| 皆さんの安全運航を願って(その1)  広島地区小型船安全協会(広島市矢野遊漁組合分会)会員である森永重昭氏は、現在、(有)フロリダマリンサービスを経営されております。  分会で開催される安全講習会においては、自ら資料を作成され講師として講習を行ってこられ、又、修理・整備・救助業務を実施された後、原因や再発防止のミニ情報をユーザーに渡しておられます。安全講習会資料やミニ情報はモーターボートユーザーの安全運航に役立つと思われますので、順次ご紹介させていただきます。  今回は、長年の経験によるノーハウ(特にエンジン整備技術)を基に作成された安全講習会資料(1996〜2001年)を整理していただき、寄稿していただきました。 【事務局】   森永 重昭  私が海上安全講習会の講師をさせてもらったのは、分会の会員の皆様より私の方が長い間海の上を走っており、危ない経験をしているからでした。  この度、(社)瀬戸内海小型船安全協会から、分会の海上安全講習会用に作成した資料を「せとかぜ」に寄稿して欲しいとの要望がありましたので、その一部をまとめてみました。皆さんの安全運航のために少しでもお役に立てば幸いです。 予期せぬエンジントラブルについて  洋上でのエンジントラブルは本当に情けないものです。ましてや大事なお客さんを乗せている場合は大変です。しかしながら「絶対に故障しないエンジンはない」のが現実で残念ながら走っている以上、その可能性は常について回るものです。  ならば、それを予期し、可能な限りの予防措置を行い、万一、エンジントラブルに遭遇した時の対処を考えておくことが必要です。  なお、霧がかかってきたので釣りを中断して帰ろうとしたが方向がわからない→仕方なく岸伝いに帰っていたら燃料が無くなった、あるいは船底が汚れていたために予想外に燃料を消費したことなどでのガス欠によるエンジン停止は、エンジントラブル以前の基本的な心構えの問題です。「燃料は往の二倍を復に残しておく」のが常識と言うことになっています。 【エンジントラブルを防止するための対応】 定期的な点検・整備の実施  定期的に点検・整備を行い、エンジンを常に最良の状態にしておくことが重要です。 (1)冷却水ポンプのインペラーの定期的な交換 (2)ベルトの点検、張力調整 (3)バッテリーの比重・液量点検、補充 (4)冷却水点検、補充 (5)エンジンオイル量の点検・補充及び定期交換 (6)ギヤーオイルの点検・交換、水入点検  要はエンジンが回っているということは、常に劣化の途中にあることです。定期点検・整備は必ず実施する必要があります。   予測できるトラブルへの対応  定期点検・整備を行っていても残念ながら絶対に大丈夫とは言い切れません。  それは、機械には劣化故障と偶発的故障があり、さらに船には漂流物を拾うと言うような事故もあるからです。  そこで、ある程度予測できるトラブルについては対応を考えておくことです。 (1)インペラー、Vベルト、点火プラグ、噴射管等の部品の予備を持っておくこと。 (2)できればそれらが取り替えられる技術を身に付けておくこと。 (取替え技術のない人でも、部品さえあれば、近くの自動車屋でも農機具屋でも対応してもらえます。) 【自己対応不可能なエンジントラブルへの対応】  海上での自己対応が不可能なエンジントラブルが起きた場合にどうするか予め決めておく。 (1)行きつけの整備工場や、曳航を頼める友達に連絡が取れるようにしておくこと(携帯電話のメモリーに頼れる人の番号を必ず複数いれておくこと)。 (2)遠乗りでの事故ならば、馴染みの整備工場に連絡した上で近くの港を確認し、その漁協、マリーナ等に係留を依頼して、ひとまず連絡船で帰るか、宿泊する。  遠乗りをする場合、前もってその途中及び目的場所周辺の避難港又はマリーナを確認しておくこと。 (3)それでも、どうにもならない時のため、管轄の保安庁の電話番号を携帯電話のメモリーに入れておくこと(切迫した事態の場合は118番通報する)。 【洋上でのエンジントラブル対応】  洋上でのエンジントラブルは、自動車と違い道路脇に止めてゆっくりと救援を待つことができません。厳しいことを言うようですが、基本的に「もやいを解いた後のトラブルは自力で解決するしかない」ということを認識しておいて下さい。   エンジンに異常を感じた  まず回転を落とし、停船して点検すること。エンジン異常の原因として次のことが考えられます。 (1)プロペラの前にビニールが張りついたら少しエンジン音が大きくなってスピードが落ちます。そのまま走ったらオーバーヒートです。 (2)プロペラの前に竹や木片が掛かるとエンジン側部にしぶきが上がります。これもオーバーヒートにつながります。 (3)プロペラの前に大きな竹や木片が掛かると急にエンジン回転が上がります。直ちにエンジン回転を下げないと一瞬にしてエンジンが破損します。 (4)5000rpmで走っていたら急にエンジン回転が500〜600rpmに落ちた。  4〜6気筒の内の1気筒がミスファイヤーを起しています。原因は点火系のトラブル、キャブレターの詰まりが考えられますが、このまま全開で走れば他の気筒は点火時期が早い状態となり、ピストンが解けてしまいます(この傾向は高圧縮のエンジンほど早く起こります)。このような場合でも1500rpm位なら走り続けることができます。   エンジンが止まった ◇自分の知識で処置が可能かどうかチェック □だめと判断した場合 (1)躊躇することなく、近くを通る船に助けを求めることです。  こんな時に限り誰も通らないことが多いものです。 ・自分の船には信号紅炎があることを思い出して下さい。 ・遠すぎると思ってもやってみるべきでしょう。 (2)近くに船がいなければ、行きつけの整備工場や知り合いの友達に曳航を依頼する。 (3)近くの海上保安部署に通報する。緊急事態の場合「118番」通報する。 ◇漂流対策  エンジンが止まれば潮に流されます。まして強風下では見る見るうちに岩礁に流されていく事態になります。 □どの方向に流れているのか確認して下さい。明らかに流れていることが判るようでは逆に漕いでみてもほとんど無駄です。帰る方向と逆でも流れる方向に活路を見つけるべきでしょう。 □アンカーを打って救助を待つ。  十分な長さのロープとアンカーがあれば、アンカーを打つことにより、自分で修理できる場合も余裕が持て、修理・救助を依頼した場合もゆっくり落ち着いて待つこともできます。 □自船にまともに近づいてくる船についても警戒すべきです。 【洋上でのエンジントラブル事例】  最近(1998)、実際にあったトラブル事例です。皆様が最悪の事態にならないための参考にしていただけたらと思います。 ○某日18時10分携帯電話で「エンジンがかからない」と連絡を受けました。 ○電圧を確認するように指示したところ8Vであった。 ・サブバッテリーに切り替えを指示、それでもエンジンはかからない(サブバッテリーも上がっていると判断した)。 ・発電機のベルトは切れているかと聞いたが異常がないとのこと。 ・航海灯が点滅するかを確認、航海灯を点灯したままチルト操作を指示した(このとき航海灯は少しだけ暗くなったのこと) ・GPS、魚探、イケス電動ポンプは切るように指示した。 ・停泊灯は4〜5時間は持つであろうと判断して日没後は点灯するよう指示した。 ○私はエンジンさえかかれば、充電系統が故障していたとしても航海灯を点灯して自力帰港が可能と判断した。 ○救助のため詳しい現在位置を確認 ・音戸の瀬戸南東5kmにある情島の沖の位置を確認。 ・アンカーを入れて動かないことを指示、30分置きに連絡を取り合うことを約束。 ○救助準備  曳航を想定して大型ボートを準備、十分な燃料を補給。救助に向かう事、場所、到着予定時間、通行する航路を陸地に連絡。海図確認、GPSセット。 ○19時30分出発、現地に20時50分着、ブースターケーブルで始動を試みるが始動せず。スターターが故障していると判断した。 ・各部を点検するが現地修理は困難と判断し自力航行を断念、曳航する。 ○午前1時、サービス工場(金輪島着)、お客さんは昼の疲れもプラスされ限界状態、船長も声なし。 ○船長としての反省点 
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|  もし故障したらどうするのか、もし天候が急変したらどうするのか、もし急病人がでたらなど、起こるかもしれないアンラッキーな出来事の対処が考えられていなかったと言えます。船長の反省点として次のことが考えられます。 (1)遠くに出て行く場合、近くの避難港、宿泊施設、交通機関、医療施設等がどうであるかを確認しておくことが必要です。 (2)日帰りするつもりなら、午後2時には切り上げるべきです。  14時なら周囲にたくさん船が居たはず、近くの港まで曳航してもらってお客さんを客船で返すことも、民宿で食事させることもできたはずです。  運が良ければ、広島まで曳航してくれるかもしれません。 (3)なぜエンジンがかからなかったのか  ブースターケーブルを接続しても始動しなかったため、私はスタータモーターが故障していると判断したが、そうではなく、ブースターからの電流は完全に上ったバッテリーの充電に消費されていた。  バッテリーが上った原因は、イケスの循環ポンプを回しっぱなしにしたためだった。  船長としては、燃料が今どれだけ残っているかを絶えず注意するように、バッテリーの状態を電圧計で確認し、12V以下になる前にエンジン回転を上げて、バッテリーを充電しなければならなかった。  大型のボートになりますとGPS・魚探が50W、イケスポンプが96W、オーデオが24W、車で言えばヘッドライトをつけたままの状態の約1.5倍の電気を消費しているのです。  船長の責任としては「私は電気と機械は苦手なのです」と言っておれないのです。 |  |    以下 次号 |