第2部 各論
世界貿易量の80%は海運が担っており、毎年数千隻の船舶により、2.5億個のコンテナが輸送されています。このため、この国際物流の円滑性・迅速性・効率性を阻害することのないセキュリティ対策が求められています。また、船舶や港湾におけるセキュリティ対策が進んできた今日、連携する陸上輸送のセキュリティ対策の遅れが指摘されるようになっており、海陸を連携したセキュリティ対策の実施が必要とされています。
2001年9月11日以降、米国において広範な関係者の参加を得て検討されているセキュリティ対策とは、テロ対策だけでなく、サイバーテロ、災害、交通事故、防犯等、多岐にわたっており、セキュリティ対策は、その対象とする事象の特性に応じて異なるだけでなく、事前予防策、発生時対策、事後対策(応急措置、復旧措置)に応じて内容が異なります。すなわち、危機管理システムそのものが検討されています。
このため広義のセキュリティ対策は、大きく以下の3分野に分けられます。
(1)国家安全保障、テロ対策
(2)盗難
(3)防災(地震、ハリケーン、竜巻等)
1.1.1.2 コンテナ・セキュリティ対策の必要性
物流面におけるセキュリティ対策は、今日、特に、以下のような点で重要です。
(1)多くのサプライチェーンは、グローバルに関係しており、特定地点の機能停止は、グローバルに広範な影響を与えます。
(2)多くのサプライチェーンは、多様な関係者が複雑に関与しており、その機能確保には多様な関係者の協力が不可欠です。
(3)多くのサプライチェーンは、消費者需要へ即応する仕組みになっており、在庫が少なく、電力・通信・輸送手段の機能停止は、雇用・生産の両面に深刻な影響を与えます。
危機管理の仕組みは、情報セキュリティの枠組みと類似しています。
情報セキュリティに関する国際標準(ISO/IEC17799)では、情報セキュリティの管理分野を下記の10分野と規定しています。
(1)セキュリティポリシー
情報セキュリティに関する管理方針と責任の明確化など、経営者の方針、体制、対象範囲の規定、情報セキュリティのマネジメント、(情報セキュリティ委員会の役割と権限、教育・啓発・訓練)の規定、違反者の罰則処置規定
(2)セキュリティ組織
情報セキュリティ推進のための組織と役割など
(3)情報資産の分類(識別)と管理
情報資産の分類と適切な保護など
(4)人に対するセキュリティ
人に対する責任と役割、教育や訓練、セキュリティ関連事項の報告など
(5)環境や物理的な物に対するセキュリティ
物理的な保護エリアや情報機器の保護対策など
(6)通信と運用の管理
ネットワークのセキュリティ対策など
(7)システムの開発と保守
セキュアーなシステムの構築と維持など
(8)アクセス管理
重要な情報資産に対するアクセス制御など
(9)業務の継続のための管理
過失や災害の発生に対する業務継続のための計画などの情報セキュリティポリシーの評価・見直し規定
(10)準拠
情報セキュリティ関連の法律や規則への準拠などについて規定
セキュリティの確保にあたっては、従前から、サプライチェーンの迅速性、円滑性を阻害する問題点が指摘されており、迅速性・円滑性を確保しつつ高いセキュリティ水準を確保するという2つの目的を両立させる手段として、電子タグ(Radio Frequency Identification: RFID)をはじめとする情報化の必要性が指摘されています。
セキュリティ対策は、複合的な対策が必要になり、コンテナに電子タグを貼付し、船籍管理や搭載貨物を書類上で確認し、港湾区域にフェンスを設けて入退出管理を厳しくするだけでは不十分です。
セキュリティ対策にあたっては、実際の業務の流れを整理し、弱点・盲点を洗い出し、所要の対策が可能になるための多様な施策を講じる必要があり、組織や配置といった位置づけだけでなく、業務の動態的な管理が必要不可欠になります。
そういった管理・監視の方法には、日常的な業務のデータベース整備や計画的運営が前提として不可欠であり、その計画性や管理運営システムが整備されていなければ、緊急時の発生状況を確認することさえできません。幸いにして近年のマネジメントISOでは、品質、環境、情報セキュリティ等に関連して、そういった対策の体系的な手法を示しており、今後の施策展開にとっても大いに参考になると考えられます。
我が国では、セキュリティの確保が、とかく電子タグをはじめとする機器設備の設置の議論になりがちです。そうでない場合にも、事件発生後の事後的な危機管理の議論が多くみられます。
しかし、セキュリティ確保の基本は予防であり、発生確率を下げるための複合的なチェックシステムの構築が重要です。チェックシステム構築のためには、パソコンのウイルスチェックのようにブラックリストのデータベースを作成して更新することも必要です。さらに、物流の計画性を高め、計画外状況(場所、時間、作業内容)を計画情報と照合し、異常時に警報を発する動態管理システムが必要です。また、人や施設の管理方法をはじめ、電子タグだけでなく、麻薬犬の活用からX線装置、超音波センサー等、多様な技術を複合的に活用する視点も不可欠であると考えられます。
欧米では最近、関連する文献や実験成果が数多く発表されているので、そういった成果を十分かつ迅速に咀嚼して国内施策にも活用することが必要だと考えられます。
こういったセキュリティ対策の全体像を整理すると下図1.1.1のような内容になると考えられます。
図1.1.1 セキュリティ対策の全体構成
(参考)OECD/ECMT, Container Security Transport on Modes, June 2005
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米国の「交通施策は、鉄とコンクリートの基盤づくりではなく、人々に可能性を与え、機動力と選択の幅を与えるものであり、人と物が迅速、安全、かつ、より低コストで移動することを可能にするものである」(運輸長官演説)と位置づけられており、米国連邦運輸省の「21世紀交通戦略」は以下の5本柱を掲げ、(1)にセーフティ、(5)にセキュリティが戦略目標とされています。
(1)安全:死亡、傷害および物的損害の排除
(2)モビリティ:選択の幅の拡大
(3)経済成長と貿易:経済成長の促進
(4)人的および自然環境:環境の保護
(5)国家安全保障:国境不法侵入に対する安全性の保証
(資料)A VISIONARY AND VIGILANT DEPARTMENT OF TRANSPORTATION LEADING THE WAY TO TRANSPORTATION EXCELLENCE IN THE 21st CENTURY, United States Department of Transportation Strategic Plan for Fiscal Years 1997-2002
また、米国連邦運輸省の達成目標(4つのアイ)は、以下の4つの視点を示しています。
(1)射程距離は国際的に(インターナショナル)
(2)ドアツードアのユーザーの視点で(インターモーダル)
(3)情報通信技術(ITS)を活用して(インテリジェント)
(4)手法は統合的に(インクリューシブ)
(注)原文 The ultimate purpose of ONE DOT is to build a transportation system that is international in reach, intermodal in form, intelligent in character, and inclusive in nature.
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