2. カントリー・プロファイル:EU既存15カ国
EU既存15カ国各国の経済、海事産業、最近の動向を以下に概説する。
(オランダ海事産業)
オランダは面積こそ小さいが、欧州主要市場へのアクセスが容易なため、「欧州の窓口」としての戦略的機能を持つ。その地理的要因により、オランダは歴史的に航海国で、今でも海事産業が盛んである。
オランダの海事産業は、世界最先端のひとつであると認識されている。同国では、長年にわたる航海の歴史により、その経験とノウハウを蓄積した海事産業を形成している。現在、オランダの海事産業は、海運、造船、舶用機器、オフショア、内陸水運、浚渫、港湾、海事サービス、漁業、ヨット等11セクター、及び57のサブ・セグメント2に分類されている。オランダのGDPに対する海事産業の割合は3%で、これは欧州の他の造船諸国に比べて倍以上の高さである3。
オランダ海事産業セクターは、欧州で最も大規模な海事産業のひとつであるだけではなく、セクター間の高いシナジー効果により、高成長とイノベーションを実現していることが特徴であり、多くの学究的調査の対象となっている。海事産業セクターの発展は、良好なビジネス環境とリーダー的大企業の強さによるところが大きいが、同時に中小企業の国際化を促し、さらに国際的な地位を高めている。セクター内のシナジー効果は、セクター間の相互関係とネットワーク機関の発展を可能にし、オランダの海事産業セクターは国家レベルでも大きな発言力を持つ。
海事産業セクター内で最もGDPと雇用に貢献しているのは、港湾セクターである。オランダには4ヶ所の大規模な港があり、高度なロジスティック・ネットワークにより大量の貨物を扱っている。ロッテルダムはオランダ最大の港であるだけではなく、欧州最大の港でもある。2004年のロッテルダム港の貨物取扱量は、欧州第2位、3位及び4位の港の貨物取扱量合計に相当する4。ロッテルダム港取扱貨物の大部分は、原油、化学品、石炭、鉱石等のバルク貨物であるが、同港のコンテナ取扱量も欧州で最大である(表2-1-1)。
表2-1-1 ロッテルダム港のコンテナ取扱量の推移
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2001年 |
2002年 |
2003年 |
2004年 |
TEU |
6,096,000 |
6,506,000 |
7,144,000 |
8,281,000 |
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出典:Port of Rotterdam, Port Statistics 2004
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3 Dutch Maritime Network January 26th 2005(Presentation to the Maritime Industry Forum)
4 Port of Rotterdam, Port Statistics 2004
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(オランダ造船業)
セクター間のシナジー効果に加え、オランダ政府による公正な競合環境の整備や研究開発活動の振興と援助も、同国の海事セクターの発展に寄与している。オランダ造船業は、最新技術と独自のデザインや革新的手法で有名である。オランダの造船所は全船種を建造する能力があるが、特に下記の船種では世界的なリーダーとなっている。
(1)浚渫船
高度技術機器が必要な浚渫船は、オランダ造船業が得意とする分野である。全世界の浚渫船の60%はオランダの造船所で建造されたものである。
(2)オフショア船
技術システム、洋上設備、油圧システム、コンピューター・システム、深海パイプ等のオフショア関連技術についてもオランダ造船業が強い。
(3)艦艇
オランダ海軍は新デザインの艦艇開発に積極的である。フリゲート艦を始めとする多くの船型は輸出されており、また技術の民間転用は、造船技術進歩への原動力となっている。
(4)ヨット
オランダの造船所はレジャー用のメガヨットに特に強く、全世界でのシェアは30%に上る。メガヨット用の精密技術の多くは、艦艇用に開発されたものである。
(5)内陸水路用船舶
ロッテルダム港とアムステルダム港は欧州の内陸水路への重要な窓口であり、オランダは内陸水路用船舶の建造にも強い。欧州の内陸水路用船舶の80%がオランダで建造されている。
オランダの造船所、造修所については、オランダ以外にも造船所を持つ大規模な多国籍造船所から国内の内陸水路沿いに位置する小規模な造船所まで幅が広い。以下に主要2造船所を紹介する。
【Damen】
Damenはオランダ国内外に30ヵ所以上の造船所を持ち、新造船建造、修繕、メンテナンスを行っている。曳航船、巡視船、作業船、貨物船、浚渫船、メガヨット、高速フェリー等と幅広い船種を建造している。建造技術は高度に規格化されており、実績のある船型を、短期間に競争力のある価格で建造することが特徴である。
【Volharding Group】
Volharding Groupは、1990年代半ばに、一造船所からオランダ国内北海沿岸に複数の造船所を持つ企業に急成長を遂げた。また、同グループは、効率改善のため、鋼製部分建造をルーマニア、中国、トルコ、ウクライナ等の発展途上国にアウトソーシングしている。現在の年間建造隻数は10〜20隻で、売上げは約2億ユーロである。Volhardingの建造船種は、RORO船、タンカー、貨物船、オフショア施設である。
造船業はオランダ経済で最も資金集約型の産業セクターで、同国GDPに大きく貢献している。オランダ造船業は高度専門性と革新的なデザインが特徴である。特に、新造受注船舶の付加価値については、標準貨物船換算係数でみると、世界が0.63、欧州が1.05、オランダ1.67となっており、オランダが世界の造船業をリードしている。(表2-1-2)
オランダの造船所の多くは、競争力強化のために船体その他の部分建造を国外造船所にアウトソーシングしており、国内における建造量と直接雇用者数は近年低下傾向にあるが、2000〜2004年の受注量は堅調で、年間平均売上げは約12.5億ユーロである。
オランダ造船業の長期的目標は、建造そのものよりも、デザイン、エンジニアリング、技術協力、建造監督、マーケティング等における蓄積された技術とノウハウを基礎に付加価値の高い製品を提供することである。オランダ企業の多くは、船主と国外造船所の仲介を行っている。このような優位性を維持するには、技術投資が不可欠である。オランダ造船協会(VNSI)によると、同国造船業は売上げの約13%を技術開発に投入しているとされている。
表2-1-2 オランダの新造船建造実績の推移(1999〜2004年)
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1999年 |
2000年 |
2001年 |
2002年 |
2003年 |
2004年 |
隻数 |
128 |
157 |
111 |
106 |
90 |
114 |
CGT |
600,590 |
587,335 |
496,780 |
467,575 |
313,570 |
449,710 |
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出典:CESA Annual Report 2004/2005
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オランダの船舶修繕業は、欧州第二位の規模である。欧州における船舶修繕業は港湾の付随機能の一部であることが多く、オランダも例外ではない。多くの造修所は国内4大港及び多くの内陸港沿いに集中している。遠洋船舶向けの造修所は、船舶のメンテナンスと修繕、オーバーホール、及び洋上施設の設置を専門としている。また、既存船の設備の近代化や貨物スペース拡大等の改造も得意分野である。
造船・修繕業による直接雇用と収益は、港湾関連よりもオランダ海事セクター全体への影響は少ないが、他の海事関連セクターに間接的な影響を与える要素を多く含んでいる。例えば、造船業は他の海事関連10セクター全てに影響を与える中心的なセクターである。2003年の造船業売上げの50%近くは、他の海事セクター向けへの支出となり、また収入の20%は他の海事セクターからのインプットである。このような相関関係のため、造船セクターの間接売上げは直接売上げの約1.3倍で、間接雇用も直接雇用よりもかなり大きいと見られる。
(オランダ舶用産業)
オランダ舶用産業は、造船からオフショア技術まで幅広い分野をカバーしており、2002年の売上げは約18億ユーロである。舶用機器製造及び舶用サービス企業数は約700社で、その多くは北海沿岸の主要港周辺に位置している。舶用企業と造船所との関係は、メーカーと顧客の関係というよりも、対等な企業間のパートナーシップで、開発、建造等における密接な協力関係により建造工程を効率化し、オランダ海事産業の競争力を高めている。
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