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3.3 破口からの流量の推定
3.3.1 推定式
 近年、損傷船舶の浸水中間段階における船体運動をシミュレーションする際に用いられる流量推定モデルには、次式(以下、1係数モデルと呼ぶ)がある4)
 
 
 ここで、Hは外部水面から破口の中心高さまでの距離もしくは外部水面から内部水面までの距離の小さい方である。なお、式中のCは、流量係数と呼ばれ、破口における摩擦抵抗や流水断面積が拡大するときに発生するエネルギー損失を考慮するための係数である。一般に、この1係数モデルでは、内部水面が破口下端よりも上にある場合と下にある場合とで、同じ流量係数Cを用いるが、本研究における流量計測実験でも、内部水面が破口下端に到達する前後で流量Q(t)が変化しており、必ずしも唯一の流量係数を用いる1係数モデルでは、この流量の変化を表現できない可能性がある。一方、このような流量の変化をモデル化したものに、(4)〜(8)式(以下、2係数モデルと呼ぶ)がある5)。(なお、このモデルの補足説明をAppendixに示す。)この2係数モデルでは、破口、直方体の外部水面、内部水面の位置関係を5つに整理して定式化しており、その位置関係を文章中の記号(例えば(a)(i)など)に対応させてFig. 15に示す。
(a)破口の高さ中心が水面と一致する場合
 
 
(b)破口が完全に水面下にある場合
 
 
 (4)〜(8)式の流量係数Cにおいては、一般にC1=C21、C22=C3の関係が成り立つ。また、破口位置が破口高さに比べて十分深い位置にある場合はC0=C1となる。さらに、破口が十分に大きな場合にはC0、C1、C21およびC22、C3は、それぞれ約0.62および0.53に収束すること5)を付記する。
 
Fig. 15  Location of opening and flooding water depth.
 
3.3.2 流量係数の算出
 実験結果をもとに、大小の直方体について各流量係数Cを求めた結果をTable 3に示す。なお、各係数の算出においては、1係数モデルではFig. 15に示す状態(a)(i)および(b)(i)を、2係数モデルでは(a)(i)、(a)(ii)、(b)(i)および(a)(iii)での実験データを用いた。同表より、大小直方体の流量係数は異なり、小さな直方体の方が大きな場合に比べて、流量係数が大きくなることがわかる。また、破口が完全に外部水面の下である場合の(b)と無い場合の(a)で、流量係数が異なる結果が得られた。さらに、同表中の流量係数C22、C3が流量係数C1、C21に比べて小さく、これは内部水面が破口下端に到達すると流量が減少することを示しており、参考文献5)に見られる記述に符合する。
 以上の結果から、2章で述べた2隻の模型サイズにおいては、損傷破口からの浸水の流量係数に縮尺の影響が見られ、小さな模型の流量係数が大きい模型のものよりも大きくなること、大きな模型においてもその流量係数は参考文献5)で示された数値には十分には収束していない可能性があることなどがわかった。
 最後に、1係数モデルおよび2係数モデルを用いて大小の直方体での流量計測実験をシミュレーションし比較した結果をFig. 16〜19に示す。それぞれの係数には、Table 3の値を用いている。なお、内部水面が破口下端に到達するまでの両モデルの結果は、当然の事ながら実験結果とも一致するため、特に内部水面が破口下端に到達後の結果のみを拡大して示している。2係数モデルの結果は当然のことながら実験結果と良く一致している。一方、1係数モデルもまた、実験結果とよく一致するが、このモデルでは、内部水面が破口の下端到達後の流量の減少を十分には考慮できていないため、この様な状況では流量を過大評価する傾向にあることがわかった。
 
Table 3 Coefficients of discharge.
Experimental condition C0 C1=C21 C22=C3
Small & a 0.64 0.630 0.60
Small & b-1 0.74 0.698 0.60
Large & a 0.55 0.541 0.53
Large & b-1 0.62 0.584 0.53
 
Fig. 16  Time histories of calculated and measured flooding water depth in small model under condition (a).
 
Fig. 17  Time histories of calculated and measured flooding water depth in small model under condition (b-1).
 
Fig. 18  Time histories of calculated and measured flooding water depth in large model under condition (a).
 
Fig. 19  Time histories of calculated and measured flooding water depth in large model under condition (b-1).


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