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(6)どのような支援活動を行っているか
 ロンドンVS本部、ランベス支部とグレイター・マンチェスター支部、グレイター・マンチェスター警察トレーニングセンターの4箇所を視察見学した。
 第1に感じたことは、イギリスでは、国の指針として、被害者支援に取り組んでいることを肌で感じた。30年余という長い歴史の中に被害者支援がしっかりと根付き確立されていると感じた。日本での(都民センターのことが中心)支援の方法と比較をしながら、レポートを綴る。
 
ロンドンVS本部では、
1. 地域社会ベースのサポート
2. 裁判時の証人サービス
3. 電話相談
の3つのサービスを掲げて行っている。
 サービスは、被害直後はもちろん時間が経った被害者にも対応している。裁判が確定し、法的に罪状がはっきりした時点で被害者とみなす。この部分は少しニュアンスの違いはあるが、都民センターでも、警察で事件として立証された時点で被害者として支援対象になる。また警察に届出前の被害直後の相談者も被害者として対応している。被害直後の対象者は直接的支援も視野に入れて支援をしているが、時間が経った被害者の場合、電話相談等で傾聴すること等の対応で、積極的な支援はしていない。
 
裁判時の証人サービスについて
・証人とは、被害者本人と目撃者等証言台に立つ全ての人をいう。
・刑事裁判時の保護・支援として、証人が裁判所で戸惑うことのないように、事前に場所を見学し、事務等の手続を説明し、当日混乱のないようにする。
・裁判所の待ち合わせ室等で、加害者と会わないように気をつける。
・17歳以下の証人の時(家庭内暴力や性被害者)は、被告と顔を合わせることがないように、希望によりスクリーンやビデオリンク方式で行えるよう支援をする。
 
 被告人側の証人に対しても、サポートをしている。現段階では3%に過ぎないが、将来的には数を増やしていきたい。この被告人側への証人サポートは、(1)公平さ。(2)正確な裁判を期するために、裁判所は怖くないということをわかってもらう。(3)支援者は、被害者の支援者と被告人側の証人へのサポートは別々の人が対応する。
 被告人側の証人サービスについて、都民センターでは、被告人側への支援は今は考えられない。日本の裁判は法律に基づいて、公平にかつ正確な裁判が行われているといわれているが、実際に被害者の支援を通して感じていることは、法律そのものが「社会の秩序を守るために」と唱われていて、被害者への不公平さを拭いきれない。従って加害者側への支援は今後も難しいと思う。
 実務面の書類で、補償・権利・保険会社への対応で交渉もしているとのこと。補償・権利とは、日本の犯罪被害者等給付金等支給制度と同様のものと思われ、日本でも書類作成の補助をしているが、保険会社や他機関への交渉は事実行為としては行わず、情報提供という形での援助になる。
 
ランベス支部にて
 支援対象者は、ランベスの住人に限っている。地区へ訪問をして被害にあった人は、被害者住居地区のセンターを紹介する。まず警察から連絡があり、基本的には手紙で「支援要請があれば、いつでも応じる」内容の連絡をする。電話相談の9時〜18時は、事務所内の誰もが電話相談を受けることになるため、相談員のストレスもかなりのものになる。ストレス解消方法は、スタッフとのコミュニケーションがよくとれているので、問題はない。面接は、事務所や自宅で行っている。
 当センターでは、事務所内で相談電話を受けることはなく、ブースにて行っている。
 
グレイター・マンチェスター支部
 最小限の支援サービスは、手紙による。電話・面接等が60%をしめる。支援内容は、大別すると精神面と実務面になる。支援要請があったら、被害者の情報を得てから24時間以内に当事者と連絡を取る。訪問時間は最大1時間にとどめる。
・精神面では・・・
当事者からの傾聴
資格ある者のカウンセリング
・実務面では・・・
保険の請求・申請の手伝い
補償金請求の手伝い
カギの取替え、防犯ベルの提供
侵入犯防止のセキュリティ
(立場が弱い人へ早急に業者が行った時は自治体が援助する)
カギは他の慈善団体からの援助
 当センターでは、支援の端緒は警察情報が多く、対応は全て電話連絡からとなる。
 
(ケース)世界的ニュースになった大量殺人事件のケース。地域の開業医が長年、業務を利用し、169人を毒殺していたことが発覚。警察と連携を取り支援に当たったが、問題が発生した。(1)この医師は地域で人気があり、被疑者を守る会ができたこと。(2)モルヒネ薬害にて被害者が亡くなっていることから、埋葬されている遺体を掘り起こして解剖するという二次被害。(3)多数の被害者がいたため、優先順序ができてしまい、遺族から不満の声が上がった。
 VSでは、支援サービスをすると決定し、93人のボランティアで対応した。
 サポートについて、i 30件が訴訟を起こし、今も続いている。当初から3ヶ月間は警察でサービスをしたがその後は警察とVSが連携を取り、すべての公判の証人サービスをしている。ii 遺族への情報提供「何故このようなカルテねつ造等の事件が起こったのか?」という遺族へは、裁判官が座長を務めて、2年間週末ごとに公聴会を開いて対応した。iii マスコミ、メディア関係からの取材は、生活を取り戻すことを優先し、一切ノーコメントにしている。iv 遺族のための自助グループを立ち上げ、それを中心に支援をした。今はセンターとしては関わっていないので、自助グループがどのようになっているかわからない。
 当センターの場合、自助グループはセンターに付属し、立ち上げから定例会全てに関わっている。
 
(7)施設、警察との連携・他機関との連携等
1 はじめに
 各訪問先で警察との連携について、どのような規約、法律に基づいて活動をしているのか質問を重ねたが、特に周知されていなかった。
 しかしながら、VSと警察の間で、ACPO-Victim support victim referral agreementが交わされており、互いに情報を交わす上での取り決めが成されている。
 VSの活動においては、5年前から警察から被害者や目撃者についてオンラインでVSに情報が送られている。それらについてVSで検討をし、活動を行うこととなっている。
 
2 各団体での視察報告
●グレイター・マンチェスター支部
刑事裁判委員会
・マンチェスターには刑事裁判委員会があり、刑務所長、警察署長、自治体の会長、裁判長、検察のサービスを行っている長、保護監察官の長がそのメンバーになっている。グレイター・マンチェスター支部からは支部長が委員会のメンバーとなっており、被害者への対応について常に提言している。
・刑事裁判委員会には小委員会があり、VSGM本部長は被害者委員長である。小委員会では「被害者行動基準」について検討しており、来年4月1日施行予定。この基準により、諸官庁を含め、個人がこの法律に基づいたサービスを行っているかが調査され、行っていない場合は解雇など、罰せられる。
業者との連携
・被害者宅の壊された鍵の交換は、ボランティアで行っているが、場合によっては業者を使うこともあり、この場合は、自治体からの補助資金で行う。業者には特別料金の便宜を図ってもらえるよう、依頼してある。
慈善事業団体
・慈善事業団体へ呼びかけ、助成金などの資金調達を行い、支援活動資金を調達している。
警察との連携
・活動の基盤となる情報交換については、前述のとおり、インターネットによるもので、素早く確実に警察からの情報を得ることが出来る。その他、事件によっては、警察署が捜査を行っている間、広報や証拠などについての調査をセンターが行うなど、連携をとることもある。
 
●グレイター・マンチェスター警察
被害者支援についての協議
・1998年に調査を行った結果、被害者は弱い立場にあり、恐怖心を抱いていることがわかった。そのような被害者をどのように見定め、保護していけばよいか、各関係機関が協議を行った。
・証人としての被害者への支援は証拠として影響があるのではないかという危惧があったが、1998年以降は、事件の内容には触れず、こころの精神的な面や自覚に焦点をあてた対応ならよいと、法律で決められた。
被害者担当警察官について
・被害者担当の警察官は、VSと同じトレーニングを受け、技能としてその方法を身につける。
・被害者担当警察官は、重犯罪の被害者及びその家族と事件が起きてから初めて接触する警察官となり、捜査終了まで支援を行う。
・被害者担当警察官は現場(捜査)と被害者を繋ぎ、捜査チームの人員として任務するが、被害者と話しをすることを中心に任務につく。
VSとの連携
・VSへは、普通、捜査が終了してから支援の依頼を行い、それ以後はあまり介入しないが、絶えずVSとの連携を図り、被害者に対しての支援が十分かどうか確認している。
・VSでは、警察からの情報、必要な支援内容、ビデオなどをもとに対応をする。
・警察署内では支援を行わず、別の建物で警察の支援も行われる。その建物はVSと共有することもあり、居間のような雰囲気にし、被害者にとってリラックスできる環境を整えている。
 
3 施設との連携
 VSでは、多くの団体と連携を取っている。社会での認知度も高いので、必要に応じて連携の取りやすい状況にある。ロンドンで訪れたランベス支部では、レイプ被害にあった方のための“The Havens”と連携を取ることが多いようだった。“The Havens”では、レイプ被害者へ医療、カウンセリング、安全確保などの支援を専門的に行っている。各地域によって犯罪の特色などもあり、連携をとる団体は様々である。
 連携機関は数多く存在しており、多方面にわたり、被害者へのサポート体制が充実しているように感じた。
 VSのホームページによると、警察や司法サービスなどの13の公共団体の他、寄付などによる民間団体が60余りある。各団体は規模や種類が様々で、性被害などは家庭内被害の団体、HIV支援団体、幼少期に被害を受けた方々への支援団体、男性の被害者のための団体など、多岐にわたる。
 
4 おわりに
 今回の視察をとおして、英国では社会での犯罪被害者支援団体(VS)の認知度が非常に高いことを感じた。根拠法律に関しては、各センターなどで支援活動に携わる方々の間であまり認識がないようだったが、それは、既に被害者支援が十分に認知されており、法律を特に意識しなくても活動が行われているからだと感じた。
 連携団体については、「必要があれば、どことでも連絡を取り、被害者にとって必要な支援を行う、または各団体から必要な支援が受けられるように配慮する。」という姿勢であった。各団体について社会資源としての情報とその活用が行われ、被害者支援すべてをVSが行わず、連携を含めた支援体制がとられていた。
 日本の犯罪被害者支援も認知度を上げ、各団体との連携も含め、円滑で幅広い支援が行えるよう、努力したい。


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