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4. 結言
 大小縮尺の異なる模型での浸水中間段階における船体の挙動についての実験結果から、
1. 模型の大小を問わず同じ実験状態(損傷破口の位置が高く、高い甲板から浸水し、区画内のアレンジメントが複雑で浸水開始直後に損傷破口付近に水が滞留しやすい場合)では、浸水中間段階で大横傾斜が発生すること、
2.一方、模型船の大きさが異なると浸水中間段階での運動速度は異なり、最大横傾斜角発生時刻および大横傾斜継続時間が異なること、
がわかった。この実験結果の差異の原因として、考えられる幾つかの項目の中から破口からの浸水の流量に着目し、その特性(縮尺の影響を含む)について調査した結果、以下の結論が得られた。
3. 内部の水面が破口下端より下方にある状態ではその内部水面位置によらず流量は一定となる。そのときの流量係数は定数となるが、本研究で対象とした破口サイズでは、その大きさによって値が異なる。
4. 内部水面が破口下端よりも上方にある場合、その流量は内部水面の上昇に伴い減少する。この場合もまた、流量係数は定数となるが、内部水面が破口下端にある場合に比べて小さな値となる。なお、この場合においても流量係数は、本研究で対象とした破口サイズでは、その大きさによって値が異なる。
5. 流量係数は、区画からの排気量の大小による空気圧縮の影讐を受けることがわかった。しかしながら、空気圧縮の影響を考慮した流量推定モデルの検討は十分に行うことができなかった。
6. 内部水面と破口との位置関係によって生じる流量係数の変化を考慮していない流量推定モデルでは、内部水面が破口下端到達後の流量を過大評価する傾向にあるが、例えば2係数モデル等によりこの効果を考慮することによって推定精度が改善される。
 最後に、本文中にも示したが、破口からの流量同様、模型船内部の各甲板上での水の運動および階段室等の穴からの流量についても縮尺の影響があることが考えられる。それら特性についても必ずしも十分には把握されておらず、今後検討すべき課題であると考えている。
 
謝辞
 本研究は、日本財団の助成による日本造船研究協会のRR-SP2(平成16年度)の研究として実施したものであることを記し、関係各位に御礼申し上げる次第である。
 
参考文献
1)片山徹, 武内祐二, 池田良穂: 巨大客船の損傷時浸水中間段階における挙動に関する実験的研究, 関西造船協会論文集, 第243号, 2004, pp23-30.
2)R. v. Veer. W. Peters, A. Rimpela and J. d. Kat: Exploring the influence of Different Arrangements of Semi-Watertight Spaces on Survivability of a Damaged Large Passenger Ships, Proc. of 7th International Ship Stability Workshop, pp.30, Shanghai, 2004.
3)L. Palazzi and J. d. Kat: Model Experiments and Simulations of a Damaged Ship With Air Flow Taken Into Account, Marine Technology, Vol.41, No.1, 2004.
4)D. Vassalos and L. Letizia: Characterization of the Flooding Process of Damaged Ro-Ro Vessel, International Journal of Offshore and Polar Engineering, Vol.8, No.3, 1998, pp.11-18.
5)永井荘七郎: 水理学, コロナ社, 昭和32年, pp.118-124.
 
Appendix
A.1 模型内水面が流入口下端より低い場合
 ここでは簡単のために模型内での空気圧縮が無い場合を扱う。Torricelliの定理より、深さHにある孔から流出する流速は次式となる。
 
 
 ここでは、大きな流出孔(破口)を扱うため、Fig.A-1の帯状部分の流速が(A.1)式で表されると仮定する。Fig.A-1の帯状部分の流量をdQ0とすると、
 
 
 ここで、bは破口の幅である。破口からの沈量Q0は(A2)式を破口高さについて積分すると次式となる。
 
 
 しかしながら、実除には破口における摩擦抵抗や流水断面積が拡大するときに発生するエネルギー損失によりQ0よりも小さな値となり(A.3)式に流量係数Cを掛けて次式で表される。
 
 
A.2 模型内水面が流入口上端より高い場合
 Fig.A-2中深さZ1での流速は次式で表される。
 
 
 すなわち、流入口内の流入速度は高さ方向に全ての点で等しく、破口高さについて積分すると流量Qは次式となる。
 
 
A.3 模型内水面が流入口の上端と下端の中間にある場合
 模型内水面が流入口の上端と下端の中間にあるとき、その流量は近似的に、模型内水面以下は(A.6)、それ以上は(A.4)と考えて、両流量の和とする。
 
 
Fig.A-1 Sketch of a flow from an orifice.
 
Fig.A-2 Sketch of a flow from a submerged orifice.
 
Fig.A-3  Sketch of a flow from a partially submerged orifice.


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