5. 海事局(Marine Department)の概要
タイにおける海事局は、物流や隣国との運輸体制を設立するために、経済社会を強化し、また、その鍵となる海上輸送の構造基盤の発展させることを目的として、運輸通信省の下に設立された。船舶の登録、船舶検査、水先案内、航行安全、PSC、船員の訓練と資格証明、海洋環境保護、海難の調査、航路の浚渫とメンテナンスなどを担当し、海洋ならびに内陸水路のほとんどを管轄している。
以下では、海事局について、その目的、組織について説明し、そして、海事局が管轄するところの育成について触れることとする。また、海事局の業務の一つであるPort State Control(PSC)については、サブ・スタンダード船等の安全に問題のある船舶の排除を目的とするなど、海上保安業務において必要性が高いため、別途、説明する。
(1)組織の役割
イ 海上衝突予防法、海商法、その他の関連法に基づく法執行を、自国領海内航行船舶と自国籍船舶の航行、活動に対して行う。
ロ 水上運輸の基幹部門の発達のための研究を行う。
ハ 水上運輸、及び水上運輸産業に対し規制を行う。
ニ 協定や国際会議を含め、水上運輸、及び水上運輸産業の分野で関係する地域、国際機関、組織と協力し調和を図る。
ホ 運輸省、内閣、又は法により委託されるその他の業務を行うこと。
(2)組織体制
イ 組織
海事局は局長、局次長3名(管理担当、運用担当、技術担当)の下、4つの部門と、更に8つの課、商船専門学校、その他の7地域事務所により組織されている。
部門 |
課 |
海上安全・環境部
科学調査部
水路部
海運部 |
船舶検査課
船舶登録課
水先案内課
技術・企画課
秘書課
会計課
法務課
国際業務課 |
|
組織図としては以下のとおりである。
ロ 人員
公務員(officer) 1187人
職員(regular hire) 894人
臨時職員(temporary hire) 444人
計 2525人
円グラフ:人員全体に占める割合
(3)海事局による船員・パイロットの育成
海事局が管轄する教育・訓練については、その組織内の船員養成機関である商船大学校(Merchant Marine Training Center)において船員の養成を行っている。商船大学校については後に詳しく述べることとする。
また、船員の教育の他に、パイロット(水先人)の監督も行っている。仏暦2477年(西暦1934年)、経済省担当の州議員によって行われた、タイ水域における航行法令第4章の修正により、パイロット・サービスを勘案した行政規則が定められた。タイ水域における全てのパイロットは4つの階級に振り分けられ、国内外の船舶に対し水先案内の義務を持つ。4つの階級については以下のとおりである。
(I)Senior Grade Pilot
トン数のいかんに関わらず全ての船舶に対し水先案内を行う。
(II)First Grade Pilot
全長が565フィート(172.26メートル)を超えない船舶に対し水先案内を行う。
(III)Second Grade Pilotについて更なる分類は以下の通り。
III-1 Second Grade A Pilot
全長が500フィート(152.44メートル)を超えない船舶に対し水先案内を行う。
III-2 Second Grade B Pilot
全長が450フィート(137.20メートル)を超えない船舶に対し水先案内を行う。
III-3 Second Grade C Pilot
全長が400フィート(121.92メートル)を超えない船舶に対し水先案内を行う。
(IV)Special Pilot
資格上、特別に定められる船舶に対し水先案内を行う。
また、パイロットになるためには以下の要件を満たす必要がある。
イ タイ海軍士官学校、又は、海外の海軍大学を卒業し、軍艦の艦長、若しくは、外航船の船長を最低1年以上経験し、船長である法的資格を有すること。
ロ 国内又は、海外の航海科の専門学校を卒業し、全長450フィート(137.20メートル)以上の外航船の船長を最低1年以上経験し、船長である法的資格を有すること。
ハ 年齢が30歳以上45歳以下であること。
ニ タイの公務員規則に定められた公務員であることに充分な資格を有すること。
全てのパイロットは次の6つの港で水先案内業務についている。
・Bangkok Port = 52 Pilots
・Sriracha and Leam Cha Bang Port = 16 Pilots
・Maptaphut, and Sattahip Port = 4 Pilots
・Songkhla Port = 3Pilots
・Phuket Port = 2 Pilots
計 77 Pilots
(4)PSCについて
海事局の主要な業務の一つにPSCがある。PSCとは、国内の港に入港した船舶に対して海事関係法令に基づく監督を行うものである。寄港国の政府は寄港する外国船舶に対し立入検査を行い、技術基準に適合しているかどうか監督を行うことができ、立ち入り検査の結果著しい基準不適合が認められれば、改善を命令し、場合によっては航行停止処分などの処分を課すことができる。
PSCの世界的取り組みとしてMOUがある。MOUとはMemorandum of Understanding(覚書き)のことである。近年は一定地域が協力してPSCを行うようになり、パリMOU(欧州・北大西洋地域)や東京MOU(アジア・太平洋地域)等、8つの地域協力組織が設立され、より多くの国々で厳密なPSCが行われるようになってきている。
アジア地域においてPSCの中心であり、タイも参加しているものが東京MOUである。東京MOUの正式名称を「アジア・太平洋地域のポート・ステート・コントロールに関する覚書」という。IMOの指導のもとアジア太平洋地域の18ヶ国が参加してPSCの協力体制に関する各国海事当局間の覚書を採択し、事務局を東京においてPSCを支援している。
東京MOUの参加国は、日本、オーストラリア、カナダ、中国、フィジー、インドネシア、マレーシア、ニュージーランド、パプアニューギニア、韓国、ロシア、シンガポール、タイ、バヌアツ、フィリピン、ソロモン、ベトナム、チリとなっている。
タイは1996年の5月1日から東京MOUに加盟し、PSCは海事局の船舶検査課(Ship Survey Division)によって行われている。船舶検査課の組織としては以下の図のようになっている。
なお、日本においてPSCは国土交通省の地方運輸局において昭和50年後半から行われ、平成9年(1999年)から、外国船舶に対しPSCを専門的に実施する「外国船舶監督官」が設けられ、PSCの拡充が図られている。
6. 商船大学校(Merchant Marine Training Centre)の概要
Merchant Marine Training Centre(MMTC)は運輸省海事局の管轄の下、商船船員の育成のため、1978年内閣決議によって設置された。MMTCは初め、Merchant Marine Schoolとして1972年開設以来その名が知られていた。その学校は、国営汽船企業のThai Maritime Navigation Co.Ltd.に士官レベルの船員を育成するためのものであった。その後、様々な教育コースやカリキュラムが加えられていく中でMMTCは誕生したのである。1982年、Harbor Department(現・海事局{Marine Department})は、デンマーク政府より、カリキュラムの発展・向上のため2名の専門官と、1089トンの練習船Visud Sakornの技術協力援助を受け始める。その練習船は1985年にデンマークで建造されたもので、当時では、ASEAN諸国の中で最も近代的な練習船の中の一つであった。MMTCは初め12年間、Marine Department施設内の一部分を、キャンパスとして一時的に使用していたが、現在ではバンコク・チャオプラヤ川に面した校内に4つの主要な建物を中心として設置されている。訓練施設や備品は、STCW conventionにしたがって、日本やデンマークからのさまざまな支援や援助を受けて、現在もさらなる充実を図っている。以下に調査内容を記載する。
(1)組織の役割
イ STCW1978/1995スタンダードに応じた商船業務を行うことができる資格を有した人材の育成。MMTCの業務に関して、先に述べた資格を有した人材は、遠洋船舶に従事する仕官になるように教育をうける。
ロ 国家の商船業務普及促進と、自国の経済開発の充足。
ハ 商船業務の低迷に対する国家による人材確保のための人的要員の育成。
ニ 高度な能力を有し、高い道徳性を備えているだけではなく、生涯の計画と社会人としての規範の中で、自身が背負う負担に責任を持つことができる人材の育成。
ホ 社会と国家の有益のため、高度な情報テクノロジー、研究・開発を応用する過程の中で、人材の成長を促進させる。
へ 商船業界に熟練した人材を輩出し、それぞれの高い関心、創造力、責任感、リーダーシップと専門性の向上を図る。
(2)組織体制
イ 組織内のセクション
MMTCには、以下のセクションが設置されている。
総務部(General Administration section)
教務部(Educational Service Section)
練習船(M.V.Visud Sakorn)
練習船(M.V.Phayu Harak)
教育訓練部(Academic Group Section.)
→教育訓練部には以下のサブセクションが設置されている。
一般教育課(General Educational Sub-Section)
航海課(Deck Sub-Section)
舶用機関課(Marine engineering Sub-Section)
管理課(Governing Sub-Section)
訓練課(Practical Training Sub-Section)
ロ 職員数
職員数 233人(2005年次)
生徒数
Cadet course (regular) 833人(2004年次)
Cadet course (special engine) 106人(2004年次)
Cadet 918人(2005年次)
ハ 教育訓練施設
・練習船
・語学演習室
・船舶運用演習棟(−舶用計器室−運用実験室−貨物荷役セクション−防火訓練区画)
・機関科実験棟
・科学実験室
ニ 教育・訓練の内容
校訓:"academic excellence, virtue upholding, and leader in the profession"
教育方針は以下のとおりである。
・航海科・機関科教育の発展と促進
・国際基準に合致したカリキュラムと教育方法の継続的進展
・資格を有した船員を育成する教育システムの開発
・国内外の大学との交流ネットワークの発展
コースとして以下のものがある。
・Cadet Course 5years
・Intensive Course 2years
・Special Course 3years
・Rating Course 2months
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