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イギリス視察報告書
1. 視察実施期間
平成17年10月10日〜16日
 
2. 視察参加者
団長:佐藤 康雄 ((社)被害者支援都民センター)
団員:大場 精子 ((社)みやぎ被害者支援センター)
遠藤 和子 (同上)
横橋 良子 (同上)
吉田 詔子 (石川被害者サポートセンター)
木村紀久江 (埼玉犯罪被害者援助センター)
長谷川優香 (被害者サポートセンターあいち)
鷲尾 洋子 ((社)被害者支援都民センター)
菅井 明則 (日本財団)
 
3. 視察先
英国Victim Support本部(ロンドン)、 ランベス支部(ロンドン)、
グレイター・マンチェスター支部、 グレイター・マンチェスター警察
 
4. 英国視察の基本方針と任務分担
(1)今回の視察は、英国VSの被害者支援の実務面を中心に鋭意視察し、被害の軽減や回復のために、どのような具体的活動をしているかを視察し、今後の被害者支援活動に活かそうとするものである。
 
(2)視察団は、次のとおり担当を分担して視察を行った。
【総務関係】
(1)VSの理念・組織形態・運営・財政(公的資金・会費・寄附等) [佐藤 康雄]
(2)職員・ボランティアの採用方法、給与を含めた待遇及びトレーニング(研修)、ボランティアに求められる資質 [大場 精子]
(3)職員・ボランティアの業務内容・勤務形態・活動頻度、職員に必要な資格 [吉田 詔子]
(4)広報啓発活動 [木村紀久江]
 
【相談・支援関係】
(5)支援活動 [鷲尾 洋子]
・支援対象者
・電話相談・面接相談・直接的支援・自助グループの活動内容(数及び被害実態等)
・特に、直接的支援についての具体的内容 ※キットの入手
 
【その他】
(6)施設・警察との連携、他機関との連携等  [長谷川優香]
 
5. 視察結果
(1)VSの理念・組織形態・運営・財政
(1)VSの概要
 英国VSは、1974年ブリストルで発足し、既に31年の歴史がある。
 発足当初の運営は、司法機関やソーシャルグループによって行われた。
 その後、全英各地に同様の組織が作られ、現在VSとして全国組織となっている。
 英国は、被害者支援を国の責任にして、アン王女を名誉会長にし、財政面、通報制度等被害者支援については、国が全面的に応援するシステムになっている。
 
(2)組織理念
 独立した民間の慈善団体である。政治的中立を保持しつつ、被害者の立場に立って良い隣人として支援できる組織運営がなされている。
 
(3)組織構成
○ 本部事務所(National Office)がロンドンにおかれ、その傘下に約370の地方組織(Scheme)が配置されている。スタッフとして、有給職員が約1,000名と、現場で支援活動を行うボランティアが約10,000人である。本部事務所は、直接現場活動は行わず、VS全体の活動を統括する役割を果たしている。
 VS本部の主な業務としては、VS全体の活動方針の決定、年一回の総会、セミナー・各種イベントの開催、VS地方組織や証人サービスの把握や指導、スタッフのトレーニング、ボランティアの養成や教育のためのマニュアルの作成、被害者への社会的理解を得るための啓蒙活動を行っている。
 政府との連絡窓口でもある。
 
○ 地方VSは、各支部の責任で運営され、被害者への直接的支援等をはじめ幅広く活動を行っている。警察で取り扱った事件に関する情報は全て、(ネットワーク網を通じて)VS支部に通報される。通報を受けたVS支部は、全ての被害者に手紙を出し、サポートする内容を伝える。状況によっては、電話連絡を行う場合もある。その後、被害者の要望に応じて、
・事務所又は被害者方での面接サポート
・証人(裁判所)サポート
・その他、鍵の取り替え、防犯ブザーの提供、保証金・保険金等の請求申請補助
 等の各種支援を無料で実施している。
 
(4)活動資金
 VS全体の年間予算は、約4,100万ポンド(日本円で約87億円)である。その大部分の3,000万ポンド(日本円で約64億円)は、国家(内務省)からの補助金である。他は、VS自身で、寄附金、募金を行い、カバーしている。
※実際は、6,500万ポンドの予算がないと、全てをカバーできないとの意見が多かった。
・資金調達法:チャリティゴルフトーナメント、服役者による体力テスト、アン王女が名誉会長になっている晩餐会、コンサート、ダイレクトメール等
・ランベス支部の財源:内務省、ランベス区役所等
・グレイター・マンチェスター支部の予算:年間300万ポンド(80%が人件費)。200万ポンドは国からで、100万ポンドは自分達で調達する。
調達手段:地方自治体からの寄付、単発のプロジェクトや講話の講師料、宝くじ等
 
(5)被害者支援の対象
 VSが支援する対象は、警察が取り扱う全ての犯罪である。例えば、殺人・レイプ・暴行・傷害・放火等、多岐にわたっている。最近は、家庭内暴力・児童虐待・人種的ハラスメントの被害者への支援が増加している。支援する被害者は、年間約100万人を超えている。
 
(2)職員・ボランティアの採用方法、給与を含めた待遇及びトレーニング(研修)、ボランティアに求められる資質
Victim Support National Office
(1)概要
 ボランティアは各地方組織ごとに常に募集している。ボランティアの応募は多い。
(2)ボランティアの選考
 スタッフが監督しながら、1対1又はグループを通してインタビューを行い、態度、偏見の有無、先入観等で判断している。
 殺人・性暴力・家庭内暴力・同性愛関係の被害者には、特殊な訓練を受けたボランティアが行う。ボランティアの選考は厳しく、選考後トレーニングを行う。2〜3週にわたって16時間のトレーニングをして仮採用し、警察が身元調査後、本採用する。初めはベテランと一緒に行動する。
 ボランティアには交通費と日当を払うが、仮に1ポンドをボランティアに払ったとしたら、ボランティアは5ポンド分の恩恵・見返りある仕事をしている。
(3)サービス内容について
 マンチェスター・ロンドンなど地域でサービスにばらつきがないように、基準を設けている。本部スタッフは、地域の実務内容をチェックし、全国で同じ水準のサービスをする。
(4)トレーニング
A 聴く力
 被害体験の追体験が出来る。
B 高度な研修
 ボランティアを始めて数年後には、希望者は重犯罪の被害者の話を聴く訓練も受けられる。
(5)政府に求めたいこと
・被害にあった時の場所に居住したくない場合、役所が持っている建物への転居、又は自宅を処分して転居することを支援して欲しい。
・身体的被害があるときの補償。
(英国では一般交通事故の被害者は支援してない。)
・プランニング&プロデュース
 7月7日のテロ被害者には、40人のボランティアが被害直後から支援しており、必要に応じカウンセリングの紹介や補償申請手続きの支援をしている。犯罪被害支援のみだけではなく、津波などの災害被害支援も行う。
(6)組織
 組織は慈善事業団体であり、90地域会員が100〜120ポンドを納める。組織は、財務・人事・トレーニング・IT・研究開発の部門がある。VS本部には100人が、地域では1,000人が事務所をもって行い、すべてNGO(非政府組織)である。
(7)質疑応答から
・職員の給与は、給与を公開している慈善事業を基準に4段階に分けており、マネージメントは10,000〜15,000ポンド。
・支援は、自転車盗については行ってない。
・最近政府は家庭内暴力に力を入れており、特別裁判所を設けて行う。
・支援者が一人で相談にのり、裁判にも同行する(同じことを何度も話す必要がない)。
 
ランベス支部
(1)概況
 ロンドン33区の1つであり、ロンドンの人口800万人の136万人を占める。
(2)スタッフ
所長は、フルタイム勤務
アシスタントコーディネーターはパートタイムで2人
パートタイムのスーパーバイザー
ボランティア35人
 ほとんどは被害者宅を訪問するなど出かけて支援する。
 学生10人が実習しながら、カウンセリングを勉強している。
(3)対象
 警察からインターネットで情報が来る。本日も100件来ている。
 情報が来たら手紙で知らせ支援するが、暴力犯罪の被害者には電話で連絡する。車両盗被害については対象にならない。テロ事件以後、自転車の利用者が増加したので、自転車盗も対象外である。
(4)補償
 犯給法で補償するが幅があり、補償局が見舞いを出すシステムで、障害が残る傷害は1,000ポンドで、最高25万ポンドの補償。性的暴力被害は11,000ポンドからの補償であるが、届出をして明らかに被害があった時に支給される。英国では、被害後の回復を見届けるため、支給されるまで時間がかかる。
(5)スタッフの養成
 ボランティア、スタッフには本部で作成した手引きがある。
 なぜボランティアをしたいのか、意志を確認。聴く能力を中心にみる。
 家庭内暴力など重大事件や特殊なケースに進みたいボランティアは、ロンドン本部で養成する。
 スタッフのストレス解消法は、大声を出したり、互いのコミュニケーションである。
(6)勤務時間
 午前9時から午後5時30分までであるが、相談電話は午後6時まで。
 週末・祭日は休み。
(7)その他
 以前は、窃盗被害者に対しカギ交換の支援をし、ボビーバン(警察官)の愛称で人気があったが、資金不足で数ヶ月前に廃止となった。今は老人対象の支援団体を紹介している。
 最近の具体的事例では、
・銃所持者に脅されて精神的ショックが大きく立ち直れなくて、元の仕事に復帰できない人にカウンセリングを紹介。
・交際を止めたことが原因でボーイフレンドに乱暴された女性が、恐怖心から被害届を出せずにいたが、1日がかりで話を聞いてもらい、ヘブンに行った。
・40歳の男性が、18歳の男の子から殴られたショックで不安・恐怖感があり、話相手を希望した。
 
グレイター・マンチェスター支部
(1)統括の業務
A 人事 ローカルのスタッフ採用と財務管理
B インターネットなどを通じての情報公開
C ボランティアの養成
D 開発
E 特別職(人種犯罪、年齢、文化、身体的ハンディ、性的、宗教)
(2)スタッフ
 15人のスタッフがいるが、グレイター・マンチェスター支部には、150人の常勤スタッフがいる。ボランティアは700人いる。
(3)取り扱い数
 年間14万5千件を取り扱い、そのうちの90パーセントは警察からの情報で、残りは、自らの申告・ソーシャルワーカーからの引継ぎ・医師からの引継ぎ・市民相談所等からの引継ぎで、対象は、殺人・強姦などの性被害・窃盗犯・侵入犯が中心で、刑事犯罪被害の80%を支援する。最小限の支援は、手紙による支援面接・電話による支援が80%である。
(4)ボランティア活動について
サービスセンター
ボランティアの養成と研修担当:アンさん(女性)
次長:ジョー(女性)
ボランティア(3名):ナリ(男性) 主婦(女性) 学生(女性)
 
・アンさんによる説明
 ボランティアの養成と研修担当。10のブランチ。13の証人サービス。
 ボランティアは650人が登録している。家庭訪問など1週間に2時間は行ってもらっており、20時間以上の人もいる。すべて無給で経費のみ支給する。
 250人は証人支援、手続き、付添いを行う。裁判所へのサービスは週1日。
 それぞれの支部には地域委員会があり、委員6名がうまく効果的にサービス出来るように色々な人が入っている。メンバーは、こちらの所長が選んで任命している。
 他に50人が事務の手伝いやカギの交換の手伝いを行っている。全てのボランティアが訪問支援に4日間、証人サービスに3日間のトレーニングを受けており、6ケ月の経験を積んだあと、希望すれば高度のトレーニングを受けられる。週1日のペースで1年かけて行われる。60パーセントの人が希望する。
 特別なトレーニングの内容は、人種、殺人、強姦、家庭内暴力が対象で同性愛はない。ボランティアの採用では、全員身辺調査はきちんと行う。申請書・紹介状を貰い、警察のチェックを行うなど厳しい。トレーニングは採用前に4日間行い、面接して決定する。
 求人広告は新聞掲載(高額なので記事を書いてもらう)、ラジオ、テレビ、バス広告。
 刑事裁判委員会から1,700ポンドの資金援助。
 
・サルフォード地域での支援
 ボランティアは、ナリさん(男性で4年前にアフガニスタンから移住)と女性2名で主婦と学生。
 彼ら3名は熱心で成功している。指導者がトレーニングしてもらった感じである。
 支援の情報が入ると、24時間以内に当事者と面接日を調整する。実際に訪れるのは夜の場合もある。訪問するのは1時間以内。同じ話の繰り返しになるので。1回で終わる場合もあるし、そうでない場合もある。回数は被害の状況によって違うし、支援の内容も違う。
 ボランティアをしてよかったと思う。最初は戸惑い、躊躇もあったが喜んでもらえて自分も嬉しい。センター・被害者・自分の3つの繋がりの中で、支援出来ることは素晴らしいことである。
 その反面、色々な人の話を聞いて、それを持ち込んで家に帰るのはストレスになるので、聞いた話を職員に伝えるなどオープンドアで対応し、互いにストレスをためないようサポートしている。
 次長は昨年6月から働いている。当時5人のボランティアがいたが、現在は17人登録している。トレーニング中5人。面接待ち5人。トレーニング待ち5人。


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