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4 復興の日
 関係者の闘牛復興への熱意は、闘牛場復旧費の県費補助という形となり、その後日本財団のイベント開催経費支援が決定した。全国闘牛サミット協議会からは、復興を祝う「のぼり旗」が届けられた。5月、白山仮設闘牛場建設が開始された。同じく5月31日、取組み審議会が開催され、小千谷の牛の角突きの威信を賭けた全13試合が決まった。いろいろな議論があったが、小千谷は旧山古志より開催を1ケ月遅らせることとしたのである。これは、牛たちの健康を第一に考え、最良の体調で本当に醍醐味のある角突きを観衆に見てもらいたいという気持ちであり、牛を家族のように愛する男たちの愛の現れであった。雪解け後、開催に向けて体調維持に努めていた牛たちは、春の青草を食べるごとに毛ヅヤもよくなっていった。6月5日、ついに角突きの日がやってきた。小千谷闘牛振興協議会の手により、本部受付テント等が設営され、除々に会場が出来上がっていった。いつもの闘牛と同じように出店が並びこの日を心待ちにしていたファンが集まり始めた。仮設とはいえ、前年までの賑わいが戻りつつあった。果たして、お客さんは来てくれるだろうか。試合開始を待つ勢子たちの姿には、笑顔の中にも並々ならぬ緊張の表情が見受けられた。例年、初場所は持ち牛が無事に突くかどうか分からず、特に今回は期待とともに不安も大きい。いよいよ開始時刻の13時、約1800人の観衆の前で歴史的な瞬間が始まった。勢子たちが場内に入場し、入場門の近くでグルリと円形に集合し、前半戦の取組みを読み上げた。読み上げる度に勢子たちが拍手し、取組みが正式に確定していく。おぢやに牛の角突きの復興が訪れた記念すべき瞬間であった。牛の体調はすこぶる万全。第1回目から結びの一番まで全てが見所のある闘いであり、人も牛も気力が充実しきった素晴らしい大会となった。牛たちも心配はどこ吹く風に、しっかりと稽古を積んだ事が功を奏し、むしろ牛たちが「復活」を喜んでいるようだった。勢子たちの勇敢さと一糸乱れぬ呼吸の良さも目立ち、多くの観衆に華のある姿を見せつけた。越後闘牛の粋・・・そしてお客さんの笑顔、もっとも過酷な被災地に残る伝統文化が小千谷市民の元気付けの源になっていった。笑顔で会場を後にするお客さんと、整列してお客さんを送りだす勢子たちの姿。「ありがとうございました。」と小千谷闘牛振興協議会は、感謝の気持ちをこめて見送った。
 
【6月5日 復興闘牛の取組み】 開始 午後13時
順番 西
紅丸 1 六右エ門 2
幸虎(2) 2 良虎(4)
牛太郎 3 平幸黒富士
忠吉 4 丸坂
良虎(1) 5 繁蔵
清松 6
三代小金石 7 六右エ門 1
清号 8 忠左エ門
善五郎 9 大吉号
丑蔵 10 順ノ下
又甚 11 平野屋
小杉 12 亀蔵龍進
藤七 13 大和屋
 
5 二年ぶりの千秋楽
 6月5日以来、平成17年度の牛の角突きは、7月3日、8月20日、9月11日、10月2日、11月6日と回を重ねた。過去の小千谷の牛の角突きは、5月を初回とし、おぢや祭りへの協賛等の行事への参加、さまざまなイベントへの出張闘牛等の努力により、協議会の運営を行ってきた。本来、5月場所に入込み客が多く、11月場所が次いで多いのだが、震災発生後の11月と翌5月の闘牛が開催できないことにより、運営が苦しくなっていった。協議会は早期に復興シンボルとなる「闘牛バッヂ」の作成販売をはじめ、出張闘牛への参加等、会としての運営資金確保に努めていった。震災から数ケ月・・・地元小中学生の地域を知るための総合学習で牛の角突きが取り上げられたり、TV局が入ったり、支援は形を変え、復興の一助として展開されはじめた。復興闘牛は地域復興のシンボルとなり、推進力の一助になったことは否定できない事実であるし、おぢやの観光誘客の推進力になっていった。昨年実施できなかった11月場所。そして昨年見ることが出来なかった紅葉、周囲の山々は最高に色づいていた。伝統の越後闘牛の存亡の危機がありながら、熱き心は折れずに闘牛の復活となった。それまでの場所はそれぞれに名勝負を生んだが、最終回は特に素晴らしい闘いが展開された。平成17年度最終の取組みは、「又甚号」と「竹沢号」。歴戦に裏打ちされた貫禄の角突きは、最後の千秋楽を飾るに相応しい一戦となった。越後闘牛の伝統は守られた。人と牛、外部の暖かい支援とが融合した復興物語は永遠に語り継がれることだろう。
 
仮設闘牛場(本部付近)
 
6/5 闘牛入場
 
6/5 第1回 大会開始前
 
6/5 仮設闘牛場内写真
 
6/5 第1回 勢子取組み読み上げ風景
 
6/5 仮設闘牛場内写真
 
6 おわりに
 東山地区は、いまだに家屋の再建、田畑の整備、錦鯉の池の復旧等大きな課題を残している。復興への道のりは着実に前進しているものの長く険しい。全国の中山間地は過疎化が進行している。この越後闘牛の里は若き勢子たちやそれを見守る先達たちによって守りぬかれていく。あふれる万感の思いで、角突きを復活させ、あたかも震災など無かったかのような素晴らしい笑顔で、人々を感動させる角突きを繰り広げた郷土の人々を誇りに思いたい。
 小千谷闘牛場の災害復旧工事も今年中に終わる。復活なった荘厳な小栗山の闘牛場内で、ひと味もふた味も違う素晴らしい闘牛を多くの人に見てもらうこととなる。その日は間違いなくやってくる。そして、山々に本当の復興闘牛の歓喜の声がこだまする。その日、角突きが再び皆んなに勇気と笑顔を与えることだろう。どんなに時間がかかろうとも、闘牛の里は復興に向かっていく。そして、復興の過程でこの素晴らしい伝統文化に触れた人々との多くのつながりが、新たな「おぢやの牛の角突き」の歴史を刻むことだろう。
 復興闘牛に際し、暖かく見守って支援していただいた関係各位に深甚なる謝意を申し上げ、平成17年度「山古志・小千谷における二十村郷闘牛の復興」小千谷編のまとめとしたい。


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