5. 進水条件の最適化
5.1 滑台からの進水条件
本研究では、Fig. 9に示す4つのパラメータ(落下高さH、滑台傾斜角Θ、滑台上の滑降距離Lgo’、進水レールの重心より後方の長さLra)を進水条件と呼ぶ。ただし、落下高さHは母船の積みつけ条件等により決まるためgivenの条件と考え、残りの3変数を最適化することを考える。
ここで、これらのパラメータと救命艇の着水性能との関係を簡単に説明する。まず、Θは滑台からの救命艇の発進角度を支配する。また、Θは水面に着水する際の艇の着水角(Fig. 1のθE)を左右する重要なパラメータである。着水角が大きいほど救命艇は水中深く突入する傾向があり、一方θEが小さいと腹打ち状態となって激しいスラミングを起こす。滑台の設計上はΘが大きすぎると乗員が艇に乗り込むことが困難になるので、実用上Θ≦50°程度にすべきと考えられる。次にLgo’であるが、このパラメータは滑台上の滑降速度に関係し、Lgo’が大きいほど滑降速度が大きくなるため、滑台端部での拘束落下の持続時間が短くなる。この結果、拘束回転が少なくなる。拘束回転をできるだけ少なくすることによって、落下高さにかかわらず着水角θEがほぼ一定となるので、Lgo’を大きくすることによって有利な着水姿勢となるように落下運動を制御しやすいというメリットがある。Lraも拘束回転運動の持続時間に関係する。Lraが大きいと、艇の重心が滑台端を通過したあとに進水レールが滑台端と長く接触し続けるため、拘束回転運動が大きくなる。一般に上述のLgo’をあまり大きくとると滑台システムが大型化して望ましくないと考えられる。一方、Lraは比較的簡単に調整でき他の設計条件とも干渉しないため、拘束回転を抑制する手段としてLraの長さを短くするという方法が有効である1)。ただし、Lraが負になると艇は滑台上で姿勢を保てないため、救命艇の様々な積みつけ状態に対し常にLra>0となるように設計する必要がある。
Fig. 9 Launching parameters.
5.2 遺伝的アルゴリズムを用いた進水条件の最適化
自由落下式救命艇システムでは船型だけでなく上述の滑台からの進水条件も、着水後の艇の運動性能や着水時の衝撃加速度に大きな影響がある5),6),7)。本章ではシステムの最適化手法としてさまざまな分野で用いられている遺伝的アルゴリズムを用いて、5.1節で述べた3つの進水パラメータ(Θ、Lgo’、Lra)の最適化を行う。ただし、本節の検討における救命艇の船型としてはFig. 6のType-3を用いる。なお、本論文では満載状態のみを取り扱うこととする。また、救命艇の重心位置は艇の船尾端からO.4424L(固定)とする。
最適化を行う際には、自由落下式救命艇システムの以下の3つの性能(P1、P2 and P3)を考慮することとする。
P1: 着水時の艇に作用する加速度amaxが小さいこと。
ただし本研究では、
とする。ここでa1、a2、a3はそれぞれ船首、ミッドシップ、船尾の上下方向加速度の最大値とする。
P2: 再浮上時の救命艇重心の水面上最大浮上高さZmaxが小さいこと。
P3: T0秒後における母船と救命艇重心の水平距離XT0が大きいこと。
以上を考慮して、本研究では目的関数を次のように与え、その最大化問題を解くこととする。
ここで、B1、B2、B3は定数であり、試行錯誤により適当な値を定める。
なお、拘束条件としてさらに次の3条件を課す。
C1: 浮上後に正の前進速度をもつ。
C2: 滑降距離に上限、下限を設ける(すなわち0.5L≦Lgo’≦1.0L)。
C3: 重心より後方の進水レール長さは正とする(すなわちLrd>0)。
拘束条件C1〜C3のもとで、遺伝的アルゴリズムを用いて式(14)のFを最大化する組み合わせを求める。3通りの落下高さに対する計算結果をTable 1に示す。表より分かるようにΘの最適値は約40°となった。また、Lgo’は拘束条件C2の最大値1.0Lに一致した。Lraについては、どの落下高さについても0.2L程度となった。以上の設計パラメータの組み合わせに対する救命艇重心の運動軌跡と船首加速度の計算値をFig. 10およびFig. 11に示す。落下高さが大きい場合には、着水後に救命艇が深く潜行することが分かる。また、着水時に発生する加速度の最大値は落下高さにほぼ比例して増加する。
Table 1 Optimum lanching conditions.
H |
Θ |
Lgo’ |
Lra |
|
|
|
|
2.27L |
39.4 |
1.00L |
0.21L |
3.03L |
39.2 |
1.00L |
0.21L |
3.78L |
39.3 |
1.00L |
0.21L |
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Fig. 10 |
Computed trajectories for the conditions shown in Table 1. |
Fig. 11 |
Computed accelerations for the conditions shown in Table 1. |
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