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海難事故・インシデント調査による航海の安全性向上のための法律
(海上安全調査法−SUG)
 本法は、2002年6月16日付の第二航海調整法(Das Zweite Seeschifffahrtanpassungsgesetz(連邦官報I 1815頁)第2条として成立した。本法は、2002年6月16日に施行され、その公布を以って発効した。同日、2001年10月29日275条(連邦官報I 2785頁)により最終改正された1985年12月6日発効の海難事故調査法(連邦官報I 2146頁)は失効した。
 本法は下記に拠る。
1. 2002年6月16日通達(連邦官報I 1815頁)
 
第一章
総則
第1条 本法の目的と適用範囲
(1)本法は、国際的に有効な調査規則を遵守して、損害や危険の原因となりうるインシデントを調査することにより、海上航行船舶に従事する者の安全をはじめとした航海の安全、及びその分野とは不可分の海洋環境保護の向上を目的とする。
(2)本法において損害や危険の原因となりうるインシデントとは、航海中に下記の結果を伴った船舶に関係があるものを指す;
1. 人命の喪失、行方不明者、あるいは重度の負傷者
2. 船舶の損失、推定損失、難破、座礁、放棄、あるいは衝突
3. 単数あるいは複数の船舶の損傷若しくはその他の物的損傷による海洋汚染
4. 人あるいは船舶への危険
5. 船舶、海上人工構造物、あるいは海上環境に甚大な被害が生じる危険
(3)本法は、全ての航海に適用される。ドイツ連邦共和国の海上航路に隣接する港における発着と停泊の航行過程にも適用される。
(4)本法は、軍用船舶のみが関係するインシデントの調査には適用されない。また、軍用船舶が関係し、主として軍事的利害関係に触れるインシデントの調査には、連邦交通・建設・住宅省と連邦国防省との間で合意した規則が適用される。
(5)第4項は、国家任務にある船舶にも、行政上の利害関係やそれを管轄する国家当局との関連において、適用される。
 
第2条 航海に関する国際的な調査規則
 本法の意味するところの航海に関する国際的な調査規則とは、付録A、Cに記した国内で適用される国際法の規則、及び付録B、Dに記した欧州共同体の法的手続を指す。
 
第3条 欧州共同体の法的手続に基づく行政当局の任務*)
 本法に基づく管轄の枠組みにおいて、その中に記された連邦当局はインシデントごとに、調査、編成、介入についての権限、任務、義務を持ち、加盟国あるいはそのインシデントを管轄するその国の行政当局に対して付録B、Dに記した各規則の留保や割り当てを行う。
*)この規定は、付録B、Dに記した共同体法の規則の実施を目的とする。
 
第二章
責任者を対象とした保安調査
第4条 第二章の具体的な適用範囲
 本章は、後述の航海責任者及びその者の組織上の処遇責任者らによる船舶の運航中に発
 
第5条 調査のための組織的措置
 ドイツ国旗を掲げる船舶の所有者は、以下の事項が確実に行われるようにしなければならない。
1. 船舶が第4条で規定されたインシデントに関連した場合、社内の船舶運行安全責任者に報告されること。
2. 第4条で規定されたインシデントが発生した際、記録容量を使い尽くしたために自動的に記録、保存されたデータが失われるのを防ぐために、航海記録装置付近にある適切な非常用設備を適時に操作するという指示を当該船舶の船長が誤解無く受けていること。
 2001年10月29日、法令289条(連邦官報I 2785頁)によって最終改正された1998年9月9日船舶安全法(Schiffssicherheitsgesetzes)(連邦官報I 2860頁)第9条は、船舶所有者について適用される。
 
第6条 企業の安全構想の調整
 第4条で規定されたインシデントは、船舶安全法及びそれに記された国際的な船舶安全規則、並びに2001年8月24日法令2条(連邦官報I 2276頁)によって最終改正された1998年9月18日船舶安全条例(Schiffssicherheitsverordnung)(連邦官報I 3013、3123頁)の国内に適用される版の定めにより、船舶安全記録法(Schiffssicherheftsgesetz)に基づく船舶の運航においては安全組織責任者の指示に従い、船舶の安全な運航を保証するための安全組織や海洋汚染防止についての企の構想を調査結果に応じて調整するため、直ちに分析・調査されなければならない。
 
第7条 船級協会の規則の改善
 ドイツ政府当局による安全証書の交付が1994年第57号欧州共同体指針で承認され、それに基づき船舶の検査を実施した船級協会の独自規則に基づく場合、船級協会は、船体、機関、電気設備、舵、制御装置、監視設備に関連する第4条に規定されたインシデントの発生を認知した後に、その独自規則の改正によって安全性の欠如を排除あるいは阻止することが可能となるかどうかを内部調査しなければならない。
 
第8条 船級協会への通知
 船舶安全法に基づき、船舶の航行安全のための組織の責任者は第4条において規定されたインシデント発生後直ちに、第7条に記した船級協会に対して船舶安全証書の発行に関連した技術的に重要な状況について通知しなければならない。
 
第三章
国際的及び国内の海上安全システムの安全文化のための公的調査
第一節
原則
第9条 第三章の目的と具体的な適用範囲
(1)本章は、国際的、国内的な海上安全システムの安全文化に関する損害や危険の原因となるインシデントの公的調査、並びにこれに関係する人物に関するデータの収集、処理、利用に適用される。
(2)本章における公的調査とは、もっぱら下記を目的とする。
1. 究明調査
a. インシデントの状況
b. インシデントの直接・間接の原因
c. 損害や危険が発生しやすい要素(海上安全システムの弱点を含む。)
2. 調査報告書並びに特に今後の損害や危険の原因となるインシデントを防止するための安全勧告の発行
3. 安全性向上を目的とした、海事協力の強化及び安全責任者間の安全協力関係の創設
 この公的調査は、個人の過失の帰責を目的とした事実の究明調査ではなく、また、過失、責任、請求権を確定するためのものでもない。しかしながら、原因の説明をさまたげるものではない。なぜなら、調査結果から、責められるべき行動や合法的責任を推し量ることができるからである。
 
第10条 第三章で規定される国際的調査規則
 付録A、Bにある国際海難調査規則は、本章の範囲内に該当する場合において適用される
 
第11条 第三章に基づく調査の実施についての決定
(1)いかなる水域においても、ドイツ国籍の船舶に甚大な損害を招くインシデントの場合は、付録A、Bに基づく国際海難調査規則中の国連海洋法条約第7章第94条に基づく調査を実施しなければならず、その場合は本章に基づく調査手続を実施しなければならない。
(2)本章に基づく調査手続は、それが公共の関心事であるかぎり、特に下記の何れかに該当する場合、実施しなければならない。
1. 実施の可能性も考慮して(特に現行規則の改正や航海設備の改良など)、海上の安全性向上に役立つ知見を得られる見込みがある場合。
2. 主要利害当事国が本章の趣旨にある調査を申請し、その調査が実施可能と見込まれる場合。
(3)調査の実施については、連邦官庁(本法第12条)の長、又はその者が遂行不可能な場合はその代理人が決定する。
 
第二節
組織
第12条 連邦海難事故調査局(Bundesstelle für Seeunfalluntersuchung)
(1)在ハンブルクの連邦上級海事審判所は、「連邦海難事故調査局」(連邦当局)に改称される。連邦当局は、本章に基づく公的調査に従事する。連邦交通・建設・住宅省が、連邦当局の構成を統制する。連邦当局は一名の長官によって統率され、その他には必要数の官吏、事務職員、労務職員によってなる。官吏とは、直接採用の国家公務員である。
(2)連邦当局はその任務を、利害が衝突する可能性がある全ての自然人及び法人から独立して機能的、組織的に遂行する。
(3)調査、調査報告書、安全勧告の着手の有無、内容、規模について、連邦当局は指示を受けない。同様に、連邦当局は出された指示に従わない。
(4)首席調査官、専門調査官及びその他の専門家は、連邦当局長官の指揮命令下に置かれる。連邦当局は委託調査官として適切な私人を活用することができ、当該私人は事例ごとに連邦当局の指示と専門的監督の下で、その補助機関として従事する。連邦当局は委託調査官によって実施される調査活動の規模や、それら調査官の権利と義務を本法の定めに基づいて決定する。委託調査官は連邦当局の資金から、国家公務員に適用される規則に基づく旅費の補償や連邦交通・建設・住宅省によって定められた費用補償を受ける。本文は、1998年8月26日の航空事故調査法(連邦官報I 2470頁)第23条との関連にある第15条の趣旨に基づき、連邦当局に属さない部門のメンバーにも適用される。
(5)連邦当局長官及び首席調査官は当該公職の他に俸給を受け取る公職、生業、職業に就いてはならない。また、営利企業や連邦及び州の立法機関の幹部、監査役、管理委員会に所属してはならず、報酬を得て司法以外の監査を行ってはならない。また、第2項に記した法人に所属する、その法人の代理をする、その法人に対して助言を行う、またその目的において監査役や専門家として就業することを禁ずる。
(6)連邦当局長官及び首席調査官は、海事分野における包括的な技術的及び運営面の知識と経験を駆使し、広範囲にわたる事故調査の指揮が執れるよう十分な教育を受けていなければならない。
 
第13条 官庁間の援助及び職務援助
(1)特に経済的あるいは技術的理由から適切であると見られる場合、連邦当局は航空事故調査を担う連邦官庁と協力して活動する。
(2)連邦当局は、船舶安全当局として特に海事専門家協会(Die See Berufsgenossenschaft)を、また、連邦海運水路局(Das Bundesamt für Seeschifffahrt und Hydrographie)、北部・北西部水路・船舶管理局(Die Wasser- und Schifffahrtsdirektionen Nord und Nordwest)に支援を要請することができる。但し、調査対象のインシデントがその具体的状況から、それらの機関や職員、その管轄区域の水路・船舶管理当局(Wasser- und Schifffahrtsverwaltung)の職員の行動が一因となっている場合はその限りではない。
(3)連邦当局はその任務を遂行するために、連邦州の官庁との間に特定の個別事例における機関借用協定(Bundesländer Vereinbarungen über Organleihe)を結んだり、物的証拠や調査結果の協力について取り決めをしたり、その他適切と思われる方法で協力することができる。それらの協定は交通官報で公表しなければならない。
(4)連邦当局は、第3節の定めにより、外国当局による調査への参加、外国の管轄官庁への支援の要請、また、外国の管轄官庁からの支援要請の承諾、そして当該目的遂行のために外国の管轄官庁と直接の協力活動をすることができる。
(5)連邦交通・建設・住宅省は、国際海上安全システムにおける協力のために必要と思われる場合は、可能性に応じて、本章の趣旨において適用する調査手続について外国と追加協定を結ぶ。
(6)行政官庁間の協力におけるその他の規則や原則については、ここでは触れない。


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