5. 瀬戸内航路におけるフィージビリティ
5.1 設定航路
本論文で提案する高速ROROペンタマランの実現可能性を検証するために、瀬戸内海航路に同船を投入した場合のフィージビリティ・スタディを実施した。設定航路としては、輸送実績等のデータが得られた高松(四国)と宇野(岡山)間の航路を選定した。
同航路は、航路長18キロで、現在3社が700〜1000総トンの旅客カーフェリー13隻余りを就航させている。いずれも航海速力は13ノットで、航海時間は1時間前後である。
同航路の平成14年の輸送実績6)と、それぞれの運賃をTable 2に示す。ただしトラックの運賃は10tトラックの運賃である。
Table 2 |
Annual demand and fare of trucks, passengers and cars in Takamatsu-Uno route. |
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Annual demand (number) |
Fare (JPY) |
Trucks |
691,194 |
7,100 |
Passengers |
1,624,349 |
390 |
Cars |
395,498 |
3,300 |
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5.2 採算計算手法
同航路の既存カーフェリーに代わり、本ペンタマランを導入することの経済的可能性を確認するために、簡単な採算計算を実施した。計算の課程をフローチャートにしてFig. 16に示す。ペンタマラン1隻の運航のための年間総コストはTable 3に基づいて算出し、利益率としては15%を総コストに上乗せをし、その値とTable 2に示す同航路における需要統計と運賃から求まる総収入を一致させることで、航路採算性を評価した。今回の計算では、旅客と一般乗用車の運賃は一定とし、トラックの運賃を変化させて計算を行った。本ペンタマランの航海速力は25ノットなので、航海時間を現行の約半分の30分に縮めることができる。この速力で1日19.5時間運航することとすると、1隻の1日当たりの航海数は26回となる。
Fig. 16 Flowchart for feasibility study.
Table 3 Data to calculate annual cost.
Crew Cost |
8,000,000×Crew |
Maintenance Cost |
Ship Price×2.27% |
Insurance Cost |
Ship Price×0.57% |
Depreciation Cost |
Ship Price×0.97/15 |
Property Tax |
Ship Price×0.75% |
Office Cost |
75,000,000 |
Interest |
Ship Price×3.2% |
Fuel Cost |
9.5/kW/h |
Port Charge |
31,161,000 |
Additional Cost |
13,800,000 |
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5.3 採算計算の結果と考察
パラメータを種々変化させて計算を行ったが、ここではその一例として、船価を20〜50億円まで変化させた時の計算結果をFig. 17に示す。結果は、現在のトラック運賃と比較しており、ペンタマランの隻数を2〜4隻まで変化させている。2隻の場合は55分おき、3隻では36分おき、4隻では27分おきの出港となる。現行運賃の7100円と比較することで、本ペンタマランの運航可能性評価が可能となる。
この図から、ペンタマラン4隻を投入し、1隻の船価が45億円以下であれば、現行運賃より低い運賃での運航が可能であることが分かる。ただし、4隻投入時の運航間隔は27分であり、現行の15分間隔のサービスに比べると時間間隔が延びることとなる。ただし、港での待ち時間と航海時間を加えた総所要時間では、ペンタマランの方が若干の有利となり、利便性ではほぼ同等、もしくは若干優位にあるものと思われる。
Fig. 17 |
Result of feasibility study on operation of the pentamaran in Uno-Takamatsu route. |
6. 結言
在来の単胴内航船に代わる新しいタイプの船として、5胴の船体を有するペンタマラン型船のコンセプトデザイン、性能評価、経済性評価を行い、以下の結論を得た。
1)ペンタマランはモノハルに比べると浸水表面積が大きいため摩擦抵抗が増加するが、デミハルの細長比を大きくすることができることから25ノット前後の高速域では造波抵抗を大幅に削減でき、本研究で比較対象船として選択したL/Bの大きい在来型の単胴カーフェリーに比べると小さい機関馬力で運航可能となる。
2)ペンタマランは非常に大きな復原性をもっており、しかもその固有周期は大振幅動揺を起こしにくい周期にあり、さらに横揺れ減衰力が非常に大きいため、横揺れは非常に小さい。
3)本ペンタマランの縦波中での縦揺れは、比較対象船とした単胴小型カーフェリーよりもかなり大きい。この縦揺れはTフォイルを取り付けても減少しなかった。
4)本ペンタマランにTフォイルを取り付けることによって、上下揺れが小さくなり、船上の上下方向加速度も比較対象船とした単胴小型カーフェリーと船体後半部においてはほぼ同等となる。ただし、船首部では本ペンタマランの上下加速度は大きく、縦揺れを軽減させることによって上下加速度を低減することが必要である。
5)本ペンタマランは、アルミ製にすれば420トン余りの載貨重量が確保でき、さらに広いデッキ面積を確保することができるため、輸送効率の改善が見込める。
6)本ペンタマランを高松〜宇野間の航路に投入するとしたフィージビリティ・スタディの結果、現在の需要が維持されるという仮定にたてば、現行のカーフェリーよりも安い運賃で運航できる可能性がある。
本研究は、広く国内で使用されている60mクラスのカーフェリーの高速化、高効率化を目標として、新しい船型としてペンタマラン船型を提案し、その基本性能および経済性分析を行って、同船型の可能性について検討したものである。その結果、大きな可能性をもつことが示されたので、今後、さらに推進性能や操縦性能、建造方法等についての検討が必要となる。推進器としては、電動ポッド推進器が最も有望と考えているが、今後、さらに詳細な検討を続けていく所存である。
参考文献
1) J.Ando, R. Yamashita, A.Yoshitake and K. Nakatake: "A calculation method for wave making resistance of catamaran and trimaran", Proc. of New S-Tec 2002, (2002)
2) Y. Ikeda, S. Nishimura and M. Okada: "Development of Fast Car-Ferry Networks in Japan in the 21st Century, Proc. of 2nd Conference for New Ship & Marine Technology into the 21st Century, Hong Kong, 1998
3)西村里和、池田良穂: 高速カーフェリーを用いた海上交通システムのフィージビリティ・スタディ、関西造船協会誌、第232号、pp.173-181、1999.9
4)池田良穂: フェリー・客船情報’99〜2004各年度版、船と港編集室
5)赤木新介: 新交通機関論、コロナ社、1995
6)国土交通省四国運輸局: 本州・四国間の旅客及び貨物の動向、2003
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