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II-3 MSC LRIT 中間ワーキンググループ結果概要
1 会場及び日時
英国ロンドン、国際海事機関(IMO)本部
平成17年10月17日(月)〜19日(水)
 
2 結果概要
 今次会合においては、LRITシステム導入のため、来年5月の海上安全委員会第81回会合(MSC81)におけるSOLAS条約の改正案の採択を目指し、条約改正案の策定作業が行われたが、沿岸国がLRIT情報を入手しうる範囲について合意が得られず、沿岸国の情報入手権限を除いて、旗国及び寄港国の情報入手権限のみによる条約改正案が策定された。
 なお、LRITシステムの構造、LRIT情報を集配するLRITデータセンター、システムの監督、コスト負担方法等の残された重要な論点については条約案には盛り込まれず、来年3月に開催される予定の無線通信・捜索救助小委員会中間会合(COMSAR中間会合)等において議論されることとされている。
 今次会合における主な論点に関する結果は次のとおり。
(1)SOLAS条約の改正すべき章
 改正すべき章については、条約改正案の中身について議論がなされた後、最後に検討が行われ、カナダのみがセキュリティ目的の観点からSOLAS条約XI-2章の改正を主張したが、EU各国等が、安全・環境への目的拡大を念頭に置いて第V章の改正を主張し、米国も第V章での改正を受け入れたため、カナダも妥協し、第V章による改正が合意された。
(2)沿岸国としてLRIT情報を入手することができる範囲
 沿岸国がLRIT情報を入手できる距離として、当初、カナダ及び豪州が2000海里、EUの多数国が400海里(旗国の拒否権(自国船の情報を入手させない沿岸国を指定する権利)なし)及び1200海里(旗国の拒否権あり)の2段階案、我が国が最低500海里(旗国の拒否権あり)、中国、ロシア、イラン及びブラジルが最大200海里(旗国の拒否権なし)を主張した。
 各国間で調整が図られた結果、英国より1200海里単一案(旗国の拒否権あり)が提案され、EUの多数国、米国、カナダ、豪州、日本がこれを妥協案として支持した。一方、中国、ブラジル及びチリより、200海里案(旗国の同意権(200海里以遠について、旗国が同意した沿岸国に対してのみ本権限を適用)あり)が提案され、ロシアはこれを支持した。なお、ギリシャは、英国案は国連海洋法条約に反するとして、その立場を留保した。
 更に議論の結果、両案の主張に妥協が見られなかったことから、沿岸国の権利については、条約改正案には盛り込まれず、本件については、引き続き検討すべきこととされた。
 なお、ノルウェーは沿岸国の情報入手権の導入に向けた検討の必要性を強く主張した。これに関し、英国は沿岸国の情報入手権を含めた条約改正案を別途MSC81に提出する意向を示しており、本件を再度MSC81において検討する可能性は残されている。
(3)寄港国としてLRIT情報を入手することができる範囲
 寄港国は、自国に入港する船舶のLRIT情報を入手する範囲を沿岸からの距離又は入港までの時間で定め、IMOに通報すべきことが合意され、条約改正案に盛り込まれた。
(4)寄港国のLRIT情報を入手し得る範囲に領海・内水を含めるか否か
 寄港国が他国の内水からLRIT情報をとれなくすることについて合意され、条約改正案に盛り込まれた。
 一方、領海について、寄港国は他国の領海からもLRIT情報をとれることとすべき旨、米国、英国、カナダ、ノルウェー、イタリア、オランダ、日本等多数の国が主張し、条約改正案に盛り込まれたが、中国、イラン、キプロス及びギリシャがこれに強く反対したため、反対意見があった旨WGの報告書に明記された。
(5)LRIT制度の適用船舶
 海上セキュリティを目的とするSOLAS条約XI-2章の適用船舶は、国際航海に従事する旅客船及び総トン数500トン以上の貨物船とされているが、ノルウェー等より、LRITのための設備は、SOLAS条約第4章において規定されているインマルサット等の既存の船上通信機器が使用される予定であり、LRIT関連規定の適用に当たっては、同章の適用船舶と同一とすべきとの提案がなされ合意された。この結果、適用対象船舶を、300トン以上の国際航海に従事する貨物船についても拡大する条約改正案が策定された。
(6)LRIT情報の拡大
 LRIT情報として目的港を追加することに関しては、我が国等の反対により、LRIT情報は船舶のID、位置及び時刻に限定する条約改正案が策定された。
(7)船上機器の型式承認
 改正すべき章が第5章とされたことに関連して、船上機器について、主管庁による型式承認を行うこととすべき旨が合意され、その旨条約改正案に盛り込まれた。
(8)その他
 ロシアは、LRIT情報の集配を行うデータセンターは、中央集約型ではなく、各国が単独で、又は共同してデータセンターを保有すべき旨主張した。
 
3 SOLAS条約改正案の概要
 今次会合において策定された条約改正案の概要は次のとおり。
■挿入箇所:SOLAS条約第5章(航行安全)第19-1規則
■目的:規定なし
■適用船舶:国際航海に従事する旅客船、300トン以上の貨物船及び移動海洋掘削装置
■施行期日:2008年1月1日
■提供情報:船舶のID、現在位置及び日時
■性能基準:システム及び機器の性能基準はIMOが策定。
 船上機器は型式承認の対象。
■対象範囲:(1)旗国政府:全世界の自国船舶
 (2)寄港国政府:自国に入港しようとする船舶
■通信費用:船舶の負担とせず、締約政府が負担。捜索救難は無料。
 
参考
LRITに関する検討経緯等
1. LRITの概要
 長距離船舶識別装置(以下「LRIT」という。)は、船舶に搭載されたGPSから得た位置情報を、衛星通信システム等を用いて締約国に提供することにより、遠洋航行中の船舶の動静把握を可能とするシステムである。
 
2. これまでの検討経緯
 2002年2月、海事保安強化のためのSOLAS条約改正等の検討を行う海上安全委員会(MSC)第1回中間ワーキンググループ会合において、米国より、長距離での船舶動静把握を可能とするため、長距離船舶識別システムの導入の検討が提案され、SOLAS締約国会議(02年12月)は、改正SOLAS条約の採択に併せて、締約国にLRIT導入のための検討等を求める決議を採択。
 その後、累次のIMO会合において、システムの機能要件、SOLAS条約改正案の検討が続けられており、米国は、MSC77(03年5月)以降、再三SOLAS条約改正案を提出し、システムの早期導入を求めてきたが、システムの設置目的、沿岸国政府が情報を取りうる範囲等について、各国の意見の隔たりが大きく、MSC80(05年5月)まで、その合意には至っていなかったもの。
 
3. 今後の予定
 今次会合(LRIT中間WG)においては政策的懸案事項を審議したが、来年3月の中間COMSAR会合及び第10回COMSAR会合において技術的懸案事項を検討し、次回MSC81(06年5月)での条約改正案の採択を目指すこととされている。


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