日本財団 図書館


自閉症とアスペルガー障害の経過
乳幼児期 就学前 学童期 思春期 成人期
アスペルガー障害 知的には正常
言語面は通常?
情緒的相互性の欠如
特定の物への興味
学力は普通以上
(高校・大学へ進学)
友人関係の困難
特別な興味・能力
いわゆる「おたく」
不適応による精神病様状
(被害関係念慮・気分障害)
協調性の欠如
社会性の欠如
特殊な才能
高機能自閉症 知的には正常
意思疎通可能な言語
情緒の未熟性
特定の物への興味
通常教育可能
(高校・大学へ進学)
論理的思考の困難
友人関係の困難
(無視・いじめ)
瞬間想起現象(記憶力)
不適応による精神病様状
(被害関係念慮・気分障害)
社会的自立に困難
(対人関係の障害)
要求水準と現実能力
中機能自閉症 軽度精神遅滞
やりとり可能な言語
極端な過敏性
呼名回避
視線回避
心身障害児教育が多い
部分的に突出した知能
認知構造・情緒処理過程の障害
不適応に基づく心身症・神経症様症状(時に医療が必要)
社会生活に援助必要
要求水準と現実能力
一部は知的障害施設
低機能自閉症 中・重度精神遅滞
言語ほとんどなし
 
「人見知りの欠如」・常同反復行動
多動・横目遣い・過敏性・集団参加困難
養護学級教育が多い
時に強度行動の障害の出現
(激しい「こだわり」・自傷・「パニック」)
(時に医療が必要)
性的問題(自慰行為・一方的興味)
精神遅滞が前面
 
社会生活困難
知的障害施設
(入所・通所・GH)
 
精神科薬物治療の現状
1 薬物治療は治療体系の一部
2 診断は操作的診断基準
3 多くは生物学的背景が分かっていない
4 症候群の可能性がある
5 目標症状の選定
 
薬物治療の特徴
1 治療導入の容易さ
2 効果の個人差の存在
3 コンプライアンスの存在
4 薬物治療への意識の違い
 
小児精神科薬物治療の現在
1 疾患により、薬物治療の意味は異なる
対症療法、他の治療法との相乗効果など
2 ほとんどの薬物は成人の向精神薬を援用
3 小児用の薬物として認められているものはほとんどない
「15才未満についての知見はない」
4 医師の責任のもとに投与されている
5 小児精神科薬物の治験は難しい
 
薬物の種類(向精神薬全般)
・抗精神病薬
・気分安定薬
・抗うつ薬
・抗不安薬
・抗てんかん薬
・中枢刺激薬
・脳代謝改善薬
・その他
 
抗精神病薬
*本来は統合失調症の興奮や幻覚・妄想に使用
*副作用に注意する必要がある
・フェノチアジン系
クロルプロマジン、レボメプロマジン、プロペリシアジン、チオリダジンなど
・フェノチアジン系
ハロペリドール、ピモジド、ブロムペリドールなど
・ベンズアミド系
スルピリド、スルトピリドなど
・非定型
リスペリドン、クエチアピン、オランザピンなど
 
主な非定型薬
一般名 製品名 特徴・働き
リスペリドン リスパダール わが国初の非定型
ドーパミン、セロトニン系遮断
ペロスピロン ルーラン パーキンソン症状が少ない
ドーパミン、セロトニン系遮断
クエチアピン セロクエル 陽性・陰性症状にも効果あり
オランザピン ジブレキサ 陽性症状にも効果がある
アリビプラゾール アビリファイ これから国内で発売
心と脳の関係(融 道男著)より
 
抗精神病薬と錐体外路系の副作用
症状 副作用の内容
急性 パーキンソン症状 体の硬直、無表情、手指の振戦、前屈、小股歩行など
ジストニア 筋肉の異常緊張、斜頚、舌突出など
アカシジア 静坐不能、ムズムズ感
遅発性 ジスキネジア 口をモグモグ、舌突出など(高頻度、無痛)
ジストニア
*ピサ症候群
筋攣縮など(低頻度、痛み)
*脳の線条体のドーパミン伝達異常(受容体の感受性亢進)
*非定型抗精神病薬への切り替え
*抗パーキンソン病薬の併用
 
気分安定薬
*もとは抗てんかん薬が多い
・カルバマゼピン、バルプロ酸ナトリウム、
*抗躁薬も効果がある
・炭酸リチウム
*血中濃度を測定できる薬剤が多い
 
抗躁薬と種類
一般名 製品名 特徴 副作用
炭酸リチウム リーマス 優れた抗躁作用
再発予防効果
効果発現が緩徐
リチウム中毒(高熱、粗大振戦、筋肉攣縮)
血中濃度測定
カルバマザピン テグレトール 優れた抗躁作用 皮疹、めまい、貧血など
バルプロ酸 デパケン
バレリン
炭酸リチウムに追加して使用 食欲低下、嘔吐など
*抗躁作用と抗うつ作用
心と脳の関係(融 道男著)より
 
抗うつ薬
*本来はうつ病の治療に使われる。
*抗うつ薬はこだわりにも効果がある。
*てんかん閾値を下げる可能性がある。
・イミプラミン、トラゾドン、フルボキサミン、パロキセチン、ミルナシプランなど
 
4種類の抗うつ薬
第一世代 1960年代より 三環系抗うつ薬
第二世代 1980年代より 四環系抗うつ薬
第三世代 1999年登場 SSRI(セロトニン再取り込み阻害薬)
第四世代 2000年登場 SNRI(セロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬)
心と脳の関係(融 道男著)より
 
第3世代、第4世代の抗うつ薬
一般名 製品名 特徴
SSRI フルボキサミン ルボックス
デプロメール
うつ病以外の症状(強迫症状など)にも効果がある
吐き気などの副作用
薬の併用に注意
パロキセチン パキシル
SNRI ミルナシプラン トレドミン 効き目が出やすい
副作用が少ない
心と脳の関係(融 道男著)より
 
SSRI/SNRIと小児のうつ病
パロキセチン:
(英国);うつ病(18才未満)で、自傷、自殺の危険性
→禁忌→慎重投与
理由:(1)EBMに欠ける、(2)他の抗うつ薬も同様の傾向、(3)成人でも同様
(米国);英国に追随→禁忌→慎重投与
(日本);他国に追随→禁忌(18歳未満の大うつ病)→?
フルボキサミン他:
(英国);18才未満のうつ病には慎重投与
(米国);同上
(日本);同上
 
抗不安薬
*二次的な不安に対して使用
*副作用は比較的少ない
・アルプラゾラム、エチゾラム、ブロマゼパム、ジアゼパム他
 
抗不安薬の種類
作用分類 特徴 一般名 製品名
短期 短時間で発現 エチゾラム、フルタゾラム、クロチアゼパム デパス、コレミナール、リーゼ
中期 効果は持続 ロラゼパム、アルプロゾラム、ブロマゼパム ワイパックス、ソラナックス、レキソタン
長期 1日以上持続 ジアゼパム、クロルアゼポキシド、メダゼパム セルシン、コントール、レスミット
超長期 3日以上持続 ロフラゼブ酸エチル メイラックス
*抗不安作用、鎮静作用、筋弛緩作用、就眠作用
心と脳の関係(融 道男著)より
 
睡眠薬の種類(1)
バルビツール酸
GABAの増強→催眠・鎮静作用
*治療量と致死量が近い
(1)習慣性:徐々に増量の必要性
(2)精神依存:薬が切れると渇望
(3)身体依存:突然の中断で痙攣やせん妄
(4)併用薬の効果減弱:酵素誘導による代謝亢進
最近は・・・
てんかんに使用することはあるが不眠への使用は減少
 
睡眠薬の種類(2)
ベンゾジアゼピン系
抗不安薬のうち、睡眠作用の強いもの
脳内の抑制系神経伝達物質であるGABAが関係
GABA受容体に結合して、構造を調節し、GABAの作用を活性化する
*血中濃度の半減期により分類される
 
横軸は問題行動の軸であり薬物療法よりも治療教育的対応の意義が大きい。
縦軸は精神科的症状の軸で上にいくほど薬物療法が優先する。実際にはこの二つの軸を明確に分割するのは困難であり、「こだわり」などは両者が交じり合って出現していることが多い。
 
自閉症の薬物治療の実際
検索の手順 注意すべき点
診断と状態像の確定 言語・社会性などの発達の遅滞が問題なのか
多動・癇癪などの行動上の問題なのか
身体医学的検索
(EEG、CT、MRCTなど)
けいれん準備性有無(脳代謝賦活薬)
器質性疾患の有無
臨床心理学的検査 知能障害の有無とその程度
認知障害の様相とその度合い(行動療法の併用)
心理・環境的背景の探索 生活・教育環境の改善
標的症状の選択 客観的症状の選択と薬物使用前の評価
選択薬物の種類 抗精神病薬、脳代謝賦活薬、抗けいれん薬
睡眠薬、抗パ薬、食欲増進薬など
薬物使用の必要性の決断 本人、家人への必要事項説明
副作用の予測と予防 定期的臨床検査、抗パ薬の投与
過鎮静、眠気、体重増加の有無
投与量と投与法 剤型と服薬法の指導
投与者、投与回数、投与時間の指導
薬物療法開始後の管理 治療効果に関する、家人、教師からの情報
副作用の早期発見、薬物の変更
 
医療との連携の心得
・本人、家人の了解のもとで行う
・本人のためを第一に、お互いの活用資源を効率的に利用する
・それぞれの立場を尊重しあって連携する
・行き詰まった時こそ、他の機関と連携する
 
医療の利用の仕方
・医療への希望は具体的に行う
・抱える問題は、経時的かつ客観的に行う
・必要な情報は記録しておいてもらう
・必要なら、何回でも話し合う
・可能なこと、不可能なことを確認しておく
 
発達障害と医療
1)精神科医療
中心は“精神病”の治療
子どもの精神医療は少数
児童青年(小児)精神科
2)小児科医療
中心は“身体”の治療
発達障害に重点を置く小児医療は少数
小児神経科
成人に達しても、診療を続けることが多い
 
児童青年精神科からみる問題点
1)大学医学部に標榜する講座がない
大学で育てる場が限られている
(名大、横浜市大、信州大、神戸大、千葉大など)
2)児童青年精神科医療施設での治療
全国児童青年精神科医療施設協議会が中心
(国、都道府県、市町村立がほとんど)
専門医の絶対数の不足
経済的裏づけが得にくい
 
医療経済面からの問題点
マンパワー、多職種の必要性
1 医療保険制度に十分には反映されていない
手間と時間が必要
精神科:加算(入院・外来)
小児科:療養型
2 民間医療機関がかかわりにくい
経済的裏づけの不足
 
発達障害を対象とする医療機関の現状
外来:
“発達障害の治療”を掲げる医療機関の増加
東京では二十数か所?(この数年で増加)
精神科医師に加え、小児科医師も参加
療育も行なう医療機関も数箇所
入院:
子どもの精神科専門病床は800〜900床?
成人の病床は?
国公立精神医療機関?(施設化)
 
入院治療の必要性
短期の入院治療が大前提
1)行動上の問題を対象
不眠、自傷、他傷、極端なこだわり、拒食など
精神科病床が担当
2)合併症の治療
症状の訴え、治療への理解が得られるか
合併症病棟が担当だが限定される
精神科病床で他科治療が出来ないか
 
発達障害の治療(対応)
1)これまでの対応.
福祉:強度行動障害への対応
医療:極めて限られた医療機関での対応
2)発達障害者支援法以降の期待
専門医療機関の設置(短期医療の充実)
専門医師の増加
 
ノーマリゼーションと医療
発達障害があってもなくても同等の医療を!
そのためには:
専門医の増加を
経済的裏づけを
各分野の連携を
障害関係者はもっと声を!


前ページ 目次へ 次ページ





日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION