4.2 電子タグの活用条件
バーコード技術は白黒の光学的な反射率の差異を利用した自動識別技術一般を意味し、現在では、その表記方法が一次元シンボル(従前の狭義の縦縞バーコード)と二次元シンボルに分類されています。
バーコードが光学的読取りであるのに対して、電子タグ(RFID)は、Radio Frequency Identification、すなわち、無線周波数識別です。人や物などの移動体に取り付けられた電子タグの識別情報を、無線アンテナ経由で読取り、バッググランドのデータベースと照合処理することで対象を自動的に識別するシステムです。手に持てばカード、物に貼ればタグであり、両者は同一技術の異なる用途です。
一般に「新しいもの」、「容量の大きいもの」の方がいいと考える人が多いが、情物一致をチェックする利用部面を考えると、実際にはデータ容量の大小よりも別の機能差の方が有効である場合が多いと考えられます。つまり、一次元シンボルが二次元シンボルに、二次元シンボルが電子タグに代替し、進化するのではなく、これまで適用困難だった分野へと適用可能性が拡大すると考えるべきです。
実際に、二次元シンボルは、一次元シンボルの市場に代替することはなく補完的に利用されています。二次元シンボルは、同一データ量であれば、すなわち一次元同様の十桁前後の識別コードを担う場合には、スペース(表示面積)が数分の一で済むという特性を活かして、従前のバーコードが貼付できなかった文具やメガネ等に活用されることが多かったのです。
他方、データ量が多いと読取不能な場合の再現可能性も低下するというデメリットもあります。数十桁になった二次元シンボルのデータをバーコードのように手入力する利用部面は少ないのです。
さらに、物流現場では人手による荷役作業上、紙媒体で目視可能な情報の役割もなくすわけにはいかない状況も多いと考えられます。
電子タグの最大の特徴は、データが書換え・書込み可能な点にあります。バーコードにも印刷技術の活用で従前の印刷コードを消去して新たなコードを印刷できるものがありますが、電子タグでは同一スペースに新旧両方を残すこともできますし、読取可否の領域を分けたり、共有したりといった設定変更も容易であることが最大の特徴だと考えられます。
電子タグの適用条件は、コスト、機能(移動速度・距離・データ量)、電波法(免許申請の有無等)及びタグのキーコードとデータベースの分担にあります。以下にロジスティクス分野への活用可能性を中心にその条件を整理します。
利用部面を無視した単体価格でみると電子タグはバーコードに比して明らかに高価であり、従前の議論はコスト面の制約に終始していた観があります。しかし、コスト面は、複数回利用のシステム全体で考えると必ずしも高いとはいえません。反復利用できる環境、たとえば、輸送容器(通い箱)等での利用では、一回当りの利用費用は紙媒体を利用するバーコードよりも安くなる場合も多いのです。
また、今後の量産に伴う価格低下を実現する観点でいえば、可能な限り利用部面を共有する場合の基本的仕様の統一が望まれます。
百万台オーダーの車両、数百万個オーダーのコンテナ、数千万オーダーのパレット・通い箱・コンビテナー等、数十億枚オーダーの荷札・送り状の世界のそれぞれの機能に応じた仕様と、価格の高低の判断基準の差異を考慮すべきであり、車両レベルにおいて数万円で実現可能な世界から荷札用の数円が要請される世界まで、高いか安いかの判断基準が異なる点を考慮する必要があります。
単位時間内の通信内容は、その移動速度、距離、データ量に依存するので、電子タグでは、多様な用途に使える機能を考えるのではなく、用途別に機能を限定して考えるべきです。
一時停止的な利用であり、少々データの桁数が多くても利用可能な場合には、セキュリティ関係・ゲート管理・検品等があります。ただし、人・物では、近距離だが、車両では遠距離での利用となります。
(1)仕分け
近距離だが移動速度の速い場合が仕分けです。トラックターミナルのように形状の異なる貨物が流れる環境では通信距離が10cmの場合も1mの場合もあるので深度の深い通信環境が必要です。メーカーの出荷場所では同一形状の製品で同一距離での安定した通信環境が確保可能になります。仕分けでは、コードの桁数を少なくし、ベルトコンベヤ速度に応じた高速処理が求められます。
(2)走行中のデータ交換
遠距離・高速通信の典型例は、ETC(自動料金支払いシステム)のような道路・交通管理分野です。課金が含まれると、さらにセキュリティを含めて高い要求仕様をカバーすることが必要になります。
現在、ナンバープレートの電子化も検討されており、全車両が識別可能になった場合の活用範囲は、行政向け、民間向けに広範な可能性が考えられます。
電波法の区分も重要であり、用途に応じて認可が与えられています。
国内通信規格の主なアプリケーションでみると、135kHzや13.56MHzはセキュリティカードによる入退出やラベル読取り等の近接したタイプ、2.45GHzは工場における工程自動化、コンテナ識別さらには構内無線LAN等の3タイプがあり、5.8GHzは道路交通管理の利用が中心となっています。
このほか、バーコードリーダ一体型無線ハンディターミナル等の400MHz帯データ伝送用無線システムや作業指示・在庫照会や出荷検品に用いられる12GHz帯データ伝送用無線システム等のLANに近いシステムもあります。
同一周波数帯でも出力や変調方法等の微妙な差異で通信の可否が決まるので、利用者は、短期的には既存の適用可能な規格から選択することになります。
商品・製品でも、梱包、輸送容器、パレット、コンテナ、車両のいずれの場合でも、関連する全てのデータを担う電子タグを準備することはできません。
それは、むしろPDAや携帯電話、小型PCの進化系あるいは車両レベルであれば車内サーバが担う領域です。
むしろ、電子タグが固有の識別コードを担うことによって所在確認(時刻と場所)に関し移動体が基礎的に担うべき共通コードのみが必要とされる場合の方が一般的です。
タグのキーコードとデータベースとの分担は、バーコードの場合と同様です。
情物一致は、物の輸送に先立って、出荷側で物に貼付した識別コードをオンラインで顧客へ予め送付し、入荷側で、当該データファイルの識別コードと物に貼付された識別コードとを照合して検品を行うという方法に依存しています。
このため、多様なデータを同時に電子タグに搭載する場合でもデータ転送や照合のトリガーとなるキーコードとデータベースの関係が体系的、整合的に整備されていることが前提となります。この環境無しには、バーコードも電子タグも活用不能です。
図4.2.1 ネットワーク型:オンライン環境でのデータ処理
(電子タグは簡単な識別コードのみを担う場合)
図4.2.2 スタンドアロン型:オフライン環境でのデータ処理
(電子タグは所要データを全て担う場合)
表4.2.1 
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流通荷札のデータとEDIによるオンライン伝送データ項目と照合コードの例
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