日本財団 図書館


4.2 実験結果
(1)個人差に関する実験
 運動による皮膚温度鼓膜温度および人体蓄熱量の変化に対する個人差に関する実験を、4被験者について行った。実験は快晴の日に、弱めの中代謝速度に相当する負荷160Wの運動(2.42〜2.60Met)について15分間を目標として行った。被験者B、Cはともに運動開始から13分で、被験者Dは6分で心拍数が警告値を超えたため、その時点で運動を中止した。各被験者の実験時の条件をTable 5に示す。
 Fig. 5に被験者A、B、C、Dの皮膚温度、鼓膜温度の計測値と蓄熱量計算の結果を示す。
 皮膚温度に関しては、各被験者の初期皮膚温度に差があるものの、皮膚温度の上昇速度は同程度であり、また実験終了後の皮膚温度の降下速度もほぼ同じである。普段からの暑熱下での運動している被験者Aの熱順応を除けば(推定)、皮膚温度の上昇速度には個人差があまり無い。
 
Table 5 Experimental conditions of each examinee
Exerminee Load [W] Met.heat [Met] Temp. [℃] Humid. [%] MRT [℃] Velosity [m/s] Skylight [W/m2]
A 160 2.48 35.9 47.2 61.7 1.22 909
B 160 2.42 35.6 51.0 61.2 1.31 925
C 160 2.60 35.2 46.0 63.4 1.67 897
D 160 2.57 35.0 49.6 59.6 1.23 821
 
 鼓膜温度は、被験者A、B、Cともに同じような上昇速度を示している。ただし、被験者C、Dにおいては運動中止前後に急激な鼓膜温度が上昇・下降する乱れが見られる。
 蓄熱量については、環境要因や皮膚温度に変動があるにもかかわらず、各被験の発熱量(蓄熱量の増加率)はほぼ同じで、その累積値である蓄熱量の変化は時間的な線形性が強い。したがって、蓄熱量に関しても個人差は少ないと考えられる。しかし実際には運動中に心拍数が警告値を超えた被験者もおり、蓄熱量の限界値には健康状態や熱順応性による個人差があると考えられる。
 なお、この実験の結果より、蓄熱量に対する個人差の影響はあまり大きくないと考え、以降の実験では被験者Aについてのみ実験を行った。
 
Fig. 5  Variation of temperatures and heat storage of examinees
(a) Skin temperature
 
(b) Eardrum temperature
 
(c) Storage of body heat
 
(2)代謝量に関する実験
 代謝量の変化に対する代謝量およびその時間的線形性の違いを明らかにするために、エルゴメーターによる運動負荷を0W(1.12Met)、110W(2.02Met)、160W(2.48Met)と変えて実験を行った。ISO7243の分類によれば、これらの運動は「休憩中」、「低代謝速度」、弱めの「中代謝速度」に相当する。なおこの実験では、全天日射量が少ない(薄曇)および多い(快晴)の2条件において実験を行った。
 その実験条件をTable 6に示し、被験者Aの蓄熱量の算出結果をFig. 6に示す。
 代謝量および全天日射量は当然蓄熱量に影響する。全天日射量が多い場合には、代謝量が多くなるに従い蓄熱量も増加しているが、全天日射量が少ない場合の負荷0Wと110Wでは蓄熱量が逆転しており、低代謝量の場合には環境要因が大きく影響するものと推測される。気温や平均放射温度にそれほどの差が見られなかった負荷160Wの実験では、全天日射量の多少により生じる気温や平均放射温度などの差異による影響と併せて、日射による影響が強く表れている。
 
Table 6  Conditions of experiment for varying metabolic rates
Load [W] Met.heat [Met] Temp. [℃] Humid [%] MRT [℃] Velosity [m/s] Skylight [W/m2]
0 1.12 28.7 52.1 43.4 0.70 410
0 1.12 33.3 56.8 65.1 2.11 811
110 2.02 26.3 66.0 33.6 0.93 451
110 2.02 29.2 47.8 62.4 2.19 874
160 2.48 33.7 43.8 45.3 1.00 309
160 2.48 35.9 47.2 61.7 1.22 909
 
Fig. 6  Storage of body heat in experiment for varying metabolic rates
(a) In case of low skylight radaitive heat
 
(b) In case of high skylight radaitive heat
 
(3)日射量に関する実験
 日射の蓄熱量への影響を調べるために、全天日射量が低、中、高の場合において、運動負荷を0W、110W、160Wと変えて実験を行った。ただし、中程度の日射量における負荷0Wの実験は適当な条件が揃わなかった。なお、この実験においても被験者Aについてのみ実験を行った。
 Table 7に日射量に関する実験を行った際の条件を示し、Fig. 7に被験者Aの蓄熱量の算出結果を示す。
 
Table 7  Conditions of experiment for varying radiative heats of skylight
Load [W] Met.heat [MWT] Temp. [℃] Humid. [%] MRT [℃] Velosity [m/s] Skylight [W/m2]
0 1.12 28.7 52.1 43.4 0.70 410 (low)
0 1.12 33.3 56.8 65.1 2.11 811 (high)
110 2.02 26.3 66.0 33.6 0.93 451 (low)
110 2.02 32.4 62.2 44.9 1.16 594 (middle)
110 2.02 29.2 47.8 62.4 2.19 874 (high)
160 2.48 33.7 43.8 45.3 1.00 309 (low)
160 2.48 35.7 49.6 59.0 1.14 712 (middle)
160 2.48 35.9 47.2 61.7 1.22 909 (high)
 
Fig. 7  Storage of body heat in experiment for varying radiative heats of skylight
(a) Metabolic heat: 0W (1.12Met)
 
(b) Metablic heat: 110W (2.02Met)
 
(c) Metabolic heat: 160W (2.48Met)
 
 全ての負荷において、全天日射量が多くなるほど蓄熱量は多くなる傾向にある。ただし、負荷160Wにおいては、全天日射量が中程度および多い場合には蓄熱量の差はほとんど無く、蓄熱量に対する全天日射量の影響はそれ程大きく現れていない。これに対し、全天日射量が少ない場合と中程度の場合には気温などの差が僅かである割には蓄熱量に大きな差異が見られる。一方、負荷110Wの場合には、全天日射量が増すに応じて蓄熱量が増加している。このことから、全天日射量は人体蓄熱へ決定的ではないが、かなり影響を及ぼすものと考えられる。
(4)ファンの効果に関する実験
 造船所において実際に行っている熱対策の1つとして、放熱を促すための冷却ファンによる送風がある。この冷却ファンによる送風がどれほど人体の放熱に対して影響を及ぼすのかを明らかにするために、扇風機による送風中にエルゴメーターにより負荷160Wの運動を行い、蓄熱に対するファンの効果を調べた。この際、扇風機を3台縦に配置し、エルゴメーターで運動している被験者の全身になるべく均等に2.0m/sの風が当たるように調整した。また、全天日射量が多いおよび少ない場合において被験者Aについて実験を行った。
 Table 8に代謝量に関する実験を行った際の条件を、Fig. 8に蓄熱量の算出結果を示す。
 蓄熱量に関しては、全天日射量が多少に拘わらず、ファン無とファン有りとの間に明らかな差が見られ、扇風機による送風により放熱が促され、蓄熱が抑制されていることが伺われる。また、全天日射量が多い場合と少ない場合の蓄熱量の間に差異が見られ、このことからファン有無に拘われず全天日射量が人体の蓄熱量に2次影響も含めて大きな影響を及ぼすことがわかる。
 
Table 8  Conditions of experiment with/without operating cooling fans
Load [W] Met.heat [Met] Temp. [℃] Humid [%] MRT [℃] Velosity [m/s] Skylight [W/m2]
160 (No fan) 2.48 33.7 43.8 45.3 1.00 309 (low)
160 (No fan) 2.48 35.7 49.6 59.0 1.10 712 (high)
160 (Operating fan) 2.48 24.9 52.9 42.2 2.00 440 (low)
160 (Operating fan) 2.48 29.1 49.6 52.5 2.00 703 (high)


前ページ 目次へ 次ページ





日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION