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1-9 植物 のぼる水
 植物はたくさんの水を吸収します。根を土の中に張りめぐらせて,土の中の水を吸い上げます。吸い上げた水の大部分は,植物の中には留まらずに葉から水蒸気となって出て行きます。植物には葉がたくさんついているのでたくさんの水が蒸発します。植物は,土の中の水を再び大気中に戻す太いパイプの役割をしています。
 
Q 植物が吸った大量の水はどこへいったのですか?それだけの水が植物の体の中に溜まっているようには見えませんが・・・。
A サボテンのような多肉の植物を除くと,植物は水をほとんど貯めません。実は植物が吸収した水の大部分は,葉から空気中に蒸発してしまいます。このように葉から水が蒸発していくことを「蒸散」と呼びます。
 
Q なぜ植物はせっかく根から吸ったたくさんの水をまた葉から出してしまうのですか?
A 植物は生きていくために光合成をしています。光合成とは,光のエネルギーを利用して,空気中の二酸化炭素を糖やデンプンに変える作用です。植物の葉には二酸化炭素を吸収するための穴(気孔)がたくさんあいています。葉の中の水分はその気孔を通して空気中に逃げていってしまいます。植物は葉から水分を出したくて出しているわけではないのです。
 
 植物も生き物ですから,生きていくためにはいろいろなものを食べなければなりません。人が生きていくのにご飯などの炭水化物が必要なように,植物も炭水化物が必要です。ただ植物は人とちがって,空気中の二酸化炭素と根から吸った水とを材料にして自分で自分に必要な炭水化物を体の中で作ることができます。炭水化物を作り出すのに必要なエネルギーは,太陽の光エネルギーを利用します。
 このように光のエネルギーを使って,水と二酸化炭素とからデンプンや糖のような炭水化物を作り出す作用のことを「光合成」といいます。光合成は主に葉で行われ,必要な二酸化炭素は葉の表面に開いている「気孔」と呼ばれる小さな穴から葉の中に取り込まれます。葉は薄っぺらな紙のようなものに見えますが,断面を見ると袋状になっていることがわかります(図9.1)。
 
図9.1 葉の断面図
 
 葉は表皮と呼ばれる細胞の層で包まれている。表皮の外側にはクチクラと呼ばれる薄いワックスの層がある。二酸化炭素や水分は,表皮に開いている気孔という穴から出入りする。
 
 葉の中には光合成を行う細胞が集まっていて,その細胞の集まりを表皮と呼ばれる薄い細胞の層が包んでいます。この表皮の外側はさらにワックスのようなものでコーティングされていて,水や気体が簡単に葉から出入りしないように保護しています(表皮の外側のコーティングをクチクラ層と呼びます)。そこで光合成に必要な二酸化炭素を取り込むための気孔という穴が表皮に開いているというわけです。この気孔は単なる穴ではなく,口のように開けたり閉めたりすることができます。ただ,開閉できるとはいってもただの穴ですから,開いているときには葉の中の水分が気孔を通して出て行ってしまいます。植物が光合成をさかんにしようと気孔を目一杯開けると,確かに二酸化炭素をたくさん取り込むことができますが,葉の中の水分もたくさん蒸散してしまいます。つまり,植物が光合成に必要な二酸化炭素を得ようとすると,どうしても葉から水分が出て行ってしまうのです。
 
 植物がせっかく吸った水を蒸散で失うのは悪いことばかりではありません。葉から水が蒸散するときに葉の熱が奪われて葉が冷えます。汗が人の体を冷やすのと同じです。真夏の太陽が照りつけるときでも葉はひんやりとしています。木陰が涼しいのもそのためです。蒸散には葉の温度を下げる作用があります。
 
Q 植物が根から吸った水はどこを通って葉までいくのですか?
A 植物の体の中にある導管というとても細いパイプの束を通って葉まで行きます。
 
 まるで水道管のように,植物の体の中には導管と呼ばれる細いパイプの束が,根の先から茎の中を通って,葉の隅々にまで通っています。1本のパイプの直径は1mmの1/100から1/10程度の細さです。葉脈1本1本にも導管が通っています。葉が蒸散で失った水は,根から入り,導管を通って葉にまで到達します。世界で一番高い木は北アメリカに生えているセコイアで高さは100m以上あります。身近な木でも10mくらいの高い木はたくさんあります。その先端の葉にまで根から吸った水が導管を通って届きます。
 
 
Q 水は普通高いところから低いところへ流れるのに,なぜ木の中では水は下から上へ向かって動くのですか?
A それは葉が水を吸い上げているからです。葉が蒸散で水を失うと,葉の導管の水を吸います。導管は根まで通っていますので,ストローで吸い上げるように,根のまわりの水が根の導管の中に入っていき,葉まで吸い上げられていきます。
 
 葉の細胞が水を失うと,葉に通じている導管の中の水を細胞が吸おうとします。導管は根の先端までいきわたっているので,ちょうどストローのように,根が回りの土から水を吸います(図9.2)。ストローでジュースを吸っているときに,ストローを切ってもジュースが吹き出ないように,生きている植物を切っても,水は吹き出ません。人間のように心臓というポンプで血管の中へ血を押し出している場合は,血管を切ると血が吹き出します。しかし,植物の場合は水を吸い上げているので,切ってもヤニや乳液が出ることはあっても水は出ません。逆に切ると導管のなかに空気が入ります。
 
図9.2 植物の中をのぼる水
土の中の水は,葉に吸われて植物の中をのぼっていく。


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