。既に世界中で1,400隻以上のフェリーがSシリーズを搭載している。
Kamewaウォータージェットはポンプ効率の高さが特徴で、同出力での高速化、または出力と速度を一定に抑え、大幅に燃費を改善することも可能である。
同製品は、一定のRPMでは、船速にかかわらず一定の出力を吸収するため、エンジンに過大な負荷を与えることがなく、よってエンジンの故障を少なくし、ライフサイクルを伸ばすことができる。
ウォータージェットの振動・騒音レベルは、20ノット以上の高速時には、プロペラに比較して50%以上低い。
また、ウォータージェットを2基以上使用することにより、操船性が向上し、正確で迅速な離着桟が可能となる。
Sシリーズは腐食しにくく耐性の高いステンレス製である。
現在、Rolls Royceは現行のSIIシリーズを基礎に、次世代のウォータージェットSIIIシリーズを開発中である。新製品は新たな操縦・可逆推進方法を採用し、軽量化され、信頼性も向上している。制御システムにはHelmsManレバーを採用、人間工学的な使いやすさと低価格化を同時に実現する。新製品は2006年に市場化される予定である。
Kamewaウォータージェットは、MTU高速エンジンと組合せた採用例が多い。
KamewaウォータージェットSIIシリーズ
(搭載例:Fred. Olsen「Benchjigua Express」)
カナリア諸島で就航したFred. Olsen SA社の大型トリマラン(三胴船)高速フェリー「Benchijigua Express」にはKamewaのウォータージェットが採用された。
オーストラリアAustal社が建造した同船は、船長126.7m、船幅30.4m、最大搭載旅客1,350名、収容可能車両350台(レーン長450m)、最高速力40.5ノットという革新的高速フェリーで、Kamewaウォータージェット3基(中央ブースタージェットとして180 BII型1基、両サイドに可逆推進対応のKamewa 125 SII型各1基)、及びUlstein Aquamasterバウ・スラスター(UL601型格納式アジマス推進器)2基を搭載し、ロールスロイス推進制御システムが上記のウォータージェット推進器とバウ・スラスターとをリンクすることによって、優れた操縦性を実現している。
これら推進システムを駆動するMTU社製4ストローク20V8000M70型エンジン4基の出力は各8,200kWだが、2006年10月頃にはこれを各9,100kWまでにアップグレードし、船速を2ノット程度向上させる予定である。
同じくAustal社からFred. Olsen SA社傘下のLineas Fred. Olsen社に対して2003年に引き渡されていたカタマラン型高速貨客フェリー「Bocayna Express」(全長66.2m、幅18.66m)にもKamewaウォータージェットが搭載されており、航行速力35ノットを超えるスピードで旅客と車両を輸送している。4
4.1.3.2 Wärtsilä Propulsion: LlPSウォータージェット
2002年にフィンランドの大手エンジン・メーカーWärtsiläの傘下に入り、社名をWärtsilä Propulsionと改めたオランダの舶用推進器メーカーLipsのウォータージェット・システムは、その幅広い製品レンジと顧客ニーズに合わせた柔軟性が特徴である。
主な特徴
●幅広い製品レンジ。
●CFD分析により、船体に最も適した吸水方法をデザイン。
●顧客ニーズに合った柔軟性の高いデザインと設置位方法を提供。
●初期段階における各関係者との密接な協力により、低重量、低コスト、高効率を実現。
●スラスト・ベアリングを船内に配置するデザインのため、海水による腐食がなく、メンテナンスも容易。
●動く部品数を極力減らしたデザインにより、信頼性が向上。
●ジェット・ボウル内の回転翼数が他社製品よりも少なく、故障が少ない。
●ブリッジ・コントロール・システムを含めたパッケージで提供。
LIPS LJ65E ウォータージェット
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