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第2章 マニフェスト提出24時間前ルールへの対応
2.1 荷主としての対応
2.1.1 EU関税法改正案
 米国税関のマニフェスト24時間前提出ルールは、2001年9月の米国同時多発テロを契機にセキュリティ対策の一環として導入され、2003年2月より“Not to Load”命令或いは罰金等の発動を伴う本格運用に移されていますが、世界税関機構(World Customs Organization)以下WCOと言う)の場においても各国税関間でセキュリティ対策の検討がなされてきました。2006年6月のWCO総会では「国際貿易の安全確保及び円滑化のための基準の枠組み」に関する決議が採択されています。
 
 この枠組みは、米国のマニフェスト24時間前提出ルール、C-TPAT(Customs and Trade Partnership Against Terrorism)、CSI(container security initiative)等の概念が採り入れられているとも言えますが、シッパー、キャリアに求めるデータを標準化する、貨物検査に対し、リスクマネージメント原則を適用する、最新の貨物検査技術を利用する、セキュリティ基準を満たす企業へ恩典を付与する等について合意がなされ、決議採択後120カ国が実施の意図を表明していると公表されています。
 
 EUは2004年、税関手続の電子化、セキュリティ施策等に関する関税法改正案を策定し2005年4月にはその実施規則案を公表しましたが、同年10月には実施規則案の改定を行い、事前提出の期限を前倒しする等修正を加えるに至っています。
 
 上述のとおりEUは関税法改正案に基づき2005年4月、事前提出義務化を含む実施規則案を公表しました。規則案は、マニフェスト情報提出期限を「EU到着の24時間前」とするもので2006年中に実施することを目指す、としていました。然しながら同年10月には米国の24時間前提出ルールと同様に「船積24時間前」提出に改正されています。1
 現状ではEUの事前提出規則は案の段階にありますが、規則案どおり実施されれば2006年中にも導入される見込みとなっています。
 
 我が国でも2006年度関税改正により事前提出の義務化(本邦到着24時間前)が検討される等主要国で事前提出制度導入の検討がなされている動きにあります。
 
 EU関税法規則改正案では、改正の目的(事前提出制度導入に関連する部分抜粋)について以下のとおり述べています。2
・EU加盟国と欧州委員会はEU全体に対するリスク・マネージメントを導入すべき。
・リスク・ベースによる管理を実施するため輸出入貨物についてそれぞれ事前提出の報告要件を定め、事前提出要件は保税地域にも適用されること。
事前提出規則案
(輸入貨物)
・対象貨物
 原則としてEUに輸入される貨物は全てsummary declarationで報告。
・事前提出官署
貨物陸揚げ地税関官署
 国際的な合意に基づいて輸出国でセキュリティーチェックが行われる場合、事前提出の期限を短縮することも可能。
・事前提出の期限
 輸出国での積み込み24時間前(2005年10月18日付規則案)
 
(輸出貨物)
・対象貨物
 原則としてEUから輸出される貨物は全て通関申告時に提出。
・事前提出官署
 輸出地の税関官署
 EUの税関当局と他国の税関当局間で本実施規則案と異なる提出期限に基づいてデータの交換をすることが求められている場合には、事前提出の期限を短縮或いは延長することも可能。
 
表 EUマニフェスト情報事前提出の期限(電子的手段による申告)3
運送形態・貨物の形態等 輸入 輸出
海上貨物
 
 
 
航空貨物
コンテナ
バルク
近海
 
近隣地域
遠距離地域
宅配便
積み込み24時間前
EU到着の24時間前
EU到着の2時間前
 
離陸時
到着4時間前
離陸15分前
積み込み24時間前
EU到着の24時間前
EU到着の2時間前
 
離陸30分前

鉄道貨物
 
内陸水運貨物
到着2時間前
 
出発2時間前
 
陸送貨物 到着1時間前 出発1時間前
1: 近海とはEU域内、域外を含め欧州地域内、地中海、バルト海、黒海にある全ての港湾をいう。
2: マニュアル申告の場合、近海海上貨物、鉄道、内陸水運、陸運について4時間前提出に前倒し。
 
表 EU以外の各国対応状況(参考)4
海上貨物 航空貨物
米国 船積み24時間前 ・到着4時間前
・近隣諸国は離陸時
カナダ ・船積み24時間前(コンテナ)
・到着24時間前(バルク)
・到着4時間前
・近隣諸国は離陸時
豪州 ・到着48時間前
・到着24時間前(航海日数が2日以内の場合)
・到着12時間前(航海日数が1日以内の場合)
・到着2時間前
韓国 ・到着24時間前
・近隣諸国は到着前
到着前
日本 平成18年度に事前申告の具体的時期の設定を検討する。 同左
 
 なお、Authorized Economic Operator(以下AEOと言う)制度を導入し、AEOに認定された輸出入者にはセキュリティ関連手続を円滑化する、またその他税関規則を簡素化する等の恩典を付与するとしています。AEOとは、内部管理、財務状況、法令遵守履歴等の基準に照らし、EU輸出入者をいわゆるコンプライアンスに優れた者として認定する制度でその認定基準の策定、加盟国間での調整等を行なった上で2006年の導入を図るとしています。
 
AEOの事前提出
 輸入:HS6桁で分類される貨物で同一貨物の定期的出荷の場合、荷姿、パッケージ数輸送費の支払い方法等の項目は事前提出を不要とする。
 
輸出:輸出者名、申告者名、荷受人名、仕向地、税番8桁、荷姿・パッケージ数(定期的出荷の場合、不要)シッピングマーク、コンテナ番号、輸送書類番号、シール番号、国連危険物番号を事前提出とする。
 
1 Preliminary Draft TAXUD/1250/2005
2
3 (財)日本関税協会貿易実務ダイジェスト06年2月号「EUの関税法改正オーソライズドエコノミックオペレーターと事前申告制度(日本機械輸出組合)」
4 財務省ホームページhttp://www.mof.go.jp 関税・外国為替等審議会資料
 
2.1.2 事前申告制度に伴う輸出者への影響
 従来、コンテナヤードへのコンテナ搬入期限(以下CYカットと言う)は本船入港日の前日であったのに対し、米国、カナダ向けについては入港3日前に前倒しされています。これにより実質的にコンテナ詰から船積みまでのリードタイムが24時間から72時間に延長されたことになります。
 リードタイム延長に伴い輸出者は在庫を保有する必要性が生じ、これに伴う金利負担等の経済的影響に加え、SCMオペレーションへの影響も生じていますが、事前提出制度導入は世界の趨勢であることも事実で将来的には輸出者への影響は更に拡大していくことも懸念されます。
 
 また、輸入国側荷受人もその例外ではなく輸出者同様の影響が生じていますが、現状ではこれを容認せざるを得ない状況になっています。
 
 CYカットの前倒しはキャリア側としては荷主からのドックレシート情報の入手、米国税関へのマニフェスト提出及び米国税関からのマニフェストスクリーニング結果回答待ち、マニフェスト情報に不備等あった場合の訂正作業という一連の業務に時間を要すという実務上の制約が背景となっているためですが、リードタイムの延長、物流の停滞等を防止する観点から関係省庁、関係経済団体の協働による「安全かつ効率的な国際物流の実現のための施策パッケージ」(以下施策パッケージと言う)が取り纏められています。
 
 この「施策パッケージ」では物流セキュリティーの強化の一方で物流効率化を一層進めることが課題であり、リードタイム短縮を目指すとして官民でセキュリティー対策に伴う影響についての懸念が共有され、改善策の検討がなされている状況にあります。
 
・「施策パッケージでの目標」
【輸出】対米輸出の際のCYカット時刻を一定の条件を備えたコンテナについては2006年までに入港3日前を2日前に短縮。
 
【輸入】輸入者が迅速な引取りを求めるコンテナ貨物については十分なセキュリティーチェックがなされた場合であっても入港からコンテナヤードを出ることが可能となるまでの時間を2007年までに24時間以下に短縮。5
 
5 関係7省庁・関係21経済団体による「安全かつ効率的な国際物流の実現のための施策パッケージとりまとめ」(05年3月)
 
2.1.3 リードタイム(CY搬入期限)短縮についての輸出者意見6
 各民間団体からも輸出者要望として意見が出されているところですが、リードタイム短縮についての意見は概ね下記のように整理されます。
 
a. C-TPATの認定を受け安全とされるサプライチェーンについては事前提出を免除すべき。
b. 税関間システムでマニフェスト情報を直接送信できるようにすべき。
c. 効率的事前提出のため荷主・フォワーダー・キャリア間の電子化の整備を図るべき。
d. キャリアへのドックレシート情報提出時期は変更せずヤードへの貨物搬入期限を短縮すべき。
 それぞれの意見は必ずしも我が国のみで対応することが困難なことも事実ですが、この中でもaのC-TPAT活用策が重視されるべきという輸出者意見が多いと言えます。
 また、これと併せリードタイム短縮には輸出者・キャリア間の業務の流れを見直し、問題点の所在を解明した上で電子化の推進等改善策を講じることが必要と思われます。
 
 既述のEU規則案では、国際的合意に基づき規則案と異なる事前提出期限が定められている場合、提出期限の延長、短縮も可能とするとしています。
 
 C-TPATは輸入者に対し恩典を付与する制度であり、輸出者側に恩典を付与する制度ではないことも事実ですが、輸出者側にもC-TPATの恩典が付与される等について政府間で検討、協議頂ければ貨物の保安を目的とするC-TPAT制度利用の拡大にも繋がるのではないかとも考えます。
 
 また、米国税関のスクリーニング結果が判明しない限り、船積みできないわけですが、瞬時かつ明確なかたちでの回答が可能になればスクリーニングのために、24時間ホールドするという必要性は薄れ、このホールド時間短縮が可能になれば直ちにリードタイム短縮にも繋がっていくものと考えます。
 
6 国土交通省アンケート「CYカットタイム短縮についての意見」
(日本機械輸出組合05年9月)


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