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2005.3.30
安全かつ効率的な国際物流の実現のための施策パッケージ
 世界経済のグローバル化、情報化等が一層進展する中で、米国・同時多発テロ以降の諸外国及び国際機関の動向に的確に対応した物流セキュリティの強化が求められている。一方、物流セキュリティの強化によって、円滑な物流を阻害することなく、物流効率化を一層進めることもあわせて重要となっている。
 
 このため、コストを含めて国際的に競争力のある水準の物流市場の構築を図るため、官民の協働により、安全かつ効率的な国際物流を実現するための今後の具体的な対応の方向を、以下のとおり取りまとめた。
 
※この施策パッケージにおいては、我が国における国際貨物量の太宗を占め、迅速な物流がより要求され、かつ可視性が低く、一旦安全保障等に係る事件が発生すると我が国の物流システムへの信頼性が揺らぎ、結果として大きな経済的影響を及ぼす海上コンテナ貨物に焦点をあてた施策を中心に取り纏めるものとする。
 
I 現状と課題
(1)国際的な取組
 国際物流は、国境を越える貨物の移動であり、一国の施策で完結するものではなく、国際的な連携が重要である。このため、効率的な国際物流の実現やテロ対策等の強化を国際的に連携して推進すべく、国際機関や各国において次のような取組が行われている。
 効率的な国際物流の実現のため、船舶の入出港に関しては、国際海事機関(International Maritime Organization: IMO)において、1965年に国際海上交通簡易化条約(Convention on Facilitation of International Maritime Traffic: FAL条約)が採択された。我が国においても、これを早急に締結し、これを契機として輸出入・港湾関連手続全体を可能な限り簡易化することが重要である。
 また、通関に関しては、世界税関機構(World Customs Organization: WCO)において、1973年に京都規約(税関手続の簡易化及び調和に関する国際規約)が採択され、近年の物流動向の変化等に対応し、1999年に改正(改正京都規約)された。改正京都規約の発効は、現行規約締約国のうち40カ国以上の受諾が条件となっているため、現時点ではまだ発効していないが、我が国は2001年に率先して改正京都規約を受諾しており、引き続き、改正京都規約の早期発効に向け、国際的な連携を進めていくことが重要である。
 一方、2001年9月の米国・同時多発テロ以降、様々な分野でテロ対策等セキュリティの強化が急速に行われてきた。
 IMOは、2001年11月の第22回総会において、海事分野の保安対策の強化を図るため既存条約の見直し等を行う旨の総会決議を採択し、翌2002年12月に船舶及び港湾施設の保安強化を目的として「海上における人命の安全のための国際条約(International Convention for the Safety of Life at Sea: SOLAS条約)」の改正及び「船舶及び港湾施設の国際保安コード(ISPSコード)」を採択して、2004年7月に発効している。これを受けて、我が国では「国際航海船舶及び国際港湾施設の保安の確保等に関する法律」を制定し、所要の措置を講じている。
 また、WCOにおいても、テロ対策の強化等の取組が行われており、2004年6月にWCO総会において採択された「国際貿易サプライチェーンの安全確保及び円滑化の措置の実施に関するWCO総会決議」により、1年間で「国際貿易の安全確保及び円滑化のためのWCO「基準の枠組み」」の策定を目指すことが合意され、現在、具体的な検討が進められている。
 さらに、CSI(Container Security Initiative)など、税関二国間でも、テロ対策が進められている。
 グローバル・サプライチェーン(G-SCM)の中でのセキュリティと効率化の両立のため、国際的な連携の下、国際物流に関わる幅広い官民の関係者の連携に基づく国際的に整合性のとれた取組を推進する必要がある。このため、貨物や輸出入者・物流事業者等に関する情報の流れを関係者間でどのように円滑にしていくのか、電子的申請という形でその情報を行政と民間事業者との間でどのように共有していくのか、セキュリティ対策の強化の責任を果たそうとする物流関係者はどのような内容の取組を実施すればよいのか等に関し、それぞれの国の事情等に即したものとすると同時に、国際的に調和させていくことが重要である。
 
(2)国際海上コンテナに関する安全対策
(1)セキュリティ対策
 米国9.11同時多発テロ以降、様々な分野でセキュリティ対策の重要性が高まっている。国際物流の分野では、例えば米国は、CSIと関連して、コンテナ貨物に関する積荷目録(マニフェスト)情報を船積24時間前までに提出することを求めている。また、EUではCSIに積極的に参加するほか、輸出入前の貨物情報の提出、コンプライアンスの高い貿易業者への手続きの簡易化等についてEU関税法の改正を検討している。さらに、米国における対策の一層の強化や、米EU間における連携等の動きがある。これらの措置は、可視性の低い国際海上コンテナに対してサプライチェーン全体を通じた管理体制を確立することでセキュリティの強化を図るものである。
 一方、米国側の対策が原因で、コンプライアンスの高い者も含め対米輸出国側の事業者に大きな負担が生じていることも事実である。特に、船積24時間前までにマニフェストを提出するため、従来、船積1日前程度に設定されていたコンテナヤードへのコンテナ搬入締切時刻(コンテナヤード・カット・オフ・タイム:CYカット)が約48時間程度前倒しされており、著しく物流効率が低下している状況にある。また、船の場合と他の交通機関での事前情報提出に関する時間に差異があり、輸送モード間の公平な競争に配慮が必要である。また、貨物等に関する情報の流れをより円滑にしていくことによって、実際の貨物の流れへの影響を最小限に抑え、軽減することが可能である。
 また、貨物情報の早期把握は、リスクマネジメントの強化やITの活用を通じて、問題のある貨物の早期発見による安全な国際物流や我が国の安全保障貿易の推進等の実現と同時に、セキュリティ対策の強化の責任を果たそうとする物流関係者の貨物についてリスクが低いことを確認することを容易とし、効率的な国際物流にも資する。このため、その成果をセキュリティ対策の強化の責任を果たす物流関係者に還元することも重要である。C-TPAT(Customs-Trade Partnership Against Terrorism)のようにセキュリティ対策の強化の責任を果たす物流関係者には、そのメリットを還元することにより、セキュリティ強化と物流効率化を両立することが可能となる。
 これらの対策に加えて、物流関連施設や物流事業に従事する者に関するセキュリティ対策を強化する必要がある。例えば、国際コンテナターミナル(CT)等の港湾施設における出入者・車両確認システムの自動化、全国共通化を行うことにより、なりすまし防止等出入管理の徹底といった保安性の向上を確保した上で、物流の効率化にも資するノンストップゲートシステムの構築を行っていく必要がある。
 
(2)セーフティ対策
 国際海上コンテナは開封せずに輸送することから、コンテナ内の貨物の積付け・固縛の不良を陸上輸送時に把握することは極めて困難な状況である。
 積付け・固縛の不良は、積荷のコンテナ内の移動による破損等やコンテナドア開放時の貨物の荷崩れ事故につながるとともに、偏過重や積載バランスの不良(片荷や高重心)による操縦安定性の低下をもたらし、横転事故等につながる危険性が高い。
 また、陸上輸送を行う際、運送事業者にとってコンテナ内における危険物の有無、危険物の種類や数量、危険物の性状等の情報を把握することは、輸送時の事故やテロの際に適切な処置を行ううえで極めて重要な情報であるが、現状はこうした情報を十分に把握したうえで輸送していない。
 このことは、テロや荷崩れ事故等の緊急時における対応の遅れにつながるほか、二次災害発生の危険性も高くなる等の問題があることから、外航船舶運航事業者等が保有するコンテナ内の貨物情報を運送事業者にも共有する等、陸上輸送の安全対策を強化する必要がある。
 
(3)国際海上コンテナに関する効率化対策
(1)物流関連施設の効率的な運営
 東アジア地域の経済成長が著しく、市場規模の拡大、水平分業の進展等にともない、東アジアの地域の主要港湾のコンテナ取扱量が激増し、日本の港湾が相対的地位を低下させている。港湾の国際競争力の低下は、取扱量の相対的減少による港湾コストの相対的な増加を招き、コンテナ船の大型化の進展とも相まって、欧米との長距離基幹航路に就航するコンテナ船の寄港頻度の減少を招くこととなる。これに伴う、積替えコストや時間の増加は結果として全体の輸送コストを増加させ、港湾を通じて輸出入を行う国内主要製造業の国際競争力の低下をもたらし、ひいては経済全体の生産性の向上が妨げられ、国民の生活水準の低下につながる可能性が高いことから、国の根幹を支える貿易活動の玄関口としての港湾を中心とした物流関連施設やロジスティクス・ハブとしての機能強化を、従来の制度・慣行の枠組みにとらわれず進める必要がある。
 また、コンテナ貨物の輸出者と輸入者は一般的に異なる者であることが太宗であり、輸入で使用されたコンテナがそのまま輸出用に使用されることが少なく、空コンテナの地域的な需給の不均衡による非効率な空コンテナの流動が発生している。国際海上コンテナ物流全体の効率化のためには、空コンテナ流動の効率化を検討することも必要である。
 
(2)行政手続・民間業務の改善
 官民にまたがる輸出入・港湾業務に関する複雑な手続・業務の改善については、FAL条約の締結やセキュリティ対策の導入を契機に、行政手続及び民間業務の両面にわたり徹底した業務革新(Business Process Reengineering: BPR)を実施することが必要である。
 このため、行政手続については、利用者の利便の向上と審査の確実性・効率性の衡量を図った上で、申請書類・項目を徹底的に見直し、可能な限り削減・廃止を行う必要がある。また、申請時期及び寄港地の違いにかかわらず、申請書類・項目を各省庁及び港湾管理者間で可能な限り共通化し、データの統一化・標準化等を図る必要がある。
 また、民間業務についても、行政手続・システムの見直しと並行して、国際標準に準拠したシステム連携を行政側も積極的に関与して推進しつつ、簡素・合理化を図る必要がある。
 
(3)国際物流の電子化(紙から電子への転換の促進)
 国際物流に関わる企業においては、G-SCMの発展により企業内の経営レベル、計画管理、現場作業の情報共有とともに、国際的な企業間及び行政との間で情報を正確かつ迅速に受け渡すことが必要であることから、ITの活用が不可欠となっている。企業の情報化については、社内システムの高度化等によって進展している分野もあるが、一部電子化が遅れている分野もあるとともに、貿易業務に係る民間ネットワークシステムの普及も不十分であるのが現状である。官民挙げての包括的な電子化への取組も、一部の国に比べて遅れている。また、サプライチェーンを通じて全体の電子化が進展することによってそのメリットを最大限享受することができるが、一部の分野では紙による情報処理が並存しており、業務効率の向上を阻害している場合がある。申請手続や民間業務の電子化を推進することにより、情報の伝達・共有・保存など業務の効率化が期待できるが、一連の業務プロセスにおいて電子と紙が混在していると電子化による効率化の効力が減殺されるため、プロセス全体の電子化を図ることが重要である。本来、民間業務に係る電子化は、民間ベースで行われることが基本であるが、こうした分野については、行政としても、電子化を側面的に支援していくことが考えられる。
 行政システムに関しても、行政のシステムと民間のシステムとの間で、情報のやり取りが相互に円滑に行われるようにしていくことが重要である。その中で、原則すべての手続を電子的に行えるようにすること、民間利用者の二重入力を排除し、申請者の視点に立ったシングルウィンドウ化を推進すること、民間のシステムと行政システムとの接続を進め、官民共通の情報基盤を構築するため、情報の形式を共通化すること等が必要である。こうした取組を通じ、各省庁及び港湾管理者への同種手続の反復申請を回避するのみならず、類似申請の入力軽減のため、申請情報のデータベース化を図り、利用者利便の向上を図ることが必要である。
 今後、貨物等に関する情報の流れをより円滑にするため、国際物流に関する電子化を更に進展させるべきであるが、そのためには、各企業の社内システム、民間ネットワークシステム、行政システム等の国際物流に係る様々なシステムが、それぞれの目的に的確に対応しつつ、システム間の接続等を通じて有機的に連携し、共通する部分の情報のやり取りが相互に円滑に行われることが極めて重要である。このため、データの相互運用が図られるよう、UN/CEFACT(United Nations Center for Trade Facilitation and Electronic Business)において定められたシンタックスルールや標準メッセージ等の国際標準に準拠する必要がある。また、米国船積24時間前マニフェスト提出ルールに適切に対応するためにも、電子化を官民全ての関係者が連携してシームレスな情報伝達を図ることが必要である。
 
(4)関係者間での協調体制
 国際物流や安全保障貿易は、多くの行政機関及び事業者に関係するため、物流セキュリティ強化と物流効率化を両立させるためには、国際物流や安全保障貿易に関わる民間事業者と行政との間の連携をより一層密にしていくことが必要である。また、ITを最大限に活用するためには、関係者間でのビジネスモデルの共通化・標準化等情報の有効利用のための環境整備を図ることが必要となる。
 特に、セキュリティ強化の観点からは、関係省庁が連携して、国際物流や安全保障貿易に関する情報、すなわち、当該貨物に関する情報や、その輸出入・運搬・保管等に関わる関係者に関する情報等の収集、活用を強化し、事案対処能力を向上させることが必要である。
 
II 今後の施策の基本方向
(1)諸外国と連携して、物流セキュリティ強化のための国際標準の策定等協調体制の確立に努める。
(2)コンプライアンスの確保に向けた事業者の取組状況に応じたコンテナ貨物の管理体制を確立し、セキュリティ強化と効率性向上の両立を図る。
(3)セキュリティ強化と効率性向上に必要となる制度や官民の協力体制を確立する。
(4)新規施策の導入に先立ち、実証実験等を通じて、現実に即した実効性のある制度設計を行う。
(5)上記を踏まえながら、輸出入・港湾手続に関する電子申請システムの抜本的な改変を図るための最適化計画の策定作業を進めるとともに、事業者間での情報伝達の円滑化を図り、ITを最大限活用可能な環境の整備を推進する。
※物流セキュリティ強化に関する状況の変化に柔軟に対応することが肝要
 
III 施策の実施期間、評価指標等
(1)施策の実施期間
 この施策パッケージでは、2009年までの5年間における施策についての、基本的な考え方を定める。
 施策を早期に実施するため、「V 具体的な施策」において、その実施時期や検討の期限等を可能な限り明示する。また、施策の実施状況、その成果を、毎年度評価・分析し、必要な対策を拡充強化するための改訂を行う。
 
(2)施策効果を定量的に評価するための指標
(1)輸出については、米国等の物流セキュリティ対策の結果、従来概ね入港前日に設定されていたコンテナ搬入のCYカットが概ね入港3日前(土日祝祭日を除く)に前倒しされているが、これを官民の協働により、一定の条件を備えたコンテナについては、十分なセキュリティ対策を実施しつつ、貨物情報の提出時期と分離してコンテナの搬入締切時刻を2006年までに概ね入港2日前(土日祝祭日を含む)に短縮することを目指す。
(2)輸入については、輸入者が迅速な引き取りを求めるコンテナ貨物については、官民の協働により、十分なセキュリティ対策を実施した場合においても、入港から貨物がコンテナヤードを出ることが可能となるまでに必要な時間を、2007年までに24時間以下に短縮することを目指す。
(3)国際物流に関するセキュリティ対策を強化する。セキュリティ対策に関する効果の定量的な評価は困難であるが、国際的な連携の下、テロの未然防止等に努める。
※上記以外についても、コストの削減等適当な指標について検討する


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