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4.5 ノルウェー
(ノルウェー海事産業)
 ノルウェーは150年以上の間、世界の海事産業のメジャー・プレーヤーである。同国の海事産業は、関連セクターと海運業の高度で相互関係の深いクラスターに発展している。海事クラスターは、海運からファイナンス、造船から研究開発まで全ての海事分野を含む総合的なものである。
 
 ノルウェーの海事クラスターは、技術競争力、高度専門性、イノベーション等の面で、世界で最も競争力の高いクラスターのひとつとなっている。また、同国経済の重要セクターである海運セクターに主導されていることが特徴である。ノルウェー商船隊は世界第3位の規模で、世界の商船の10%に相当する。多くの商船がノルウェー船主の所有であるが、第三国経由の国際貿易も行っている。海運業の運賃収入は、同国輸出収入(石油、ガスを除く)の20%のシェアを占める。85
 
 ノルウェー海運業は、ファイナンス、保険、船級協会、研究開発機関等の総合海事ネットワークに支えられており、ノルウェー海事産業全体の専門性と競争力の維持に貢献している。
 
85 www.marinenorway.com - The Norwegian Maritime Industry
 
(ノルウェー造船業)
このような世界的な海運業の存在にもかかわらず、ノルウェー造船業の世界シェアはそれほど高くない。しかし、近年、多くの欧州造船国が極東造船国にシェアを奪われたこととは対照的に、ノルウェー造船業は、同国海事クラスターのネットワークと技術力、組織力を背景に、専門性の高いニッチ市場でシェアを伸ばしている。
 
 ノルウェー造船業は、小型漁船や艦艇の建造を中心に発達した。現在では、オフショア・サービス船、半没型建造物、採掘船、及びオフショア関連ユニットや機器の建造・製造が主なビジネスである。
 
 1970年代の北海油田の発見が、オフショア関連船舶・機器製造というニッチ市場の発展のきっかけとなった。この発展には、ノルウェーの海事クラスターのネットワークと技術開発力が寄与したことは言うまでもない。
 
 特殊技術とニッチ市場に特化しているノルウェー造船業は、他の一般造船国に比べて極東地域との価格競争の影響を受けにくい。価格の低さではなく、専門性と同国造船業と舶用産業の協力関係が、ノルウェー造船業の強みである。
 
 ノルウェー造船業も他の欧州造船国と同様に、2000年初頭の造船不況により、いくつかの造船所では人員削減が実施されたが、受注の回復は早く、竣工量の落ち込みは一時的にとどまっている。(表4-5-1)2004年時点でも受注は好調で、受注額は120億ノルウェー・クローネを超えている。
 
表4-5-1 ノルウェーの新造船竣工実績(1999〜2003年)
竣工年 1999 2000 2001 2002 2003
隻数 71 56 64 77 87
CGT 464,070 373,487 446,160 558,599 660,352
出典:CESA Annual Report 2003-2004
 
 ノルウェー海事産業は、世界のエネルギー市況に影響されやすいため、ノルウェー造船業の不況は、1970年代後半と80年代初めの世界的な原油危機と時期が一致している。また、ノルウェー造船業の回復は、原油市場の回復に加え、中国の経済発展によるところが大きい。
 
 ノルウェー国内には30の造船所があり、大部分の造船所は欧州造船所の水準では小規模である。主要造船所は3大造船グループAker Yards Group、Ulstein Group、Umoe Groupの所有である。以下にその概略を述べる。
 
【Aker Yards Group】
 Aker Yards Groupは、全世界に13の造船所を所有し、売上高では世界第4位の大造船企業である。同社のノルウェー国内の造船所は、Aker BraattvagとAker Brevikである。
 Aker Braattvag造船所の顧客の大部分は石油会社と関連サービス企業で、同造船所はオフショア船建造のグローバル・リーダーである。その他、ケーブル敷設船、ダイビング支援船、RORO船、地質調査船、ケミカル・タンカー、フェリー、トロール船等の建造も行っている。従業員数は4,000人である。
 Aker Brevik造船所は、プラットフォーム補給船(PSV)、アンカー・ハンドリング・タグ・サプライ船(AHTS)等のオフショア船建造を専門としているが、ROROフェリー、漁船、オフショア及び陸上プロセス・モジュールの建造も行っている。従業員数は約2,800人である。
 
【Umoe Group】
 ノルウェー南部Mandalに位置するUmoe Mandal造船所は、Umoe Gmupの100%子会社で、ノルウェー海軍向け艦艇に使用されることの多いファイバー強化プラスチック(FRP)製品を製造している。Umoe Mandalは、艦艇及び商船建造工程オートメーション化への研究開発に多額の投資を行っている。
 
【Ulstein Group】
 Ulstein Groupは、オフショア産業向け特殊船、ケーブル敷設船、メンテナンス及び建設作業船の開発、建造、販売に高い専門性を持ち、船舶の設計、建造以外にも舶用電気・電子システムの製造を行っている。同社は約400人を雇用し、その4分の3は、ノルウェーUlsteinvikに位置する造船子会社Ulstein Vertの従業員である。
 
 ノルウェー海事クラスター内の全セクターの総雇用者数は約75,000人で、その多くは造船セクターではなく、サポート・セクターに従事している。例えば、ノルウェー海事保険会社の世界シェアは30%に上る。また、世界船隊の総トン数の15%の入級を行っているノルウェー海事協会DNVは、ノルウェー海事クラスター内の大雇用主でもある。
 
(ノルウェー舶用産業)
 ノルウェーの舶用企業は、国内造船所の建造するオフショア船その他の特殊船向けの舶用機器を製造している。また、上記の造船グループも、グループ内での関連機器開発・製造に積極的に投資を行っている。
 
 ノルウェーの舶用機械製造業は、ノルウェー船隊の順調な成長とともに発展し、現在では製品の60%を欧州その他の国外市場に輸出している。ノルウェー舶用企業は、ウィンチや照明設備から最新鋭の貨物電子制御システムや安定装置等、幅広い製品を製造している。また、漁船用機器もノルウェー舶用メーカーが得意とするニッチ製品である。
 以下に、代表的なノルウェー舶用企業数社の事例を示す。
 
【Allweiler AS】
 1971年に設立されたAllweiler ASは、ポンプ製造企業Colaxグループ内の舶用ポンプ及び関連機器メーカーで、舶用産業、海運業、オフショア産業向けの貨物取扱システムや制御・モニター機器製造の大手である。従業員数は19人。
 
【Team Tec】
 海運コンサルタントとして設立されたTeam Tec社は、舶用焼却設備、処理設備、防火窓等の舶用機器製造に転向した。同社売上高は、1987年の80万ノルウェー・クローネから2004年には1億3,000万ノルウェー・クローネに急成長を遂げた。
 
【Stromme ASA】
 オスロに本社を置くStromme ASAは、舶用機器、舶用スペア部品、舶用サービス、オフショア支援の4部門を持つ国際企業グループで、主要顧客は船主、造船所、オフショア企業、下請け企業である。同社はノルウェーと海外に14の拠点を持つ。
 
(ノルウェー海事産業の動向)
 ノルウェー海事クラスターの発展は北海油田の発見がきっかけとなったが、政府干渉がほとんどなく、民間企業として競争力のある産業体制を構築してきたという事実が大きく貢献している。ノルウェー舶用産業は、常に顧客を第一とし、市況の変化にも機敏に対応してきた。
 
 他の欧州諸国と同様、2000年に後退を経験したノルウェー海事クラスターは、エネルギー産業への依存軽減とビジネスを多様化することで苦境を乗り越える戦略を採った。その効果は既に出始めている。2004年は、アジア造船所の船台不足により、欧州造船所も全般的に受注は好調であったが、ノルウェーの造船所も、建造期間の短縮と多彩な船種建造能力で競争力を高めている。
 
 ビジネス多様化の一環としては、世界的に環境問題への認識が高まる中、ノルウェー海事産業は海運業の安全性と環境基準の向上に関する幅広い知識により、新たなシステムとソリューション開発の旗手となっている。
 
 また、造船不況に伴うコスト削減策として、ノルウェー海事産業ではノルウェー人従業員を解雇し、人件費の安いポーランドからの労働力で補うという策も採られている。さらに、ノルウェー造船所の中には、船体建造を東欧諸国の造船所に下請けに出すことにより、コスト削減を実現している造船所もある。
 
 現在、ノルウェーは、EU加盟国に対する競争力強化をめざし、海運政策フレームワークの見直しを行っている。1996年に制定された現行のフレームワークでは、海運におけるノルウェー企業の関与とノルウェー人の雇用維持を強調している。しかし、ノルウェーの財政状況悪化により、EU加盟国に対する競争力の低下が明らかとなったため、その抜本的な見直しが必要となった。2004年4月にノルウェー政府が発表した海運白書では、海運税制改革によりEU諸国と対等に競合できる体制を築くことが提案されている。
 
4.6 スイス
(スイス海事産業)
 欧州の内陸国であるスイスは、海事産業が集中する欧州主要港へのアクセスを持たず、よって海事セクターの規模は非常に小さい。
 
 しかし、スイスの工業セクターは、舶用及びオフショア産業用に利用可能な工業製品の輸出を行っている企業が多く存在する。そのような企業の例としては、耐性配管システム製造のGeorge Fischer社、ルツェルンに本社を置く同じく舶用その他の配管設備製造企業BOA AG、また、カナダ、ドイツ向けの舶用、及びノルウェー向けオフショア施設用パイプ接続システム製造のStraubewerke AG社等がある。


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