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2002年1月3日法律第2002-3号
社会基盤及び交通体系の安全、海難事件(événement de mer: event of sea)、陸上又は航空輸送における事故・インシデント(d'un accident ou d'un incident de transport terrestre ou aérien: accident or incident of surface or air transport)の技術的調査(enquêtes techniques: technical investigation)、並びに天然ガス、炭化水素及び化学製品の地下貯蔵に関する法律
 
第3章
海難事件、陸上又は航空輸送における事故又はインシデント発生時の技術的調査
 
第14条
I. 海難事件、陸上輸送事故又はインシデントが発生した場合、運輸担当大臣は、将来の事故・インシデントの再発防止を唯一の目的とした技術的調査の実施を決定できる。必要があればこれとは別に司法調査を実施し、海難事件、陸上輸送事故・インシデントの発生状況や原因の特定又は推定、あるいは必要があれば安全勧告の発令を目的とし、有益な情報の収集及び分析を行う。
II. 海難事件に関する技術的調査については、民間のフランス船籍の船舶の場合は事件の発生場所を問わず実施するが、外国籍船舶については、海難事件の発生場所がフランスの内水域あるいは領海内の場合に実施できるものとする。また、海難事件によりフランス人が死亡、あるいは重大な障害を被った場合、海難事件がフランスの領土、環境、若しくはフランスが管轄権を有する施設や土木建造物に重大な損害を引き起こした、あるいは今後引き起こす恐れがある場合にも技術的調査を実施することができるものとする。なお、技術的調査の実施にあたっては国際海事法(règles du droit maritime international: International Maritime Law)を遵守する。
 陸上輸送事故・インシデントに関する技術的調査については、フランス領土内で発生したものに関しては、鉄道輸送、あるいは道路輸送、河川輸送などの交通システムを対象に実施することができる。
III. 技術的調査は専門常任機関(un organisme permanent spécialisé: a specialized permanent organization)が遂行し、同機関は監督機関及び検査機関の職員に支援を求めたり、あるいは必要に応じて運輸担当大臣に調査委員会(une commission d'enquête: board of inquiry)の設置を要請することができる。
 調査にあたっては、調査機関及び調査官は完全に独立性を保持して行動し、その任務と利害が対立する恐れのある権力機関や組織の命令を受けたり、指示を仰いではならない。
 調査官の職務内容や調査委員会の委員の任命に関する条件は、国務院令(Un décret en Conseil d'Etat: A decree in Council of State)により定める。また、調査を円滑に遂行する上で外国の技術調査官の支援が必要な場合、フランス領土内での、あるいはフランス船籍の船舶での捜査に関する当該担当官の参加条件や手続についても同令において定める。
 
第15条
 技術調査官(enquêteurs techniques: technical investigator)は確認作業を有益に遂行するため、速やかに海難事件又は陸上輸送の事故・インシデントの現場に立ち入ることができる。海難事件又は陸上輸送事故が発生した場合、技術調査官は、共和国検事(procureur de la République)、場合により商船懲戒法・刑法(code disciplinaire et pénal de la marine marchande: the disciplinary code and penal f the merchant marine)第86条に定める調査を担当する海事行政官(l'administrateur des affaires maritimes: administrator of maritime affir)に対して、現場活動に関する通知を事前に行わなければならない。技術調査官は、必要な場合、状況証拠の保存に必要なあらゆる措置を講じることができる。
 
第16条
 技術調査官は海難事件、陸上輸送の事故・インシデントの原因や状況の把握に有益な情報を記録した機器類の内容を直ちに利用できるものとするが、その際には以下の条件にしたがう。
1)法的な調査又は情報収集を実施する場合、技術調査官は、刑事訴訟法第97条及び第163条に定める方法にしたがって司法当局が予め押収した記録機器について、その利用請求ができるものとし、司法警察官の監視の下、当該機器に記録された情報をコピーすることができる。
2)法的な調査又は情報収集を実施していない場合、技術的調査の担当官は、司法警察官の立会いの下、記録機器を差押え、その記録内容を利用できる。司法警察官に対する協力要請は、海難事件、陸上輸送事故の場合のいずれも共和国検事を介して行う。
 
第17条
 法的な調査又は情報収集が実施されなかった場合、技術調査官は、司法警察官の立会いの下、検査又は分析を目的として、海難事件や、陸上輸送事故・インシデントの状況や原因の特定に役立つと思われる残骸、流体、部品、主要部、装置、機械などを押収できる。司法警察官に対する協力要請は共和国検事を介して行う。
 技術調査官が差押えた物品及び書類について、海難事件や、陸上輸送事故・インシデントの状況や原因の特定にあたって保存の必要がなくなった場合はただちに返却する。調査の一環として行われた差押え行為、あるいは検査又は分析により、これら物品や書類の劣化、破損があった場合、一切賠償を求めることはできないものとする。
 
第18条
 法的な調査又は情報収集が実施される際、技術調査官は、共和国検事又は予審判事の合意があれば、海難事件や陸上輸送事故・インシデントの状況や原因の特定に役立つと判断した残骸、流体、部品、主要部、装置、機械などを、検査又は分析を目的として、差し押さえることができる。
 技術調査官は、司法当局の合意なく、差押えの対象となる残骸、流体、部品、主要部、装置、機械などの変形、劣化、破壊の恐れがある検査又は分析をしてはならない。
 技術調査官は管轄の司法当局の主導で行われる鑑定作業の情報を与えられる。技術調査官は技術的調査を遂行する上で必要な場合、鑑定作業に立会い、この鑑定結果を利用する権利を有する。
 
第19条
 技術調査官は関係者のいずれにも接触することができる。当該調査官は、海難事件や、陸上輸送事故・インシデントに関係する状況、組織、機器に関する情報や書類、特に事故を起こした輸送媒体の製造、認証、保守、運営、貨物梱包、運転、検査などに関するあらゆる情報や書類を入手することができるものとし、当該関係者は職業上の守秘義務を理由に、これらの提出を拒むことはできない。
 また、前段と同様の条件で、技術調査官は、研修、認証、操縦者としての適性、輸送媒体の点検などに関係するあらゆる個人情報や書類の提出を求めることができる。しかし、医療情報については、国務院令が定める条件にしたがい、常任機関附属医師又は技術的調査にあたり特別に指名された医師にのみ伝達する。
 調査や予審上の秘密が課せられる情報又は書類についても、共和国検事の了承がある場合には技術調査官に報告することができる。司法当局の封印書類については、技術的調査のみを目的にコピーをとるものとする。
 
第20条
 常任機関附属医師又は技術的調査にあたり特別に指名された医師は、海難事件や、陸上輸送事故・インシデントに関係した交通媒体の操縦者、また場合により監視者の診察や検査の結果のほか、被害者に関する法医学鑑定書の提出を求めることができる。
 
第21条
 司法手続開始後、技術的調査報告書の写しを共和国検事に提出しなければならない。
 
第22条
I. 調査官や、場合により支援を依頼された専門家は、刑法第226-13条に定める条件にしたがい、職務上の秘密を守らねばならず、これに反した場合は同法に則り処罰が科せられる。
II. 第I項の規定の例外として、常任機関の責任者は、海難事件や、陸上輸送事故・インシデントを防止しうると判断した場合、技術的調査により得た情報を、保安担当行政当局(administratives chargées de la sécurité: administrative in charge of safety)、インフラ、輸送用機器、部品などの製造や保守の会社の責任者、あるいはインフラ又は輸送用機器の営業や、研修を行う法人又は個人に伝達する権限を有する。
 同様の目的で、常任機関責任者、場合により各調査委員会の委員長は、その職務上の権限として、調査官によりもたらされた技術上の情報や、技術的調査の進捗状況、また場合により暫定的結論などを公表することができる。
 
第23条
 調査期間中であっても、海難事件や、陸上輸送事故・インシデントの防止上、緊急性があると判断した場合、常任機関は安全勧告を発することができる。
 常任機関は、技術的調査の終了時、事故の種類や規模に応じた報告書を公開する。ただし、同報告書に個人名は記さないものとする。同報告書では、事故又はインシデントの状況及び原因の特定、及び安全勧告の理解にあたって必要な技術調査に関する情報のみを記載する。
 技術調査官は、前段の報告書の提出前に、聴取内容について守秘義務上の問題に支障がないかどうかについて、聴取対象となった関連当局、企業、職員の意見を聞くことができる。
 
第24条
I. 技術調査官の業務を妨げるような以下の行為があった場合、1年間の禁固刑並びに15,000ユーロの罰金が科せられる。
1)技術調査官の職務遂行を妨げた場合。
2)有益な物品、情報、書類などを、劣化させたり、隠匿、消滅させるなどし、提出を拒んだ場合。
II. Iに定める違反がある場合、法人に対しても刑法第121条−2に定める条件にしたがい刑事責任を宣告することがある。
 法人に対する刑罰は以下の通りである。
1)刑法第131条−38に定める方法による罰金。
2)同法第131条−39に記す刑事罰。
 同法第131条−39−2に記す営業禁止措置の開始時期は、現行営業年度、又は違反行為が行われた年度より起算する。
 
第25条
 以下各自治体に帰属する権限を損なうことなく、海難事件に係る本法律第3章の規定をマイヨット、海外領土、ニューカレドニアにおいて適用する。
 
第26条(略)
 
第27条
 関係大臣の答申を受けるなどして制定された法務大臣令(arrêté du ministre de la justice: decree of the Minister for Justice)により、ある権力機関又は何らかの組織が権限を付与された場合、共和国検事又は予審判事(juge d'instruction: examining judge)の許可を得た上で、主に事故調査委員会への通達を目的として実施した科学・技術捜査や調査、あるいは被害者への補償を促すための継続中の司法手続の情報を知ることができる。その際、当該機関又は組織に属する者は、刑法第226条−13及び第226条−14の条件にしたがい、これら情報に関する職業上の秘密を守らなければならず、これに反する場合は同条の定めにしたがい罰せられる。
 
第28条
 民間航空法第L. 721条−6を下記のとおり定める。
 「第L. 721条−6−常任機関附属医師又は技術的調査にあたり特別に指名された医師は、事故又はインシデントを起こした飛行機の操縦、連絡、監視業務を担当した者の診察や検査結果、及び被害者に関する法医学監査報告書の提出を要請することができる。」
 
第29条
 民間航空法第L. 711条−3の最終項に以下の文言の文章を追加する。
 「また、調査の円滑な遂行上、外国の技術的調査の担当者の支援が必要な場合、フランス領土での捜査に関する当該担当者の参加許可条件や手続についても国務院令において定める。」
 本法律を国の法律として施行する。
 2002年1月3日、パリにて作成。
 共和国大統領
 ジャック・シラク(Jacques Chirac)
(以下略)


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