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はしがき
 東京海洋大学は、研究プロジェクト「東京湾における船舶航行監視・解析システムと海況監視システムの開発」を、2005年度日本財団助成事業として実施した。本報告書は、その研究成果をまとめたものである。
 内容は、第1章「東京湾における船舶航行監視・解析システムの開発」と第2章「東京湾における海況監視システムの開発」からなっている。
 第1章の執筆は海洋工学部が担当し、2局のリモートレーダと1局のリモートAIS(船舶自動識別装置)による船舶航行監視システムの構築とそのWebサイトの開発、および船舶航行解析システムの構築と船舶交通特性の把握について述べた。
 第2章の執筆は海洋科学部が担当し、リアルタイムで連続的に水温・塩分・流速をリモート監視できるブイ型水質・海況監視装置の開発と観測データを公開するWebサイトの開発、および海況予測・漂流予測モデルの開発について述べた。
 この報告書が、東京湾における船舶航行の安全性向上と東京湾における海況の現状把握と予測、さらに油流出事故時の油拡散予測等に大きく貢献できれば幸いである。
 
2006年3月31日
東京海洋大学
海洋工学部 萩原秀樹
海洋科学部 北出裕二郎
 
第1章 東京湾における船舶航行監視・解析システムの開発
 東京湾は世界有数の船舶交通の輻輳水域であり、大きな海難が発生すれば経済活動や自然環境に与えるダメージは計り知れない。輻輳水域での海難を防止し、海上交通の効率向上を図るには、海域の交通特性を知り、適切な海上交通管理を行うことが重要である。また港湾や架橋、航路等の新設・変更を行う場合、あらかじめ海上交通への影響を検討することが不可欠である。
 海上交通特性の調査には、その海域における船舶交通観測と観測結果の解析が欠かせない。従来の船舶交通観測は、観測船、レーダ観測車、観測員など多大の資材と労力を要するものであったため、限られた海域についての限られた期間の情報しか入手できなかった。
 そこで東京海洋大学・海洋工学部では、横須賀の防衛大学校校屋上と川崎の東扇島にある倉庫会社の屋上にリモートレーダを設置し、さらに東扇島のレーダにAIS受信機を併設して、大学の監視局から完全にリモートで東京湾の船舶交通観測が行えるシステムを開発してきた。
 本研究では、2つのレーダ局からのレーダ画像を統合し、それにAIS情報を重畳して表示する船舶航行監視システムを構築し、それをWebサイトで公開するシステムを開発した。また、観測されたレーダ画像から航行船舶の映像を自動的に抽出し、船舶の航跡を自動的に取得する自動トラッキングシステムを開発した。さらに、レーダ画面上における船舶映像画素数から船体の長さを推定する方法やレーダ情報とAIS情報を統合表示するソフトウェアを開発し、L換算密度およびSJ値(主観的衝突危険度)を用いて東京湾における衝突危険海域を抽出した。
 以下に本研究の成果を述べる。
 
1.1 船舶航行監視システムの構築
1.1.1 リモートレーダ観測システムの構築
 本システムは、川崎の東扇島にある倉庫会社と横須賀の防衛大学校の屋上に設置した2つのレーダ局と、東京海洋大学越中島キャンパスに設置した監視局によって構成されたネットワークによって、東京湾を航行する船舶交通の観測を行うものである。図1.1-1にシステムの概念図を示す。横須賀の防衛大学校のレーダ局(以後、防衛大局と呼ぶ)と、川崎の東扇島のレーダ局(以後、東扇島局と呼ぶ)により、北は京葉シーバース付近から南は観音埼付近までレーダ観測を行う事が可能となった。
 
図1.1-1 東京湾レーダネットワークシステム
 
 図1.1-2に通信システムの構成を示す。レーダ局には、舶用レーダ(図1.1-3(A)に防衛大局のレーダアンテナ、図1.1-3(B)に東扇島局のレーダアンテナを示す。)、レーダ画像モニタと通信用コンピュータが設置されている。(東扇島についてはAIS受信機も設置)監視局には、図1.1-4に示す通信用コンピュータとWWWサーバを設置した。
 本システムのデータ伝送形式は、監視局である東京海洋大学と防衛大局との間についてはADSL回線による常時接続方式を採用している。東扇島局との間については、光ファイバー回線による常時接続方式を採用した。なお東扇島局に併設されたAIS受信局のデータは、レーダのデータと同じ光ファイバー回線により伝送される。
 
図1.1-2 通信システム構成図
 
図1.1-3(A) 防衛大局レーダアンテナ
 
図1.1-3(B) 東扇島局レーダアンテナ
 
図1.1-4  通信用コンピュータ(左側)とWWWサーバ(右側、モニタは共通)
 
図1.1-5 本システムを用いて観測した東京湾レーダ画像
 
 図1.1-5は、このシステムを用いて観測した2局のレーダ画像と、沿岸線、ブイを表示している。防衛大レーダ局によって、浦賀水道航路、中ノ瀬航路を航行する船舶を、東扇島レーダ局によって、川崎沖、アクアライン付近の東水路、西水路を航行する船舶の監視が可能である。


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