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4.3.2 高速混合中和システムの検討
 現在、IMO(国際海事機関)においては、排気ガスを海水で処理してSOX除去を行うスクラバ技術に関する検討が行われており、排ガスからのSOX除去技術として有効性が指摘されている。ACF触媒を利用した本排煙処理システムは、スクラバ技術と類似した目的と機能を持ち、排ガスから除去されたSOXは全て排出水中に移動することになる為、排出水中には多量の硫化物イオンが含まれ、排出水のpHが低下する。海洋における排水に関して、pHの規制は現状のところ規定されておらず、IMOにて検討されているスクラバの排水に関する排出基準としては、「生態系に悪影響を及ぼし得る物質を、除去又は害にならない程度まで低減すべき。」という基本方針のみが示されているのみで引き続き協議することになっている。いずれにしても、上記背景からACF触媒を用いた排煙処理システムについてもスクラバと同様な排水基準適用されることが予想されることから、排出基準への対応について目処付けしておく必要がある。
 そこで本項では、ACF触媒を用いた排煙処理システムから排出される酸性排出液について、中和処理を行うシステムについて海水希釈量とシステム動力費の検討を行う。
 
(1)方法
 海水中には重炭酸イオン(HCO3-)等のアルカリ成分が含まれ、SO2の吸収により以下の反応式にて中和される。
 
HCO3-+SO2+H2O→HSO3-+H2O+CO2
 
 この為、SO2吸収量が増加しても、海水中に含まれるアルカリ成分を中和するまでは急激なpH低下は生じない領域が存在する。一方、吸収されたSO2量が、海水中に含まれるアルカリ成分による中和許容量を超えた場合、排出水のpHは主に硫酸水素イオンの解離平衡により決定される。いずれの場合も、排出水中の硫酸濃度を用いて、アルカリイオン濃度、物質保存則、各イオンの解離平衡、電荷保存則から成る連立方程式を解くことにより排出水のpHを計算することが出来る。
 排出水のpH基準として仮に水質汚濁防止法の排水基準値(5.0<pH<9.0)を想定した場合、上記計算により算出された、吸収SO2量と排出水のpHの関係を元に、中和に必要な海水量を計算する。
 また、本研究における船舶用ACF排煙処理システムでは、H17年度よりACF反応器の前段にばいじん除去と圧損負荷軽減を目的としてジェットスクラバ設置したが、ACF反応器から排出される排出水量は、ジェットスクラバよりもはるかに少ないため、ジェットスクラバ排出水と混合することで、高速中和を行うことを想定し、中和に必要な海水量分だけジェットスクラバのL/Gを増加させた場合に必要な所要動力に及ぼす影響を評価することにした。
 
(2)結果及び考察
 図4.3.2.1に硫酸濃度負荷(海水に吸収された硫酸濃度)と排出水のpHの関係を示す。硫酸濃度負荷が100mg/Lを超えると、海水中のアルカリ成分による中和許容量を超え、急速にpHが低下する様子が認められる。
 図4.3.2.2に上述の硫酸濃度負荷とpHの関係及びACF触媒を用いた排煙処理システムの排出水のpH(〜2.7)から計算した、排出水の希釈率とpHの関係を示す。この結果から、排煙処理システムの排出水を海水で2倍以上に希釈すれば、水質汚濁防止法の排水基準値(5.0<pH<9.0)をクリア出来ることが判った。
 次に、上記結果を受けてジェットスクラバのL/Gを2倍にした場合の所要動力を計算した。尚、計算に際しては、VLCCクラスの船舶を前提として、ジェットスクラバの動力費はポンプ動力で代表されるとして、計算を実施した。計算結果を表4.3.2.1に纏める。VLCC船の稼働率を70%とした場合、中和処理を未実施の場合と実施の場合では、エンジン出力に対する所内率が1.0%増加することが分かった。
 上記ポンプ動力は、排ガス処理装置が設置される位置まで海水を汲み上げる為に必要となるものであるが、本研究において実施したジェットスクラバ運用条件に必要な動力と同等であるため、現実的でない。今後の規制動向によりシステムの再検討が必要であるが、中和用の海水を船内部に多量に取り込み混合して排出するよりは、現在、米国が提案しているように、船底や船尾に設置したノズルにより直接船外に排出し混合する方法の方が簡便であると考えられる。
 
図4.3.2.1  硫酸濃度負荷(海水に吸収された硫酸濃度)と排出水のpHの関係(計算値)
 
図4.3.2.2  排煙処理システム排出水の希釈率とpHの関係(計算値)
 
表4.3.2.1  ジェットスクラバによる中和処理の動力費に与える影響
Case1 Case2
中和未実施 中和実施
L/G - 6.23 12.46
排出水のpH - 2.7 5.0
エンジン出力 kW 22.967 22,967
ガス量 m3N/h 173,100 173,100
使用水量 kL/hr 1,078 2,157
揚程 m 61 61
海水密度 kg/kL 1,030 1,030
ポンプ効率 - 0.8 0.8
JSポンプ消費電力 kW 231 461
燃費単位 g/kWh 163 163
燃料密度 g/L 970 970
稼働率 70 70
年間稼動時間 h/yr 6,132 6,132
燃料消費量 kL/yr 237.58 475.15
所内率増分 基準 1.00


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