10 浅喫水対応推進システム
ノンバラスト船型は、タンカーやバルクキャリアの空荷状態における喫水を確保するために搭載されているバラスト水を積載することなく喫水を確保すべく、大きな船底傾斜を付ける船型である。船底傾斜が過大にならないためにはプロペラ没水深度を確保するための船尾喫水が小さいことが望ましい。
空荷状態の船尾喫水を浅くした場合でも、プロペラ没水深度を確保できる推進システムとして、1)小直径プロペラ(直径制限プロペラ、2)可変レーキプロペラ、3)水面盛上用フィン、4)昇降式ポッド型推進器、5)二重反転プロペラ、6)2軸船について検討した。
1)の小直径プロペラとはプロペラ直径を最適直径より小さくすることによって、空荷の喫水が浅い載貨状態でもプロペラ没水深度を確保しようとする方法である。
本研究開発では、空荷状態の喫水の設定等においては、プロペラ直径を在来船型の10%減として、それに対応する喫水条件を設定した。
この方法は、プロペラ効率向上のためのいわゆるプロペラ大口径化とは逆の方向であり、プロペラ効率の多少の低下がある。
図25 プロペラ直径を変えた場合の諸性能
スエズマックスタンカー PDプロペラ設計システムにより設計
図25にプロペラ直径を変えた場合の諸性能の変化を示す。図中○印のデータは、プロペラ回転数を与えてそのときの最適直径を求める通常の設計法で設計(以下、「最適直径法」という)したデータである。△印のデータは、設計条件としてのプロペラ回転数を変更することなく、単にプロペラ直径を指定して設計した(以下、「直径制限法」という)データである。
本図から、最適直径法の場合は、最適直径が基準の場合の90%となるようなプロペラ回転数とした場合のプロペラ単独効率は5.9%の低下となっている。他方、直径制限法の場合のプロペラ単独効率は5.2%の低下となっており、効率低下が0.7%少ない。また、推進係数についてみると、傾向としては単独効率の場合と似ているが、伴流係数の違いにより減少率は2%小さくなり、プロペラ直径を基準の場合の90%とした場合の推進係数は最適直径法で3.9%低下、直径制限法で3.2%低下に留まっている。
図26 直径制限プロペラのキャビテーション
スエズマックスタンカー 満載状態
図26に直径を最適直径プロペラの90%としたプロペラ(日本造船技術センターのPDプロペラ設計システムで設計)のキャビテーションを示す。空荷状態の喫水が浅くプロペラ没水深度が浅いためキャビテーション数が小さくなることに充分留意して設計すれば問題無いことが分かった。
2)可変レーキプロペラとは、航海中に載貨状態、水深等に応じて翼レーキを大きくすることによってプロペラ直径を小さくし、プロペラ没水深度を確保しようとするプロペラである。
本プロペラの実用化にはレーキ可変機構の開発が必要であるが、従来から使用されている可変ピッチプロペラのピッチ可変機構と比べて同程度の複雑さと想定される。
翼レーキ可変機構を組み込んで試作した模型プロペラの単独性能試験結果によるとスラスト係数、プロペラ単独効率が著しく低下することが判明したので、翼レーキを大きくする運行を極小化する必要がある。
3)水面盛上用フィンとは、プロペラ付近の水面を盛上げようとするものであるが、プロペラ没水深度対策としての効果は得られなかった。
4)昇降式ポッド型推進器を採用することも考えられるが、電気推進のための発電機、電動機の合計損失が15%程度と見込まれるので、燃料費の面からポッド推進方式のメリットは小さい。
5)二重反転プロペラは、回転流損失の回収によるプロペラ効率向上以外に、最適直径が小さいという特徴を有する。この直径が小さいという特徴がノンバラスト船型のプロペラ没水深度確保に向いていると言える。従来の研究成果から、二重反転機構の製作コストは効率向上によってほぼ回収できると言われているので、結果として直径が小さくなるというメリットのみが残ることになり、二重反転プロペラはノンバラスト船型用プロペラとして適用の可能性がある。
6)2軸船は、1軸当たりの馬力が半分になるためプロペラ直径が小さくなるが、プロペラ軸支持用ブラケットの抵抗、伴流利得減少、建造費増加があるので経済性からは2軸船の採用は難しい。
以上をまとめて、浅喫水対応型推進システムの検討結果の一覧を表3に示すが、ノンバラスト船型用の浅喫水対応推進システムとしては、経済性、既存技術の成熟度を考慮して、プロペラ直径を最適直径の90%程度に制限したプロペラが最適なものと判断される。二重反転プロペラないし可変レーキプロペラについては、有力と判断されるものの、建造費増加が大きいこと及び今後の開発要素が残っていることを考慮して、以下の検討には含めなかった。
表3 ノンバラスト船型に適した推進システム
対策 |
在来型との比較 |
評価 |
プロペラ没水深度対策
|
建造費 |
所要馬力 |
(1) |
小直径プロペラ
直径制限設計法
直径 10%減少 |
推進係数 3%減
プロペラ重量 2割減 |
○ |
○ |
△ |
(2) |
可変レーキプロペラ |
プロペラ効率(平均) 4%減
船速(平均) 2%低下
プロペラ製作費 増 |
○ |
△ |
△ |
(3) |
水面盛上用フィン |
フイン制作費 要 |
× |
△ |
○ |
(4) |
昇降式ポッド型推進器 |
エネルギー変換効率 85% |
○ |
× |
× |
(5) |
二重反転プロペラ
(プロペラ回転数;同一) |
最適プロペラ直径 12%減
プロペラ効率 6%増
二重反転機構 建造費増 |
○ |
× |
○ |
(6) |
2軸船 |
プロペラ直径 14%減少
所要馬力 5%増
軸系建造費 増 |
○ |
× |
△ |
|
|