3.8 マルタ
(マルタの経済概況)
人口397,000人(2003年)のマルタは、拡大EUの中でも最も小さい国のひとつである。購買力平価で見た場合のマルタの国民1人当たりGDPは、拡大EU25カ国、EU既存15カ国平均と比べて大幅に低く、2000年以降低下しており、2006年にはEU25カ国平均よりも30%低くなると予測されている。マルタの経済成長率は、2000年に6.4%を記録した後、2001年にはわずか0.2%に低下し、2003年には1.9%のマイナス成長となった。その後微増に転じたが、2006年もEU平均よりも低い1.9%の成長率が予測されている。EUのトレンドとは逆に、マルタの雇用者数は2002〜2003年に減少したが、2004年には1.4%の増加に転じている。(表3-8-1)
表3-8-1A マルタの国民1人当りのGDP比較(1995〜2006年)
|
'95 |
'96 |
'97 |
'98 |
'99 |
'00 |
'01 |
'02 |
'03 |
'04 |
'05 |
'06 |
EU25 |
100.0 |
100.0 |
100.0 |
100.0 |
100.0 |
100.0 |
100.0 |
100.0 |
100.0 |
100.0 |
100.0 |
100.0 |
EU15 |
111.1 |
110.8 |
110.5 |
110.4 |
110.2 |
110.1 |
110.2 |
110.0 |
109.7 |
109.3 |
109.0 |
108.8 |
マルタ |
: |
: |
: |
: |
76.6 |
76.8 |
72.9 |
72.7 |
72.2 |
70.5 |
70.1 |
69.5 |
米国 |
152.5 |
153.7 |
154.6 |
154.9 |
155.8 |
154.1 |
151.1 |
150.9 |
152.4 |
154.8 |
155.9 |
155.6 |
日本 |
123.7 |
125.5 |
124.3 |
119.3 |
116.1 |
115.0 |
113.3 |
111.7 |
113.4 |
115.8 |
114.9 |
114.4 |
|
出典:Eurostat、各年のEU25の国民1人当りのGDPを100とした。
|
表3-8-1B マルタの経済成長率比較(1995〜2006年)
|
'95 |
'96 |
'97 |
'98 |
'99 |
'00 |
'01 |
'02 |
'03 |
'04 |
'05 |
'06 |
EU25 |
: |
1.8 |
2.7 |
3.0 |
2.9 |
3.7 |
1.8 |
1.1 |
1.1 |
2.4 |
2.0 |
2.3 |
EU15 |
2.6 |
1.7 |
2.6 |
3.0 |
2.9 |
3.7 |
1.7 |
1.0 |
1.0 |
2.3 |
1.9 |
2.2 |
マルタ |
: |
: |
: |
: |
4.1 |
6.4 |
0.2 |
0.8 |
-1.9 |
0.4 |
1.7 |
1.9 |
米国 |
2.5 |
3.7 |
4.5 |
4.2 |
4.4 |
3.7 |
0.8 |
1.6 |
2.7 |
4.2 |
3.6 |
3.0 |
日本 |
2.0 |
3.4 |
1.8 |
-1.0 |
-0.1 |
2.4 |
0.2 |
-0.3 |
1.4 |
2.7 |
1.1 |
1.7 |
|
表3-8-1C マルタ:雇用成長率比較(1993〜2004年、前年比%)
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'93 |
'94 |
'95 |
'96 |
'97 |
'98 |
'99 |
'00 |
'01 |
'02 |
'03 |
'04 |
EU25 |
: |
: |
: |
: |
1.0 |
1.7 |
1.2 |
1.5 |
1.3 |
0.4 |
0.3 |
0.6 |
EU15 |
-1.6 |
-0.1 |
0.8 |
0.5 |
0.9 |
1.8 |
1.8 |
2.0 |
1.4 |
0.6 |
0.3 |
0.7 |
マルタ |
0.8 |
0.8 |
3.1 |
1.5 |
0.0 |
0.0 |
0.7 |
8.1 |
2.1 |
-0.7 |
-0.7 |
1.4 |
米国 |
1.8 |
2.3 |
1.9 |
1.7 |
2.2 |
2.4 |
2.2 |
2.2 |
-0.1 |
-0.8 |
0.0 |
1.1 |
日本 |
0.4 |
0.1 |
0.1 |
0.4 |
1.0 |
-0.7 |
-0.8 |
-0.1 |
-0.6 |
-1.4 |
-0.3 |
0.2 |
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(マルタ海事産業)
マルタの造船所は、2003年秋に開始された一連の再編以前は、無残な状態であった。しかし、Malta ShipbuildingとMalta Dockyardsの合併により、生産性は向上した。合併後のMalta Shipyard(MSL)会長のJohn Cassar White氏は、合併・再編によって同造船所は3億マルタ・ポンド(8億6,700万ドル)の赤字から解放され、事業多様化とともに多くの従業員が解雇されたとしている。顕著な成功例は、スーパーヨット建造専門の第3ドックである。
MSLは、オフショア市場に再進出し、半没型リグ「Jim Cunningham」の修繕とBluewater向けのシングル・ポイント・ムーアリングを建造した。また、クルーズ市場にも再進出した。さらに、MSLはLNGビジネスへの参入も計画している。従業員数は2002年の2,700人から2004年12月時点には1,800人に減少し、残業コスト削減をめざしたシフト制度廃止により、生産性は向上した。これにより給与レベルは大幅に低下したが、雇用の安定性は増した。しかし、MSLは依然として赤字運営で、売上は目標よりも25%低いレベルに止まっている。また、MSL、マルタ政府、EUの合意により、減少傾向にある公的補助は2008年で打ち切られることになっており、今後の動向が懸念されている。54
EU加盟により、マルタは便宜置籍国としての地位を利用し、欧州のハブとなることも可能である。しかし、現時点では期待されたような変化はなく、マルタは欧州海事産業の辺境に留まっている状況。EU加盟までの10年間に数々の企業再編や経営再建が試みられたにもかかわらず、マルタ海事産業には大きな変化がないという事実は、セクター戦略を根本的に変える必要があることを示しているのかもしれない。
EU加盟国としてのマルタの政治的発言力は強まっている。現在、マルタはギリシャと同様に、新規EU加盟国のキプロスと共同で、海洋汚染者を刑事法で罰するというEU指令を阻止しようとしている。
また、これまで数は多いがまとまりのなかったマルタ船籍の国際船主の発言力を高めるために、最近、海運会議所を設立し、共通の立場と目標を打ち出そうというマルタの努力には、EU加盟国としての自信が伺える。
さらに、マルタはアジア太平洋地域の船主をターゲットとした船籍誘致のためのマーケティング戦略を展開しており、これも広い意味での同国の海事産業再建の一環であるといえる。マルタは、これまで政府主導の経済体制から、自由度の高い市場経済に向けての変化を始めている。55
Feature Fairplay International Shipping Weekly 23 Dec 2004
Fairplay International Shipping Weekly 23 Dec 2004
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(ハンガリー海事産業)
東欧の内陸国ハンガリーは、ドナウ川とバラトン湖という内陸水路向けの貨物輸送と造船・船舶修繕業務を中心とした小規模な海事産業を有する。ハンガリーの海事産業は世界的に競合できる規模のものではなく、ハンガリー経済への貢献も少ない。ハンガリーの造船業は、コメコン(東欧経済相互援助会議)諸国向けの河川航行用船舶建造を行っていた1980年代初頭が最も生産量の多い時期であった。当時はドナウ川沿いに数カ所の造船所を持ち、10,000人を雇用していた。56
1991年にコメコンの解散後、ハンガリーの造船・船舶修繕業は衰退し、収益を維持するために人員は大幅に削減された。現在では、造船所はハンガリー国営海運会社Mahart所有の3造船所(ブダペスト、バラトン湖、Tiszayacht)のみで、総雇用数は約500人である。
Mahart社の主要ビジネスは、ブダペスト付近のドナウ川とTiszayachtのTisza川の貨物輪送、及びバラトン湖の旅客輸送である。2000年には米軍による旧ユーゴスラビア爆撃によりいくつかの橋が破壊され、ドナウ川の航行が不可能になったことで、同社の経営は悪化し、船隊の縮小を余儀なくされた。しかし、その後の状況は安定している。
(ポーランド海事産業)
ポーランドの海事産業は、造船及び船舶修繕業に独占されている。造船所は、グダニスク、グディニア、シュツェチンを中心とした北部地方に集中している。
造船・船舶修繕業の直接雇用者数は約19,000人(2003年)であるが、主に北部地方に点在する舶用関連企業はその4倍近くの人数を雇用している。これらの企業は、造船所に部品や機械を供給するサプライ・チェーンを形成している57。ポーランドの造船所は、必要な資材や機器の大部分を国内で調達しており、多くの舶用メーカーはビジネスを国内造船所に依存している。以下はそのような舶用メーカーの例である。
56 The Shipbuilding and Ship Repair sectors in the candidate countries: Poland, Estonia, the Czech Republic, Hungary and Slovenia, Final Report-NOBE Independent Centre for Economic studies 1999
57 CESA Annual Report 2003-2004
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【H.Cegielski-Poznan】
ポーランド最大のディーゼル・エンジン、その他舶用機器のメーカー。2001年の同社製品の92%は国内造船所向け。
【Towimor Torun】
甲板機器及びクレーンのメーカー。2001年の同社製品の90%が国内造船所向け。
ポーランド北部地方の港湾は、拡大する東欧諸国の製造業の窓口として、近年貨物取扱量が増加している。2004年のポーランド港湾の貨物取扱量は、前年比7.5%増の4,960万トンを記録した。コンテナ取扱量の伸び率はさらに高く、2003年の348,600TEU(20フィート・コンテナ)から448,600TEUに増加した。ポーランド主要港の中ではグダニスク港の成長率が最も高く、2003年の2,130万トンから2004年には2,300万トンに増加している。58
ポーランドの港湾設備は長年の投資不足により老朽化しており、取扱うことのできる貨物量には制限がある。ポーランド港湾周辺の貯蔵施設や物流センターは設備が不十分な場合が多く、鉄道網や道路網も整備されていないため、ポーランド企業の物流コストは収益の約13%にも上る(EU平均は約6%)。
EU加盟により、ポーランドヘの設備投資の増加が予想され、今後ロジスティックやインフラ設備も改善していくことが予想される。現在、欧州復興開発基金からの460万ユーロの融資により、グダニスク港のフェリー・コンテナ・ターミナルとグダニスク−グディニア間の幹線道路を結ぶ高架道路の建設が予定されている。
ポーランドでは、造船・船舶修繕業を始めとする海事産業は、伝統的に基幹産業であった。海事産業は輸出比率が高く、市場経済への移行に伴う貿易赤字の軽減に貢献してきた。2001年のポーランド造船業の輸出高は、同国総工業製品輸出の5.2%を占め、第3位の輸出産業である。59
1996〜2000年のポーランド造船所の建造量は500,000CGT弱で、ピーク時の1998年には500,000CGTを超えた。(表3-10-1)その安定した製造能力により、商船建造では、ポーランドは世界第5位、欧州第2位の造船国である。60
58 The Warsaw Voice-8th March 2005
59 CEEIBCNet, Market Research: Shipbuilding Poland
60 CEEIBCNet, Market Research: Shipbuilding Poland
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表3-10-1 ポーランドの新造船建造実績(1998〜2001年)
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1998 |
1999 |
2000 |
2001 |
建造量CGT |
517,593 |
456,561 |
497,918 |
477,559 |
|
出典:AWES Annual Report 2001/02
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2001年以前、ポーランド造船所の受注は好調であった。韓国、日本、中国等の大造船国との競合の激しさを考慮すると、欧州の他の造船国がシェアを減少させる中でのポーランドの健闘は注目に値する。これはポーランドの労働コストが韓国と同レベルで、他の欧州諸国のおよそ3分の1であるという要因が大きく作用していた。しかし、2001年以降、ポーランドの主要造船所の多くは、収益減と経営不振により大きく後退した。その原因には以下が考えられる。
●建造船種の多様化に伴い、受注済み新造船の建造が複雑化した。
●世界的な新造需要減と船価の低迷。
●対ドルでのポーランド通貨ズロチ高により輸出価格が上昇した。
以下は、このような苦境に陥ったポーランド造船所の例である。
【Stocznia Szczecinska Nowa(SSN)】
2001年10月、民営造船所Stocznia Szczecinska Nowa(SSN)の経営は破綻し、2002年3月には生産を停止、持ち株会社Porta Holdingは破産申請を行った。同社はその後、国営経済開発局(ARP)の所有となった。ARPは、融資と生産合理化の再建プログラムを開始し、また造船業のサプライ・チェーンを構成する国内企業の支援を行った。
【Grupa Stocznia Gdynia】
グディニアとグダニスクの造船所を所有するGrupa Stocznia Gdyniaの経営問題はさらに深刻であった。2002年の大幅赤字以来、同社は限られた銀行融資しか受けることができず、政府による支援と大規模な企業再編を余儀なくされた。政府の支援策により影響は幾分軽減されたものの、グディニア、シュツェチン、グダニスクの主要3造船所の建造量は大幅に減少した。
2003年には、SSNは合計9隻、175,000CGTを竣工したが、同年のポーランド造船所の総竣工数は14隻、288,000CGTに止まった。このような財政及び経営問題にも関らず、ポーランド造船業への信用は高く、2003年時点ではポーランドの造船所は75隻、163万CGTの受注残を記録した。2004年における回復は、ポーランド造船業の強さを示すものである。(表3-10-2)
表3-10-2 ポーランドの新造船建造実績(2001〜2004年)
|
2001 |
2002 |
2003 |
2004 |
建造量CGT |
477,559 |
497,562 |
288,210 |
448,684 |
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出典:CESA Annual Report 2003/04
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雇用面では、近年ポーランド海事産業の全セクターで雇用者数は減少しており、2000年の99,500人から、2003年には78,800人となっている。最大の雇用主は造船セクターで、2003年時点でも19,050人を雇用している。雇用が予想よりも減少しなかった要因は、造船所が多くの従業員を非造船部門に移動させ、企業内に人的資源とスキルを保とうとしたためである。(表3-10-3)
表3-10-3 |
ポーランドの海事産業雇用者数とシェア
(2000〜2003年) |
|
2000 |
2001 |
2002 |
2003 |
海事産業雇用者数 |
99,500 |
93,600 |
83,400 |
78,800 |
全雇用に対するシェア% |
0.6 |
0.6 |
0.6 |
0.5 |
|
出典:National Statistics 2004, Central Statistical Office Poland
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