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2.2 フランス
(フランス海事産業)
 フランス経済は欧州主要経済のひとつで、海事産業は同国経済の重要な位置をしめている。2003年には海事関連輸出は約120億ユーロで、フランスの最も有名な輸出品目であるワインの年間輸出量約78億ユーロよりも大きい。海事産業の輸出は、航空・宇宙産業の輸出に匹敵する。
 
 フランス海事関連セクターは約31万人を直接雇用しており、同国の全雇用者数の1.5%に相当する。セクター全体の売上高は380億ユーロ、GDPの2%である(表2-2-1)。
 
表2-2-1 フランス海事産業セクター別直接雇用者教と売上高
直接雇用者数(人) 売上高(十億ユーロ)
海運 20,000 6.6
港湾 44,000 4.5
造船・舶用機器 41,000 4.5
オフショア・オイル、ガス 25,500 5.5
ボート 50,000 3
漁業 55,000 5.7
海軍、海上保安 60,000 6
研究機関 4,000 0.6
トレーニング 5,000 0.6
その他関連産業 9,500 1.8
314,000 38
出典:Maritime Industry Forum Bremen, Presentation Jan 2005
 
 フランス企業は上記の10海事セクターで活発な活動を行っているが、オランダ、デンマーク、ドイツ等の西欧諸国の海事セクターに比べて確立されていない。各セクターは、少数の世界でも有数の大手企業に支配されている。売上高で見た場合、主要セクターは、海運、海軍・海上保安、漁業、オフショア、港湾、そして造船・舶用機器である。
 
 フランスの商船隊は国家の規模の割に小さく、200隻あまりであるが、世界でも最も船齢の若い商船隊(平均船齢8.1年)のひとつである5
 
5 European Community of Shipowners Associations ECSA annual report 2002-2003
 
(フランス造船業)
 フランスの造船業は商船建造と艦艇建造に分けられ、伝統的に国家保護を受けた産業である。
 
 1980年代には世界的な造船業の不況とともにフランスの造船業も後退し、その後の回復速度は遅い。結果的に、少数の造船所のみが存続しており、主に輸出用の艦艇建造を行っている。フランスは艦艇建造分野での専門性を高め、現在は欧州第一位の艦艇建造国である。他の造船所は小規模で、トロール船、支援船、内陸船の建造・修繕を主に行っている。
 
 例外はアトランティック造船所(Chantiers Atlantique)で、現在はAlstom Marine社が所有する民営企業である。同造船所は、大規模な商船建造活動を行っているフランス唯一の造船所である。1990年代後半以降、フランスの商船建造はクルーズ船、旅客フェリーに特化することにより回復しつつあるが、大部分はアトランティック造船所の設計・建造による輸出向け商船である。
 
 しかし、最近は再びクルーズ船建造に陰りが見え始めており、アトランテイック造船所の受注量もこのトレンドにより減少傾向にある。また、ドルに対するユーロ高は、ユーロ圏の造船所に不利となっている。アトランティック造船所の受注減は、フランス造船業全体の受注にも影響を与えているが、現在のところ、竣工量への影響は大きく出てきてはいない(2006年1月4日、ノルウェー拠点のアーカーヤーズ造船グループがAlstom Marine社と新会社を設立、同造船所を吸収すると発表。)(表2-2-2)。
 
表2-2-2A フランスの新造船受注量の推移(1999〜2004年)
1999年 2000年 2001年 2002年 2003年 2004年
1,000CGT 1229.5 1275.4 925.6 686.3 293.5 511.7
出典:CESA Annual Report 2004/05
 
表2-2-2B フランスの新造船竣工量の推移(1999〜2004年)
1999年 2000年 2001年 2002年 2003年 2004年
CGT 248,087 342,628 459,897 353,205 511,242 105,592
出典:CESA Annual Report 2004/05
 
 クルーズ船建造市場の不況を相殺するために、アトランティック造船所は生産性向上とコスト削減という新たな戦略を展開している。この戦略により、大量の人員削減が行われたが、特に研究部門で顕著となっている。一方、新たな分野として、今後の成長が見込まれるLNG市場向けのタンカー建造に進出している。LNGタンカー需要の急増により、最大造船国である韓国と日本では受注に対応しきれない状態で、注文が他地域の造船所に流れるケースが多くなっている。アトランティック造船所の2004年末現在の受注残は、LNGタンカー3隻とクルーズ船2隻となっており、船種のバランスをとろうとする試みが見られる。同造船所で建造に着手されたLNGタンカーは電気推進システムを採用した革新的なデザインであったが、建造過程で問題が発生し、竣工が18ヶ月間延期された。これが同造船所のLNGタンカー市場での競争力にどのように影響されるかが注目される。
 
 フランスの艦艇建造は、主に輸出市場向けの一大産業である。フランス軍需産業は国内向けよりも輸出が多く、ドル・べースでドイツに次いで欧州第二位となっている。
 
 艦艇建造は、アトランティック造船所が位置するロワール地方に集中している。最大の軍事企業であるDCN(Direction de la Construction Navale)は、1,000人を雇用し、戦艦建造では欧州最大手である。同造船所は、フリゲート艦、潜水艦、空母の推進システム製造も行っている。2003年にDCNは独立企業となったが、国が企業主であり、国際的な競争力向上のために多額の研究開発投資を行っている。
 
 ロワール地方は、フランスのシリコンバレーとして発展しており、主要造船所に加え、舶用電子機器やその他の舶用機器等の関連産業も盛んである。また、軍事エンジニアリング・センターや造船研究所もロワール地方に拠点を置いている。
 
 フランスの船舶修繕業は、ポーランド等の振興国と価格的に競争できず、多くの造修所が近年閉鎖に追い込まれた。ルアーブルのSoreni造修所は、2001年の設立時に借受けた政府補助金350万ユーロが返済できず、2005年1月に破綻した。また、サンナザールのRéparation Navale Nzairiene(R2N)も2004年9月に破綻したが、それ以降に大規模な乾ドック契約により再開している。その他の造修所CMR(マルセイユ)、ARNO(ダンケルク)、Sobrena(ブレスト)は存続している。CMRは最近LNGタンカー修繕を続けて受注しており、特に快調である。
 
2.3 スウェーデン
(スウェーデン経済概況)
 人口890万人(2003年)のスウェーデンは、EUで最も人口の少ない国のひとつである。しかし、スウェーデンの経済及び生活水準は高く、購買力平価で見た国民一人当たりGDPは過去3年間、現EU25カ国の平均よりも16〜17%高くなっている。また、2002年以降のスウェーデンの実質経済成長率は、EU25カ国平均及びEU15カ国平均よりも高い水準で推移している。一方、EU全体の雇用は増加しているにもかかわらず、スウェーデンの雇用者数は2003年、2004年と続けて減少した。(表2-3-1)
 
表2-3-1A  スウェーデンの国民1人当りのGDP比較
(1995〜2006年)
'95 '96 '97 '98 '99 '00 '01 '02 '03 '04 '05 '06
EU25 100.0 100.0 100.0 100.0 100.0 100.0 100.0 100.0 100.0 100.0 100.0 100.0
EU15 111.1 110.8 110.5 110.4 110.2 110.1 110.2 110.0 109.7 109.3 109.0 108.8
スウェーデン 117.6 117.0 115.6 114.4 117.8 118.9 115.4 114.1 114.4 116.0 116.8 116.9
米国 152.5 153.7 154.6 154.9 155.8 154.1 151.1 150.9 152.4 154.8 155.9 155.6
日本 123.7 125.5 124.3 119.3 116.1 115.0 113.3 111.7 113.4 115.8 114.9 114.4
出典:Eurostat、各年のEU25の国民1人当りのGDPを100とした。
 
表2-3-1B スウェーデンの経済成長率比較(1995〜2006年)
'95 '96 '97 '98 '99 '00 '01 '02 '03 '04 '05 '06
EU25 : 1.8 2.7 3.0 2.9 3.7 1.8 1.1 1.1 2.4 2.0 2.3
EU15 2.6 1.7 2.6 3.0 2.9 3.7 1.7 1.0 1.0 2.3 1.9 2.2
スウェーデン 4.1 1.3 2.4 3.6 4.6 4.3 1.0 2.0 1.5 3.6 3.0 2.8
米国 2.5 3.7 4.5 4.2 4.4 3.7 0.8 1.6 2.7 4.2 3.6 3.0
日本 2.0 3.4 1.8 -1.0 -0.1 2.4 0.2 -0.3 1.4 2.7 1.1 1.7
出典:Eurostat
 
表2-3-1C  スウェーデンの雇用成長率比較
(1993〜2004年、前年比%)
'93 '94 '95 '96 '97 '98 '99 '00 '01 '02 '03 '04
EU25 : : : : 1.0 1.7 1.2 1.5 1.3 0.4 0.3 0.6
EU15 -1.6 -0.1 0.8 0.5 0.9 1.8 1.8 2.0 1.4 0.6 0.3 0.7
スウェーデン -5.2 -0.9 1.5 -0.8 -1.3 1.6 2.1 2.4 1.9 0.1 -0.2 -0.5
米国 1.8 2.3 1.9 1.7 2.2 2.4 2.2 2.2 -0.1 -0.8 0.0 1.1
日本 0.4 0.1 0.1 0.4 1.0 -0.7 -0.8 -0.1 -0.6 -1.4 -0.3 0.2
出典:Eurostat
 
(スウェーデン造船業)
 スウェーデンの造船セクターでは統合が進んでいるが、国際的に競争力のある造船所は多い。Anytec Marine社はストックホルムの200km北に位置するÖregrundに造船所を持ち、最長50mまでの船舶を建造している。1980年代から1990年代半ばにかけて、同造船所は数多くのカタマラン型客船とヨットを建造し、世界中に輸出していた。現在、FagerdaIa Thiger Marine Sandwich System向けのヨット船体、及び同社独自デザインの鋼製及びアルミ製プレジャーボートや作業船を建造している。
 
(スウェーデン舶用工業)
 ScanMarine社は、欧州でも有力な内装請負企業である。同社のビジネスは、企画、エンジニアリング、設計、素材仕様、商品発送、及び絶縁、配管、空調、電気、バルクヘッドと天井パネル、ドア、トイレ、家具、床材、マニュアル、スペアパーツ等の内装全般のターンキー設置業務である。同社は、欧州の海事セクターで培われた技術力のあるプロの集団で、新造船内装及び全船種の内装改造を請け負っている。


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