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(ビデオ上映)
−− 2月21日土曜日。「こんにちは いっと6けん」です。関東地方は今日も暖かくなっています。では、今日ご紹介する主な内容です。まずインタビュー、「東京いま人」。今日は、アート作品をつくることで脳を活性化させ、認知症の改善をしようと活動している彫刻家の金子健二さんです。
 右脳を活性化させる絵の描き方。そして、家族の心もケアする取り組みなどをご紹介します。
−− 金子さんにお話を伺いました。これはその金子さんが指導なさっているお年寄りの皆さんが描いた作品なんですが、カラフルなものもありますし素朴なものもありますし。
金子 そうですね。なかなか迫力があるでしょう。
−− ええ。
金子 子供たちが描いたエネルギーみたいなものを感じますよね。
−− 本当ですね。言われなければ年齢も分からないし。
金子 そうですね、はい。本当に皆さん楽しくて毎回休まずに来ておられます。
−− 描く絵というのは、金子さん初め皆さんが教えていらっしゃるのは?
金子 具体的なものを描くものを半分とすれば、心の中の世界を描くのが半分。
−− 例えば?
金子 例えば、ご自分にとって気持ちの良い線というのを描いてみると、何か不思議なユッタリとした線が描けますでしょう。心の自画像とも言えますよね。そこに今度部分的にご自分の目とか口とか鼻を描いてみたら、何かピカソみたいな絵が描けちゃったみたいな世界になってくるのです。
−− 金子さんは1976年、東京芸術大学大学院の彫刻科を卒業。彫刻家として活躍する一方で、大学の仲間たちと「芸術造形研究所」を造り、子供たちを中心に絵や造形など美術を教えるようになりました。
 そして、研究所が20年たったのを機に何か社会に役に立つことを始めたいと思っていた矢先、スタッフの一人の母親が認知症で悩んでいることを知ります。
金子 医者から得た治療メニューを持ってきていたのです。それを見たら、右脳活性化ということが書いてあったのね。私たちは、子供たちに右脳で絵を描かせるという方法をずっとやってきたのです。
−− 20年間、その子供たちにやってこられた。
金子 はい。右脳でものを見る方法を教えていたものですから、絵を描けばいいと書いてあったのです。ただ絵を描けばいいってわけではないだろうと。(笑い)これは素人だな、「絵を描かせるのは俺たちに任せて。これはちょっと特殊な方法が必要なんだよ」ということで、「私たち、本当に美術家は役に立たないと言われているけれど、役に立つこともあるかもしれません」と。美術家の出番だと思ったのです。
−− 金子さんたちが開いているアートセラピーの教室です。1クラス4人から5人。金子さんの指導を受けた臨床美術士の資格を持った人たちが授業を行います。臨床美術士には、染色、造形芸術、日本画家などさまざまのプロの芸術家が多くいます。美術の知識だけではなく、医療の知識、運動療法、コミュニケーションなどの勉強をし、高齢者に合ったさまざまなテーマで教えていきます。
 食べ、においを嗅いだり、五感をフルに使ったテーマに取り組みます。同じ所にじっとしているのが難しいと言われる認知症の人たちも、この時だけはほとんど席を立つことなく、2時間からときには3時間一つの作品造りに取り組むといいます。できあがった作品を臨床美術士は一つ一つ丁寧にほめていきます。皆さんに笑顔が広がります。
参加者家族 行く日だって話しますとね、喜んで、どんどん支度して、もう時間に早く出よう出ようとします。どこでも行くよと言いますと、もう時間をどんどん早く、そして喜んで来ます。こちらでは本当によく指導してくださるので、うちではとてもできないことです。
金子 特殊な方法。ちょっとものの見方を提供して、そして右脳で描く方法をお教えしているのです。
−− その右の脳で描く方法っていうのはどういうやり方なのですか。
金子 いろいろあるのです。例えば、リンゴを描きましょうと、リンゴを前に置きますよね。すると皆さんは、こういうふうに丸を描いて、ちょんを描いて、赤く塗る。そのリンゴを見ようとしないのです。これは左の脳を使うのです。臨床美術はこういう絵を描かせないようにしようと。どういうように描かせるかといいますと、例えば、味を色に描いたら何色でしょうかねと。
−− おいしそうですよね。
金子 そうすると、味だったら甘かったからこのピンクかなみたいな。赤ちゃんのリンゴを描いてみる。
で、徐々に成長して真っ赤なリンゴになってくるんだなということを思い出しますよね。
−− はい。
金子 そうするとある方なんかは、「金子さん、私いきなり92歳になったんじゃないのよ。私も20歳の時があったのよ」なんて言ってくださるのです。こんな絵を描きながら、そういうコミュニケーションができるのです。こうやって描くと、中身が詰まっているとか、私は今味を描いているんだと思いが見えてくるでしょう。少しずつ、もう一個所の腹を使って、いつストップしてもリンゴでいるようにしましょうねみたいな。
 今度は、においはどうか描いてみようかなと。爽やかなにおいだから青かなとか、すると何かもう味とにおいを全部描いている気になってくるのです。それから、こういう引っかいた筋がありますね。下の所に出てきますね。それを夢中になって、点々の斑紋をこうやって描かれます。
−− はあ。なるほどねえ。
金子 例えば、「怒り」について描いてみるということもできるのです。「怒り」に色なんてないのですけれども、「怒りに色があるとすれば2色挙げてみましょうと」言うと、ある人は「青」と「紫」だとか、「私は間違ってしまったのではないか」ではなくて、それでいいのだと。イメージして決断して、選ぶという作業、これは前頭前野を活性化すると言われています。
 そうすると、その人らしい絵が描けるのです。大切なのは感じたままを描くということなのです。
−− 去年6月、金子さんの念願だったアートセラピーがあるクリニックが開業しました。クリニックの医師、木村伸先生。金子さんと9年前からアートセラピーを立ち上げ、医療の面からこの活動を支えてきました。病院では認知症の患者さんや予防のため、30人ほどが今アートセラピーを受けています。
木村 楽しみがあって継続もできて、しかも魅力的にやれてと思って、描く人も大きな改善をするという意味ではアートがいいのではないかというふうに思います。
 まだ長期のデータというのが採れてないのですが、脳波をやった結果、アートをやった前とやったあとでDIMENSIONという脳波測定器で比べてみると、まず1回のアートで多くの方は脳の機能が活性化されているというのがまず分かってきました。
−− ここでは定期的に家族のカウンセリングも開かれています。カウンセリングの担当は金子さんの古くからの友人である牧師の関根一夫さんです。家族の悩み、ぐちなどをここではみんな話せます。認知症という同じ問題を抱えた者でなければ言えない本音が心置きなく語り合える場なのです。
 語り合ううち、家族の人たちの顔が和らぎ笑顔になっていきます。そうすると、患者さんも落ち着いてくるのだそうです。
参加者家族 こういう場があるから、私自身がよそへ行って言えないことを皆さんの前でこうやれる。それは本当に心から話します。皆さんも「こういうときはこうだよね」と。私は、これが本当に、うちのお父さんよりも自分がここに来て心を癒されていることが一番うれしいです。
−− アートセラピーというのは、やはり絵を描くだけではなく、それを支える、それを教える臨床美術士という方がいらして、ご家族のケアをするカウンセラーがいらして、もちろんお医者さんもいて、その三つの連携で成立するもの。
金子 この3者が仲良く、お互い尊敬し合うというのはとても大事だと思うのです。これが馬鹿にして、「美術家なんか何ができる」と言われてしまうともうできないのです。このアートの部分については私たちに任せてくださる。実際、治療的なというと語弊がありますけれど、患者さんと接するのは私たちですから、私達を信用してくださるということはとても大事です。
 私たちも医療の部分については医者を信頼する。ご家族の部分についてはカウンセラーにお願いするというかたちで、お互いに情報交換していいものを作っていこうと。この三位一体というのがとても大事かなと思います。私たちが気を使いながら、心理学の勉強をこれからしなければならないとすれば、多少は勉強しますが、専門家にはなれないわけです。それを専門家に来ていただいて、調和をしていいハーモニーをかもし出すことが大事かなと思います。
−− お年寄りの方、あるいはそのご家族の方たちに絵を教えるという臨床美術士ですけれども、どうでしょう、なりたいというかそういう声というのは聞こえてきていますか。
金子 もう皆さん、絵は二度と描きたくないという美術家が来るんですよ。(笑い)その方たちが、人のために役立つのだったらやりたい、もう一回やってみたいという方が随分おられます。絵はある意味、競争の世界でもあるので、競争に負けてしまったという言い方をすると変ですけれど、もう傷付いてしまって絵筆を折ってしまったというかつての美術家たちがいっぱいいるのです。そういう人たちがもう一回やりたいとか。それから、養護福祉の施設の職員たちが勉強したい。やはりやっている内容が非常に高齢者の方々に満足を与えていないと、もっと本当に高い満足を与えるためのアートが必要なのではないだろうかと皆さん分かっておられるみたいです。動機を書いています。
−− そうですか。
金子 はい。やはり世界に私たちのカリキュラムの思いが提供できて、多くの方々にアートの深さ、楽しみを知っていただいて、生き生きと生きていただく、自分の人生を完走していただきたいなと思いますね。そして、支援の方々がよく意欲を持ってできないじゃないですか、今、ほら、そうでしょう。(笑い)経済的な不況だとかね。でもそんなことはないと、アートで私は生きるのが楽しいんだというのは美術家たちの心情だと思うのです。
(ビデオ終了)


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