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埼玉県立小児医療センター
難聴ベビー外来における療育・音楽療法報告書
音楽療法士−井上聡子
音楽療法士−村上か乃
 
1. 「難聴ベビー外来」の概要
 埼玉県立小児医療センター耳鼻咽喉科における小児難聴ベビー外来は、「新生児聴覚スクリーニング」の開始に伴い、早期療育の体制作りの重要性を考え、従来行われている難聴児とその家族へのホームトレーニングや、補聴器のフィッティングの他に、音楽療法を早期療育の一環として取り入れ、平成12年6月より開始した。
 
2. 平成17年4月〜平成18年3月28日までの参加者について
 参加者は、新生児難聴スクリーニングAABRの検査において「要再検」とされた方が、精密検査のため埼玉県立小児医療センター耳鼻咽喉科に訪れそこでABR(精密検査)によって、新生児難聴と診断された新生児(生後数日〜)とその家族である。
 今年度は、昨年度よりさらに、一回の療育セッションに参加される人数が増加したため、音楽療法の時間を2回に分け、月齢と成長に合わせた対応を必要とされた。
 
3. セッション形態と目的
音楽療法時スタッフ
療育音楽 セッションリーダー 2名、
児の両親とその家族
言語聴覚士
難聴児を育てた先輩(母親)
聾学校の先生
手話通訳(必要に応じて)
 
 音楽療法では、難聴児のみへのアプローチだけではなく、その両親の心身のリハビリ(改善)を目的とし、児を取り囲む環境作りにも力を入れた。児に対しての音楽療法の意味と方法、結果のみならず、児の両親とその家族へ、音楽療法を受ける中で、家庭での音楽のあり方などの理解を深めていただき、難聴児であっても音楽を家庭に取り入れることの大切さを啓蒙した。
 
4. セッション日時と場所
・第2火曜日 午前11時00分〜12時15分
2グループに分かれて40分ずつ
(参加人数の増加と共に、月齢と成長にあわせた対応とした。)
(発達訓練室・・・大ルーム)
・第4火曜日 午前10時30分〜午後2時
各年齢(1〜2歳児、3歳以上重複障害児含む、難聴ベビー外来卒業生)
1時間ずつ (発達訓練室・・・大ルーム)
難聴ベビー外来後のフォローアップ
 
5. セッション内容について
セッションの流れ 曲目例と使用楽器 目的
導入
既知の曲を中心に歌う
《常に、太鼓打ちをキープし、振動を体感する》
挨拶
 
♪おはようのうた
←はじめの認識
・お友達の名前を覚える
全身で音を感じる
手遊び など
♪アイアイ
♪犬のおまわりさん
♪幸せなら手を叩こう
・季節の歌
・童謡・唱歌
・常に、太鼓打ちをキープし、振動を体感する
・家族/母子とのコミュニケーション
・(月齢が上がれば)指/手遊び、感覚刺激(息を吹きかける・くすぐる等)五感を刺激する
・日本のよき音楽を耳にする。
・古い歌を知らない親には知ってもらう
合奏
・スズ
・タンバ
・ギロ
・マラカス 使用
←楽器使用
(物への興味、触覚刺激、視覚刺激、手を使い脳の活性化、音への興味等も促す)
リラックス/揺れ
・立位、揺れる
 
・本を使用
・赤ちゃんを抱き、揺れる
・家族/母子とのコミュニケーション
・視覚を刺激しながら簡単な手話を覚える。
聴覚・視覚を同時に刺激する
終わり ♪さようなら ←終わりの認識
 
6. 使用楽器/使用機材
保管場所=機材室
MA-60、ハイカラ、楽器類、キーボード・REMOギャザリングドラム×1、伴奏君、ビデオの三脚、音楽療法用ビデオとそのマニュアル
保管場所=発達訓練室
REMO大太鼓2
私物
ipod(音楽データ収納機器)
歌詞スケッチブック(母子共に難聴者参加の場合)
 
7. セッションの工夫と結果
・難聴児に音の振動を感じさせることで、(REMO大太鼓使用−直径1m50cm程の太鼓で、その上に横たわらせ音を振動で体感する)音の存在を感じさせた。
=児は、音の振動を感じることで、音の存在に気づき、一定のリズムを感じることが出来ることが分かった。音楽の心地よさを感じるのか眠気を感じる児も見られた。次第に音楽にはリズムがあることに理解をし、音楽と共にリズムを表現することで、他者とのコミュニケーションを図っていた。児の成長段階には個人差があるもののほぼ参加した児は、自分で表現できる月齢(11ヶ月頃〜)になると音楽の音が始まると共に、太鼓に近づき、太鼓を叩き始める。そして太鼓を叩いていることを他者にアピールするように周りを見回し、相手の顔を見て安心し、笑顔を見せるしぐさを繰り返した。
・児の持っている脳の可塑性を伸ばすために、音楽を利用し五感を最大限に刺激した。
=手遊びや楽器に触れることで、聴覚のみならず触覚、視覚を刺激する。
・母子(家族)のコミュニケーションを促す
=音楽療法の中で、安心できる、かつ楽しい場所として参加を促し、リラックスした感覚を呼び戻す。ショックや、悲しさを少しでも軽減し、子どもと楽しく向き合えるよう、家族のコミュニケーションに音楽を使う方法を伝えることで少しずつセッションの中の笑顔も増えた。
・難聴ベビー外来終了後は、医師の指導の元、それぞれの地域の療育施設に移行することとなっているが、12回終了して卒業したとしても、すぐに移行することが難しい状況であった。また、各療育施設での音楽の使い方はさまざまで、病院での音楽療法の継続を希望する家族は多かったことから、第4週目に月齢と成長別に合わせた音楽療法の枠とし受け入れを行った。家族のニーズに合わせて参加を促し、グループセッションでありながらもそれぞれの児と家族に合わせた対応を試みた結果卒業して半年通うころから親のほうより、「学校のほうが落ち着いたので終わりにします。」という話が出るようになる。音楽療法としては、継続することに意味があるが病院での体制としては適切であると考える。
・児を取り巻く環境を整えるためには、その児にかかわるすべての大人が連携を取ることが大切である。家族の心身の健康を回復させることは重要な目的であるが、その為には、病院での他の専門家やシステムを理解し、少しでも音楽療法に協力してもらえる体制を整えることが必要であった。
 
8. 今年度の成果
 これまで「難聴ベビー外来」に参加された方対象に、病院にて、『難聴ベビー外来親の会』として講演会を行うこととなった。
 2000年6月から始まった埼玉県立小児医療センター耳鼻咽喉科の「難聴ベビー外来」=新生児聴覚スクリーニングによる早期発見後の早期療育プログラムとして(1)診察(2)ホームトレーニング、補聴器フィッテング(3)音楽療法 の3本柱で行ってきた。これまで「難聴ベビー外来」に参加された家族は70名となった。音楽療法の現状は、当財団の受ける助成金によって行われている。しかし、今後助成が受けられなくなった場合、音楽療法の継続が難しいのが現状である。
 この会の始まりは、これまで「難聴ベビー外来」を受けた方にその理解を深めていただき、県(行政)への働きをお願いし、音楽療法が、県立の病院でも認められるように当財団会長=赤星建彦は呼びかけたことがきっかけとなった。その後、その問題だけでなく、これらの家族を対象に「難聴ベビー外来」参加時の気持ちやその後の様子を教えていただきたいという目的で、埼玉県立小児医療センター耳鼻咽喉科医師の坂田医師のご協力を得て今回の講演会を開催する運びとなり大変有意義なものとなった。
 今回の事業では計画されていなかったが、約50名以上の参加となった。
 
1. 「難聴ベビー外来」親の会の開催
 
日時:平成18年3月11日(土曜日)13:00〜16:00
場所:埼玉県立小児医療センター保健発達棟2F研修室
会費:無料
内容:講演会および情報交換
(1)「音楽療法のこれまでの現状と今後について」
(財)東京ミュージック・ボランティア協会 井上 聡子
(2)「難聴児のケアや家庭での療育ポイント」
帝京大学名誉教授 田中 美郷先生
(3)「お母さんの体験談」尾登 美鈴さん
(4)「人口内耳の現状」東京大学教授 加我 君孝先生


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