3.4 アンケート用紙の作成
本研究では、工学研究所の意見を基に参考資料に示すような「ホーム車両の段差、隙間検証とアンケート解答用紙」を準備して検証実験を実施した。該アンケート用紙は下記の内容を含む。
(1)検証日時、
(2)被験者No
(3)被験者の種類(○選択)
(4)被験者プロファイル
(5)車椅子、ベビーカーの特徴
(6)検証結果(ホーム←→車両、逆段差あり)
なお、車いす等の乗降の検証結果は後の分析を容易にするため、○;楽に乗り越えが出来る、△;何とか乗り越えが出来る、×;乗り越えが出来ない、の3段階評価とした。段差隙間の乗り越えの記入表は、横軸に0〜50mmまでの8段階の段差と、縦軸に0〜80mm9段階の隙間マトリックスとして、被験者の通過能力に合わせて目標目安値を設定し、この値の近辺から検証を始めた。これは測定時間の短縮を図るためマトリックスを総当りしないことによる。
また、実験前にはクツズリ(*1)の有無を予定していたが、一般的な車両にはクツズリが付随しているため、クツズリ有のみの検証を行った。このことは、7項の検証結果で詳述するようにクツズリの存在は被験者の相当な障害の1つとなった。
(1)車いすの車輪径
今回の実験に協力してもらった車いす使用者の車いすの形式はいずれもハンドリムを自力で操作して進む自走型手動車いすである。車いすで段差や隙間を通過する場合、車輪の大きさは通過しやすさに影響する。今回の手動車いす被験者が使っている車いすの前輪(キャスター輪)および後輪(駆動輪)の直径は表3-3のとおりである。
表3-3 被験者使用車いすの車輪径
被験者 |
キャスタ径mm |
駆動輪径mm |
A |
104 |
588 |
B |
104 |
585 |
C |
94 |
582 |
D |
104 |
587 |
E |
124 |
590 |
F |
101 |
587 |
G |
104 |
589 |
H |
147 |
569 |
I |
104 |
587 |
J |
99 |
587 |
K |
94 |
589 |
L |
91 |
588 |
M |
98 |
587 |
N |
104 |
589 |
O |
94 |
590 |
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(2)ハンドリム駆動力の計測
段差および隙間を通過するためには、それらの規模に応じた駆動力が必要である。そこで、段差・隙間通過実験の手動車いす被験者のハンドリム駆動力を以下の方法で計測した。方法として、被験者が搭乗した手動車いすの後方フレームに牽引用ロープを取り付け、そのロープを上下可動式のプレートに設置したディジタル・プッシュプル・ゲージ(DPX-50T; IMADA製)に連結する。被験者に、最大努力でハンドリムを駆動してプッシュプル・ゲージを牽引してもらい、そのときの牽引力を読み取る。牽引実験を実施するにあたって、ロープで水平に牽引されるようプレート高さを予め調整しておく。
この計測は、各被験者につき2回行い、その平均値を求めてそれぞれの被験者の最大駆動能力とする。ハンドリム駆動力計測の様子を図3-6に示す。
なお、この方法による駆動力計測法の信頼性は、別の研究1)において確認されている。
図3-6 ハンドリム駆動力計測実験
(3)ハンドリム駆動力計測結果
各手動車いす被験者のハンドリム最大駆動力計測結果は以下のとおりである。
A: 539N
B: 139N
C: 158N
D: 247N
E: 130N
F: 286N
G: 484N
H: 221N(後ろ向き)
I: 198N
J: 312N
K: 367N
L: 377N
M: 395N
N: 54N
O: 230N
ただし、被験者Hは片麻痺のため、段差および隙間を通過する際は、健側片手でハンドリムを駆動し健側片足で地面を蹴って車いすを後ろ向きに進めるため、その方法による駆動力を計測した。
(4)重量計測
車いすによる段差および隙間の通過し易さ、難しさは車いす・搭乗者の重量にも影響されるので、各手動車いす被験者について、以下の方法で総重量を計測した。
デジタル台秤にプレートを設置した重量計測台を製作する。その計測台に被験者が搭乗した車いすの前輪、後輪をそれぞれ別々に載せ、そのときの重量値を読み取る。重量計測の様子を図3-7に示す。
図3-7 重量計測
各手動車いす被験者についての前輪荷重および後輪荷重の計測結果、それらを合わせた総重量を表3-4に、これらの結果を要約したものを表3-5に示す。
表3-4 重量計測結果
被験者 |
前輪荷重N |
後輪荷重N |
総重量N |
A |
209 |
599 |
808 |
B |
152 |
383 |
535 |
C |
156 |
519 |
675 |
D |
192 |
487 |
679 |
E |
145 |
515 |
660 |
F |
148 |
402 |
550 |
G |
127 |
650 |
777 |
F |
317 |
295 |
512 |
I |
79 |
424 |
503 |
J |
260 |
526 |
786 |
K |
134 |
611 |
745 |
L |
109 |
644 |
753 |
M |
152 |
546 |
698 |
N |
227 |
539 |
766 |
O |
123 |
418 |
541 |
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表3-5 
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被験者一覧(ホームと列車の段差、隙間における通過実験)
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工学研究所の多目的実験室に設置した模擬鉄道駅プラットホーム・列車乗降口の台座を使って、電動車いす、手動車いす、および視覚障害者による通過実験を行った。
(1)検証した段差・隙間の寸法
通過実験のために設定した段差高および隙間幅は以下のとおりであり、
段差高(mm):0、5、10、15、20、30、40、50
隙間幅(mm):0、10、20、30、40、50、60、70、80
これらの段差高と隙間幅をすべて組み合わせて72通りの実験条件について検証した。なお、現実のホームでは段差・隙間ともこれらの数値を大幅に超える場合も考えられるが、本研究では日本国内の基準を考慮して、最大の段差を5cm、隙間を8cmとした。
(2)検証実験の方法
被験者は、設定した段差高と隙間幅を、日常生活で行っているとおりの方法で往復通過する。通過できなくなった実験条件より厳しい条件については通過実験を行わず、通過不可とする。
また、通過実験後は、電動車いすの場合を除く被験者に対し、作成したアンケート用紙に沿って難易度を聞き取り評価する。また、すべての通過実験動作について、被験者の同意を得てビデオ映像で記録し、映像による難易度評価も行えるようにする。
なお、電動車いすについては、通過難易度ではなく、通過可能か不可かで評価する。
さらに、ハンドリムを操作して駆動輪を動かすときの駆動力および駆動輪の回転数を計測することができる計測用車いすシステム(図3-8)を用いて、手動車いすで各段差・隙間を通過するのに必要な駆動力を定量的に検証する。
図3-8 計測用車いすシステム
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