(3)平行パネルライン
平行部ブロック内は比較的空間が狭く半閉鎖的空間である。発生した溶接ヒュームはコアンダ効果により垂直部材に沿って立ち昇ることが多く、上昇する溶接ヒュームは高さ8〜10m付近で停滞し、次第に冷却降下して床面、階段や手すり上などに粉塵として堆積する。そこで、平行パネル区画において溶接ヒューム濃度を水平方向および垂直方向(高さ20m付近まで)の分布について調べた。
計測は平行部パネルブロックの上で行った。A造船所における計測結果をTable 2に示す。これらより、溶接作業点より水平方向へ離れると溶接ヒューム濃度は大きく減少するのに対し、浮力上昇する垂直方向へ離れてもヒューム濃度の減少率が小さいことがわかる。
Table 2 |
Relation between fume concentration and horizontal distance/vertical height from welding work point |
(a) |
Relation between horizontal distance and fume concentration |
Horizontal distance from welding work-point (m) |
0 |
0.8 |
1.7 |
3.3 |
Relative Concentration CR (cpm) |
4370 |
17 |
137 |
124 |
Mass density of metallic fume C2 (mg/m3) |
28.4 |
1.12 |
0.89 |
0.81 |
Height of measuring (m) |
1.7 |
0.52 |
0.52 |
0.52 |
|
(b) |
Relation between vertical height and fume concentration |
Vertical distance from welding work-point (m) |
0 |
1.91 |
3.71 |
5.54 |
6.95 |
Relative Concentration CR (cpm) |
6620 |
4760 |
2090 |
1530 |
959 |
Mass density of metallic hume C2 (mg/m3) |
42.4 |
31.0 |
13.6 |
9.9 |
6.2 |
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A造船所においてヒューム濃度の垂直方向分布を温暖期と寒冷期の2回計測し、その計測結果をFig. 7に示す。温暖期には高さ12m付近まではヒューム濃度は増加しているが、それ以上の高さでは濃度は減少している。それに対し、寒冷期は高さ8m付近まではほぼ一定のヒューム濃度を保ち、それ以上の高さになると濃度は増加し続けている。これらは、工場天井付近と床面の間の温度差に原因しており、温暖期の内業工場内における温度の垂直方向分布はFig. 8に示すように、3℃差以上の高温温度成層が形成して発生したヒューム上昇を阻んでいるものと思われる。それに対し寒冷期はこの現象は起きていない。また、極微細粒子は移流性が高いために、ヒューム濃度は内業工場内の局所的な気流状態にかなり左右される。風速の垂直方向分布をFig. 8に示すが、約12m高さのダクトからの吹き出しやファンの位置により局所的に大きな風速の気流が発生しており、ヒューム濃度はこの影響を受けている。
平行パネルラインではヒューム濃度は溶接作業点の近隣以外は許容濃度以下となっているが、溶接作業点では既に着用されている防塵マスクなどによる防護対策が必要な濃度である。
Fig. 7 |
Mass density of fume along height in warm and cold seasons |
(4)立体ブロックライン
立体ブロック内は比較的空間が狭く、マンホールを除いて半閉鎖空間であることが多く、そのため発生した溶接ヒュームはブロック内に高濃度でかつ長時間留まることになる。そこで、A造船所において溶接作業中の二重化立体ブロック(二重底構造)内のヒューム濃度を計測した。
まず、区画の隅の2箇所でCO2溶接を行っているブロックについてヒューム濃度の計測を行って、その結果をFig. 9に示す。ブロック内で発生したヒュームは壁面に沿って上昇し、その後天井に沿って進み、反対側の壁面に到る前に降下しているが、ブロック内のヒューム濃度は開口部からの気流の影響も大きく受けている。また、ヒューム濃度はブロック内全体にわたって許容濃度を大幅に超えており、局所換気システムの導入や防塵マスクなどの個人防護対策が不可欠である。
さらに、二重化ブロック区画別のヒューム濃度の計測を行い、その結果をFig. 10に示す。これより、ファンやスポットクーラー(夏季)などの局所換気システムを導入している区画は他区画よりヒューム濃度が低減していることがわかる。また計測したブロックでは、開口らの通風と大型のファンが稼動している側の区画のヒューム濃度は他区画より低い。
二重化立体ブロック内ではヒューム濃度はブロック内全体において許容濃度を大幅に超えており、風上側からの作業、局所換気システムの導入や防塵マスクなどの個人防護対策が不可欠である。なお、高濃度となる立体ブロックの換気については次報にて報告する。
Fig. 8 |
Variation of Air temperature and flow speed along height |
Fig. 9 |
Distribution of fume concentration in cubic block with dual covered plantes |
Fig. 10 |
Distribution of fume concentration in cubic block with dual covered plates |
3.5 労働環境の改善のための考察
以上の計測結果から、最も高濃度のヒュームの曝露を受ける作業区域は立体ブロック内であり、他の開放的な作業区画でのヒューム濃度はACGIHが勧告する許容濃度の高々2/3程度であることがわかった。
二重化立体ブロック内のように小さな開口部しか持たない閉空間では、大型の換気装置を導入することはシールドガスの乱れなども起って現実的ではなく、作業員へ防慶マスクの着用など安全教育10),11),12)を徹底させるとともに、現状のようにファンやスポットクーラーで溶接作業者の周囲に浮遊するヒュームを除去13)することが有効である。
全作業ステージにおいて溶接作業点近傍では人体に悪影響が考えられる粒径0.5〜5μmの粒子の構成比が大きいので、局所換気システムの導入や防塵マスクなどの個人防護対策が不可欠である。また、NC切断ラインに関しては、全体換気システムの改善や局所換気システムの新設で労働環境を改善14)することで可能と考えられる。
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