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7 波浪中船首船底衝撃
 在来型スエズマックスタンカー空荷状態の船首喫水平均的値は、5.84mであり、これらの船舶では、バラスト水の搭載による船首喫水確保によって基本的には船底露出しないことを前提とした設計となっている。しかしながら、ノンバラスト船型の空荷状態では船首喫水が3m程度であることから、波浪中の船底露出が生じるものとして、水面突入時の衝撃が小さい船型、すなわちV型船首形状を採用した。以下、その効果について水槽試験結果と本研究開発で開発したスラミング衝撃荷重推定システムで評価する。
 
図15 船首船底衝撃圧力の規則波中試験結果の比較
スエズマックスタンカー ノンバラスト船型は(1)A
6.2m模型船 正面向波
複数点計測の内のピーク最大値
 
(1)船型の比較
 図15に在来船型とノンバラスト船型の規則波中の衝撃圧力計測結果を示す。船首船底付近に約10個の圧力変換器を設置して計測した圧力変動の最大ピーク値を示している。図では最大となった前後方向位置も示してある。ガース方向位置としては船体中心線付近の衝撃圧力が大きく、船側側に寄った位置の衝撃圧力は比較的小さかった。
 本図から、最大となる波長、位置は船型によって異なるが、ピーク値の大きさは在来船型とノンバラスト船型では大差ないことが分かった。
 
図16 船首船底衝撃圧力の不規則波中試験結果の比較
スエズマックスタンカー 4m模型船 正面向波
複数点計測の内のピーク最大値
 
 図16に不規則波中衝撃圧力計測結果を示す。横軸は波数で縦軸はこの波数に対応する最大衝撃圧力である。ノンバラスト船型と在来船型には、大きな差異は認められないが、船首喫水が、ノンバラスト船型で3m、在来船型で5.84mであることを考慮すると、V型船首形状を採用したノンバラスト船型の衝撃圧力に対する優位性は明確である。
 
図17 船首船底衝撃圧力最大値の比較
スエズマックスタンカー
在来船型 ;バラスト状態
ノンバラスト船型;ノンバラスト状態
正面向波 4m模型船(H15データは6.2m模型船)
 
 図17は図16等の水槽試験結果から得られたデータの内、幾つかの波数について有義波高ベースに衝撃圧力を示したものである。波高が小さい場合はノンバラスト船型の衝撃圧力が大きく、波高が高い場合では在来船型の衝撃圧力が大きいという傾向が見受けられる。これは、ノンバラスト船型の空荷状態は喫水が浅いことから在来船型よりも早くスラミングが発生するものの、船首形状がV型なので波高が高くなっても衝撃圧力は余り大きくならない、他方、在来船型は船首喫水が相対的に深いので一定波高までスラミングは発生しないが、船底が水平なので一旦スラミングが発生すると大きな衝撃圧力となってしまうことによると考えられる。
 
 以上に示した規則波中、不規則波中の水槽試験結果から、ノンバラスト船型の空荷状態の船首船底衝撃圧力は、在来船型のバラスト状態のそれと同程度であることが判った。
 
 次に、ノンバラスト船型は船底傾斜を有することから、横揺れと縦揺れが連成した場合にスラミングが発生する可能性が懸念される。このため、ノンバラスト船型の空荷状態について斜めの規則波中の波浪中試験を実施した。その結果によると、波長、波向が変化しても衝撃圧力の最大値は波向がχ=180°の場合と同程度であり、ノンバラスト船型においても、在来船型と同様、正面向波ないしそれに近い斜め波についての検討で足りることが分かった。
 
 ストリップ法により求めた波高とノンバラスト船型空荷状態のS.S.No.9におけるスラミング発現確率との関係を図18に示す。ここでスラミングとは露出した船底と海面との衝突速度がある閾値を超える状態を意味し、日本海事協会の現行規則に合わせた。
 発現確率=1/50という日本海事協会規則のバックグラウンドによれば、ノンバラスト船型空荷状態の限界海象(有義波高)は、次のとおりとなる。
スエズマックスタンカー 5.76m
VLCC 6.51m
 
図18  ノンバラスト船型空荷状態のスラミング発現確率と有義波高
 
スエズマックスタンカー
 
VLCC
 
図19 波高頻度例
 
 これを図19に示した実海面の波高分布に当てはめると、この限界海象を超える頻度は次のとおりである。
 
インド洋北部 西太平洋 北大西洋(IACS)
スエズマックスタンカーの5.76m 1%以下 1%以下 10%程度
VLCCの6.51m 0.5%以下 0.5%以下 7%程度
 
 なお、設計に使用した船首船底衝撃圧は、この空荷状態での限界海象及び荒天時バラスト状態(後述(2)参照)での通常オペレーション上遭遇しうる海象での最大値を使用しており、在来船型と同等の十分な補強を施している。
 
図20 船体中央の縦曲げモーメントの計算例
スエズマックスタンカー規則波 剛体
λ/LPP=1.0 出会い波周期 T=9.5秒 A.P.に波の谷きたときをt=0
 
 波高を広範囲に変えたときの船体中央縦曲げモーメントについて、本研究開発で開発したスラミング衝撃荷重推定システムによる計算結果を図20に示す。何れも、空荷状態における計算結果を示す。この計算結果から、在来船型においては高波高時に船首船底衝撃荷重の影響によりインパルス状の縦曲げモーメントが発生しているが、ノンバラスト船型ではこのようなインパルス状の縦曲げモーメントは生じていない。
 
図21 載貨状態と船首船底衝撃圧力
スエズマックスタンカー 6.2m模型船
 
規則波中の最大ピーク値
 
100波中最大ピーク値


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