日本財団 図書館


4.7 ロシア
(ロシア造船業)
 ロシアの造船業は、海軍向けの艦艇建造から商船建造へのシフトを進めている。ロシアにも商船建造能力はあるが、ソ連時代には商船建造は主に衛星国家の担当であったため、技術の蓄積がなく、競争力が低い。また、ロシアでは旧国営企業の所有権をめぐる政治的、商業的な問題が多い。86
 
 2005年8月、Alexander Nesis所有のサンクトペテルブルクに拠点を置く持ち株会社ICTは、サンクトペテルブルクの大手商船造船所で、同社最大の海事関連資産であるBaltic Plantを、ビジネスライバルのSergei Pugachyovに1億ドル以下で売却した87。Baltic Plantの2004年の売上は96億6,000万ルーブル(3億4,500万ドル)、税引き後利益は10億188万ルーブル(3,600万ドル)であった。Balticの2008年までの受注額は7億ドル、うち6億ドルが新造船、1億ドルが構造物である。同造船所を買収したPugachyovは、MezhprombankとNorthern Shipyardを所有しており、ロシアの2つの主要商船及び艦艇造船所の所有者となった。88
 
 2002〜2010年のロシア政府の輸送システム近代化プログラムでは、港湾の開発と226隻の新造船建造が計画されている。その船種は、乾貨物船(230万DWT)、タンカー(400万DWT)、旅客船、サービス船である。予算は、国家基金及び民間セクターからの投資を予想しており、港湾開発に50億ドル、新造船建造に70億ドルの計120億ドルが配分されている。89
 
86 www.fairplay.co.uk 1st September 2005
 
 現在、ロシアの造船業は、国営Admiralty Shipyardsと4大造船企業が独占している。
 
 ICTは、Baltiysky Zavod(BZ)を所有している。
 
 Mezhprombankは、最近、ICTからBaltic United Shipbuilding Corp(BOSK)を買収した。BOSKを構成する企業は、Proletarsky Plant(舶用機器、エンジン製造)、SKBK(ボイラー製造)、砕氷船設計公社及び造船造機中央科学調査研究所(砕氷船設計)である。また、Mezhprombankは、子会社NPK(New Projects and Concepts)グループを通じ、艦艇建造専門造船所Northern Shipyard(Severnaya Verf)を所有している。
 
 Nizhny Novogorodに拠点を置くUnited Metallurgical Factories(UMZ)内のMNP(Marine Oil and Gas Projects)グループは、海洋・河川航行用船舶建造を主要業務としており、5つの造船所、即ちAlmazy Building Co、Nizhnedgorodskiy Teplokhod Shipyard、Volgograd Shipyard、Astrakhan Third International Shipyard、Krasnoye Sormovo Shipyardを傘下に持つ。
 
 Volgotankerグループは、Kama Shipyard、Astrakhan Maritime Plant、Rybinsk Shipyard、及びロシアの運河、河川沿いに数箇所の造修所を持つ。
 
 ロシア造船業の地理的な中心は3大造船所のあるサンクトペテルブルク市であり、舶用機器メーカーや船舶設計コンサルタント等の支援産業も集中している。
 
【Admiralty Shipyards】
 Admiralty Shipyardsは、商船及び潜水艦を含む各種艦艇の設計、建造、改造を行っている。主要業務は以下の通り。
●新造船建造、及び主に同社建造船舶(タンカー、潜水艦等)の修繕。
●フレーム、スプリング、セクション、コンパートメント等の機械部品の製造。
●舶用家具の建造。
●電気めっき作業。
●漁船関連製品の製造。
●自社鉄道駅の運営、他社製品の倉庫管理、タグ・サービス。
 
 2004年10月、Admiraltyは、国営Rosneftグループ子会社のSevmorneftegas向け70,000DWT型氷海タンカー2隻を受注した。これらはAdmiraltyにとって最大規模のタンカーで、2007年末〜2008年に竣工予定である。受注金額は1隻当たり6,000万ドルと見積もられている。90
 
90 Fairplay 01 Sep 2005
 
【Baltiysky Zavod(BZ)】
 サンクトペテルブルクに位置する同造船所は、新造船建造用船台を3台持つ。350mのA船台はロシア最大で、100,000トンまでの建造が可能である。ロシア海軍向け艦艇の建造に加え、商船建造市場にも進出し、ケミカル船、電力供給ユニット、オフショア施設用砕氷船等を建造している。現在、同造船所は6,000人を雇用している。
 
 2004年に、BZは、ロシア軍需産業史上最大の受注となった10億ドルに及ぶ契約金額で、インド海章向け艦艇を引き渡した。また、商船建造では、ドイツTransocean Shipmanagement社向けにケミカル船2隻を引き渡した。2004年9〜10月には、原子力砕氷船「50 Let Pobedy」の修繕・建造を行った。同年11月には、オランダRensen Shipbuilding向けの河川用タンカー6隻を竣工した。2006年には、ノルウェーFosen Mek造船所向けの船体2隻を、5月と11月にそれぞれ引き渡す予定である。また、同年6月には、Rosmorport向けディーゼル電気推進の多目的砕氷船の第1隻目を進水させる。同船は、10月にテストを開始し、12月に海上試運転を行う予定である。
 
 さらに、BZは最新鋭ROPAX船2隻を建造し、2008年1月と4月にそれぞれ引き渡す予定である。追加2隻のオプションも有するこれらの受注総額は3億ドルとされている91。BZはこれまでロシア国内船主向けの小型タンカーの建造、及び欧州造船所向けの船体建造が主要業務であったが、今回の高度技術を要するROPAX船は、旧ソ連地域で最も高い船価の輸出用船舶である。同ROPAX船は10デッキを有し、旅客定員は300人、トレーラー200台のスペースとヘリコプター・パッド(離着陸帯)を持つ。92
 
 BZは、艦艇用の低ノイズ・プロペラを製造してきたが、同プロペラの商船向けビジネスも開始した。同社は、特許取得済みのブレードにより、推進効率が10%改善し、船主にとっては年間7万ポンド分の燃料及び修理コスト削減になるとしている。2005年7月には最初の受注を獲得した。
 
91 Fairplay 01 Sep 2005
 
【Severnaya Verf】
 Severnaya Verfは、全長170m、幅20.5mまでの船舶の建造・修繕が可能な船台8台を持つ。船台には30〜100トン・クレーンが装備されている。また、溶接、配管業務と船体建造も行っている。
 
 1997年、同社は国内向け大型漁船建造のリーダーとなる計画を開始し、大型トロール船を含む年間15〜20隻の漁船建造をめざしている。
 
【MNPグループ】
 ロシア国内では、河川と運河の大規模なネットワークが物流に広く利用されている。そのため、ロシアでは沿岸航行用船舶と河川航行用船舶の建造が盛んであるが、それらを建造する造船所の大部分はMNPグループの傘下である。MNPグループは、他にも主に国内顧客向けに小型艦艇や大型タンカーの建造を行っている。
 
 グループ傘下のKrasnoye Sormovo造船所では、15,000DWTまでの商船の建造を行っている。2001年に小型タンカー11隻の建造を開始したが、これらはロシアの河川で運航される最大のタンカーである。また、2005年6月には、Azerbaijan State Caspian Shipping Co(KASPAR)向けの13,000DWTタンカー2隻を起工した。これらタンカーは、カスピ海で原油と石油製品を輸送する最大のタンカーとなる。
 
 さらに、グループ傘下のVolgograd造船所では、Palmali Shipping向けの河川・海洋貨物船「Ilyas Efendiev」を竣工した。同船は、ウクライナのMaritime Engineering Bureau of Odessaが船主とともに開発した革新的デザインの貨物船で、シリーズ船6隻中の3隻目である。6,970DWTの同船は、ロシア内陸水路最大の貨物船で、アジマス・ラダー・プロペラ2基で駆動される初の貨物船である。
 
 Volgograd造船所は、TT Shipping向け5,420DWTプロダクト・タンカーのシリーズと、Kokoda Product Carrier向け6,500DWTタンカー3隻を建造している。
 同造船所は西ヨーロッパにも顧客を持っている。オランダRensen Shipbuilding社は、ケミカル・タンカーとコンテナ船の船体建造を同造船所に発注し、それらはAstrakhan III International造船所で建造中である。最終艤装はオランダで行われる。6隻のコンテナ船体建造の契約金額は900万ドルで、2006年末までに建造が完了する予定である。Astrakhan III International造船所は、スウェーデンCatfish Shipping社向けの船体6隻の建造も受注している。
 
(ロシアにおける砕氷船、LNG船の需要)
 ロシアは、ソ連崩壊後の海運とインフラ投資の衰退から回復しつつあり、再び北極海航路沿いのオフショア及び沿岸地域の天然資源(ミネラル、木材、原油、ガス)の開発プロジェクトが活発化している。2003年にロシア政府が発表した「2020年までのエネルギー政策」では、北極海での石油・ガス製造センターの建設を優先課題としてあげている。ロシア北極海西部からの製油及びガス輸出量は、2012年までに4,500万トンに達すると予測されている。93
 
 北極海における石油とガスの開発の活発化により、砕氷船の需要が高まっている。北極海を運航するタンカーは、多層の厚い氷と、マイナス55℃にもなる気温に対応しなければならない。砕氷船の数と能力は、タンカーの増加と大型化に追いつくことができない状況である。
 
 ロシアのNorlisk Nickel社は、自社発注した新造船隊を持つ金属企業である。2006年初めには、砕氷船の助けをほとんど必要としない、14,500DWTのディーゼル電気推進コンテナ船を北極圏航路に就航させる予定である。同船はフィンランドで開発された砕氷タンカー(DAT: ダブル・アクティング・タンカー)技術を採用している。同社は2009年までに貨物船隊を4〜6隻に拡大する予定である。
 
 さらに、欧州地域初のLNG輸出ターミナルとなるMelkoyaの開発により、147,000m3型LNG船が必要となっている。Melkoya海域は凍結しないが、新造船は通常のLNG船よりも5%多くの鋼材を要する。Melkoyaからは年間70隻分のLNGが輸出されると予測されており、その内、50隻分はノルウェーのエネルギー企業Statoilが主体となったチャーター船隊が輸送を担当する。
 
93 1st September 2005 www.fairplay.co.uk


前ページ 目次へ 次ページ





日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION