1.2.3 レーダ情報とAIS情報の統合
前節に示した船舶映像画素数から長さを推定する方法の他、東扇島に設置されたAISを利用すると、正確な船体長を得ることが可能であるが、そのためにはレーダ画像とAIS情報の重畳をしなければならない。AISの位置情報とレーダ画像を重畳させることで、船舶映像による位置情報と、AISの正確な情報を利用できる。
図1.2-27は、船舶影像中心(黒点)とAIS位置情報(白点)を示す。このように二つの位置が重なった場合、その処理は用意であるが、図1.2-28に示したように船舶映像の中心とAISの位置は一致しないことが多い。
図1.2-27 |
AIS座標(白点)とレーダ画像による重心位置(黒点) |
図1.2-28 レーダ画像とAISによる位置情報
図1.2-29 船体映像の重心位置の探索
しかし、AISの位置と船舶映像の中心が大きくずれることは無いため、AISの位置を中心に、画素単位で船舶映像の探索を行う。AIS位置の付近に船舶映像が存在すれば、その映像がAIS情報の船舶と判断できる。(図1.2-29参照)
このような方法によって得られた情報を元に東京湾内の衝突危険性の検討を行った。衝突の危険性は、L換算密度とSJ値により判定を行った。
(1)L換算密度
海上を航行する船舶には、300mを超えるタンカーのような大型船から漁船のような20m未満の小型船舶まで大小様々なものがある。このことから、ある海域における船舶の隻数を求める場合、船舶1隻を1隻分として解析すると、必ずしも船舶密度が海域における船舶の混み具合を表現するための指標になるとはいえない。L換算密度では、船舶の全長における平均的な長さである70mを基準船舶として考える。そして、それぞれの船舶が基準船舶に対してどの程度の長さであるかで隻数を決める。たとえば、船舶の全長が35mだった場合、0.5隻として、船舶の長さが140mである場合には、2隻分として計算される。
このように計算することで、大きな(船体が長い)船舶が多く存在する海域のL換算密度が高くなる。従って、L換算密度は衝突の危険につながるある海域における船舶の混み具合を表現する良い指標となる。
(2)SJ値(Subjective Judgment Value: 主観的衝突危険度)
SJ値とは、操船シミュレータにより得られた衝突危険評価の考え方であり、操船者が他船に対して感じる主観的な衝突危険度を判定するものである。この評価指標は、他船との相対方位変化率距離、距離変化率及び自船と他船の長さと速力を用いて回帰式で計算される。ここでは、見合い関係を、2船の針路差が170°〜190°である場合を行き会い、10°以内である場合を追い越し、それ以外を横切りとし、それぞれの見合い関係について以下に示す計算式を用いた。
以下の式で計算されるSJ値は、正の値が大きいほど安全で、負の値が大きいほど危険である。SJ値は+3(極めて安全)から-3(極めて危険)までの値をとる。
・横切り
自船が避航船の場合:SJ = 6.00Y + 0.09 Rp - 2.32
自船が保持船の場合:SJ = 7.01Y + 0.08 Rp - 1.53
・行き会い:SJ = 6.00Y + 0.09 Rp - 2.32
・追い越し:SJ = 54.43Y + 0.24 Rp + 2.77 dRp/dt - 0.784
ここで
Y = |dh/dt| Lo/Vo
Rp = R/{(Lo + Lt)/2}
dRp/dt = Vr/Vo
dh/dt: 他船の方位変化率(rad/min)
Lo: 自船の全長(m)
Lt: 他船の全長(m)
Vo: 自船の速力(m/min)
Vr: 自船と他船との相対速力(m/min)
R: 自船と他船との相対距離(m)
構築したレーダネットワークシステムにより観測した2004年5月27日00:00から5月28日23:59までの24時間の船舶交通流データを用いて、前述したL換算密度分布とSJ値による解析をおこなった。
この24時間中の全船舶の航跡を図に示す。
図1.2-30 24時間中の全船舶航跡
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