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4. 船型改良による着水性能の改善
4.1 船型の改良
 3章に示したように、本艇には着水時に船首スラミングによる比較的大きな加速度が作用することが分かったため、船型の改良によって船首に作用する衝撃力を下げることを試みる。Fig. 6は、prototype船型(以下Type-1)と二つの改良船型(Type-2およびType-3)を示している。Type-2は、deadrise angleの傾きをType-1よりも大きくし、またセンターラインに対するフレア部外板の傾き角を小さくするように船型を変更したもので、船底および船首フレアにおけるスラミングの影響低減を狙っている。また、Type-3は、Type-2で考慮した横断面内の船型変更に加え、前後方向の船型改良として船首部シアラインの傾斜角を変更したものである。ここで、本論文におけるシアラインとは、救命艇船体の下半分(ロワーハル)と上半分(アッパーハル)の接続部を意味しており、各横断面において最大幅となる箇所をつないだラインに一致している。船体中央付近では、このラインに沿って進水レールが設置されている。なお、FRP製救命艇においては、一般にロワーハル、アッパーハルを別々に製作し、両者を重ね合わせることにより船体を構成している。Type-1、Type-2ではシアラインが船首に向かうに従って上方に大きく曲げられているため、船首前面が静水面に対し平手打ちに近い状態で突入し大きなスラミングが発生しやすい。そこでTyape-3では、船首のシアライン先端位置を下げて水面突入時における船首前面と静水面との相対的な角度を増加させることでスラミングを緩和するようにした。
 
Fig. 6 Comparison of three hull shapes.
(a: Deadrise angle, b: Flare angle, c: Sheer line)
 
4.2 数値シミュレーション結果
 以下、数値シミュレーションを行って3船型の着水時の性能を比較する。ただし、数値シミュレーションにおいては船型の相違のみ考慮し、船体重量、重心位置、慣動半径は3艇とも同一とした。Fig. 7に、落下高さ2.273L、滑台傾斜角40°、滑台上滑降距離0.8L、ガイドレール長さ0.1924Lの場合の3艇の重心軌跡の計算値を比較して示す。図の横軸、縦軸は船長Lで無次元表示されており、z=0は静水面位置を表す。また、x=0は滑台先端の水平方向位置に一致している。次に、船首A1における上向き加速度の比較をFig. 8に示す。ただし、加速度の時間軸はL=1.1m模型に対するものである(以下同様)。Fig. 7およびFig. 8からは、Type-1とType-2の運動および加速度性能にはほとんど相違がないことが分かる。一方、Type-3では着水時の水面衝撃に基づく加速度がType-1に比べ大幅に小さくなることが分かる。その結果、船首上げのモーメントが小さくなりFig. 7に示されているようにType-3の救命艇は水面下に深く潜ることになる。この潜行中に救命艇は減速し、最終的には浮力によって浮上するが、浮上後の前進速度はType-1、Type-2に比べて小さい。すなわち、Type-3は再浮上後の救命艇に前進速度をもたせるという点ではType-1に比べ若干性能が低下する。一方、着水時の衝撃加速度を下げる点では極めて有利な船型ということができる。IMOの救命艇試験に対する加速度推奨値8)は人体の上下方向に対し7g以下となっており、Type-3船型はその制限値を満足することができる。
 
Fig. 7  Comparison of the trajectories of the COGs of three lifeboats (H=2.273L, Θ=40°, Lgo’=0.8L, Lra=0.1924L).
 
Fig. 8  Comparison of the normal acceleration at the bow (A1) of the three lifeboats (H=2.273L, Θ=40°, Lgo’=0.8L, Lra=0.1924L, L=1.1m).


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