日本財団 図書館


2.3.2.4 隣接するカスプより発生する離岸流の検討
(1)実測例の概要
 対象とするカスプ地形は、2002年に浦富海岸の東部潜堤背後に形成されたもので、図−2.3.60、図−2.3.61にカスプ地形形成前(9月12日)及び形成後(9月15日)に撮影された地形を示す。離岸流は、図−2.3.61に見られる3つ連続するカスプ地形の1番波長の短い中央のカスプ(A)の凹部からのみ発生した。離岸流速は約0.8m/sであった。これらのカスプは13日未明から12時間ほど継続した波高1m以上の波浪によって形成されたものと考えられる(前出図−2.3.8参照)。また図−2.3.60に示す高波浪前にはカスプが形成されるきっかけとなるような窪み等は確認できない。図−2.3.61に示す離岸流撮影時の波浪条件は、有義波高0.6m、周期4s、波向きはNNWで、対象領域にほぼ直角に入射する条件であったことがわかる。さらに離岸流発生地点では砕波が確認できないため、周囲より海底面が掘れてリップチャネルが形成されていると考えられるが、周囲にbarの存在は確認できなかった。それぞれのカスプの波長・および汀線の振幅ηは
(A)λ=48m,η=15m
(B)λ=82.5m,η=20m
であった。
 
図−2.3.60 カスプ形成前(9月12日)
 
図−2.3.61 汀線凹部より発生する離岸流(9月15日)
 
 カスプ形成の機構に関してはすでに幾つかのモデルが提案されているが、その全てがカスプ地形を等間隔と仮定している。しかし、今回の観測結果では同じ波浪が入射して形成されたにもかかわらず、異なる波長のカスプが隣接して形成されており、現地海岸では必ずしも規則的なカスプが形成されてはいないことが分かる。このカスプがどのような機構で形成されたのかについては不明である。
 
(2)カスプを独立させた場合の検討
 現地実測にて観測されたカスプA、Bの振幅波長比η/λを用いて計算を行ったものが図−2.3.62である。この計算ではAおよびBのカスプを独立して計算を行った。つまり両カスプが隣接する影響は発生していない。入射波周期LO=5.0sとし、波高を変化させた結果を示している。図より明らかなように、離岸流の発生したカスプAの方がカスプBよりも大きな流れが発生する可能性があることが分かる。現地での入射波浪HO=0.6mを見ると、Aで観測された離岸流速0.8m/sと計算結果が良く一致している事がわかる。現地での流速が計算結果よりも速くなる原因として、流れによって海底が掘られリップチャネルが形成され流れが増強されていた可能性があり、そのために現地海岸ではカスプAでより顕著に離岸流が観測されたと考えられる。
 
図−2.3.62 現地カスプを用いた計算結果
 
(3)カスプを隣接させた場合の検討
 次に実際にカスプが隣接した地形での計算を行った。モデル地形は図−2.3.63に示すとおりであり、λ=100mのカスプとλ=200mのカスプが隣接するように配置した。カスプの振幅は共にη=20mとしたこの場合はカスプが隣接することで両者の間で流速や循環の規模の違いによる影響が出てくるものと考えられる。
 
図−2.3.63 モデル地形の概要
 
 計算は波高をHO=0.3〜1.2mに0.1m刻みで変化させ、また周期をT=4.0s、6.0s、7.0sとして計算を行った。計算結果を図−2.3.64にまとめている。図の横軸には砕波帯幅をカスプの影響範囲で割った砕波位置を表すパラメータをとり、縦軸にはλ=100m、およびλ=200m内での最大離岸流側の比を取っている。図より明らかなように、砕波位置とカスプの影響範囲の比が小さいほど、つまり砕波位置が汀線に近づくほど両カスプ間の流速比は大きくなり、波長の小さいカスプでより早い離岸流が発生する。また、砕波位置とカスプの影響範囲が一致する点から両カスプの流速の関係は逆転し、カスプ波長の大きいカスプの方がより早い離岸流が発生するようになる。このようにカスプを隣接させることにより両カスプ間の影響が発生し、単純にカスプの形状だけで離岸流速が決定されないようになる。
 χb/χw=1で流速が逆転することについては、出口ら(2005)が述べるように、砕波位置がカスプの影響範囲より沖側に存在するともはや砕波位置は沿岸方向に一様となり、流れを引き起こす沿岸方向のradiation stressの勾配はカスプ地形によって決定されることになるため、カスプ波長の大きいカスプで流速が早くなると考えられる。逆に砕波位置が汀線に近い場合は、カスプの振幅波長比が大きいカスプの方が地形の変化が急であるため、それに伴ってradiation stressの勾配および波向きに強い影響を与えると考えられるため、振幅波長比が大きいカスプでより早い離岸流が発生しやすくなると考えられる。
 
図−2.3.64 隣接するカスプでの計算結果
 
 図−2.3.65にはもっとも両カスプの離岸流速の差が現れたH=0.3m、T=4.0sのケースについてその流況を示す。図より明らかなように数値計算では局所的な流速に差は現れるが、現地で観測されたような一方のカスプで離岸流が発生しないという状況は発生しなかった。また波長の小さいカスプでは離岸流幅が狭いために離岸流速が早くなるがその離岸流長は短く、逆に波長の長いカスプでは最大離岸流速は小さいものの、離岸流幅が広く離岸流長が長いため離岸流の規模は大きい。また流れの循環においても互いのカスプによる流れの循環への影響はほとんど見られない。このため、この計算手法では両者が隣接することによる影響はほとんど発生しないと考えられる。
 
図−2.3.65 隣接するカスプでの計算例(H=0.3m,T=4.0s)


前ページ 目次へ 次ページ





日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION