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(5)海上保安促進の措置(議題10関係)
(1)LRITシステムの構成
 ロシア及びIMSOから各国が運用する船舶監視システム(VMS)をLRITシステムに活用する構成の提案があったが、南アフリカより途上国では自国にVMSを持つことは困難との意見があった。これらを踏まえ検討を行った結果、各国のVMSを用いた各国LRITデータセンター、一定地域内の数カ国が共同で構築するVMSを用いた地域LRITデータセンター、各国及び地域LRITデータセンターを構築しない国が参加する国際LRITデータセンターの三種類のLRITデータセンターからなるシステム構成案が作成された。また、三種類のデータセンターは国際LRITデータ交換網(International LRIT Data Exchange)を通じて各データセンターの必要なLRIT情報を交換し、各国がLRIT情報を求める地理的範囲等のLRIT情報交換に必要な基礎情報はLRITデータ配信計画(LRIT Data Distribution Plan)として作成される構成案となった。
(2)船舶からのLRIT情報の報告頻度
 各国が独自にポーリングする場合のコストは、船舶からの自動的な定期通報に比ベコストが割高になる(定期通報を各国がコストシェアする方が安い)との統計が報告されたため、船舶からLRIT情報を報告する頻度が検討された。ノルウェー、カナダ、フランス、米国等多数の国は6時間に1回は報告が必要と主張する一方、我が国、ロシア、中国、ギリシア等はコストの増大が懸念されるため現時点で決めてしまうことは危険である旨主張したが、議長の判断によりLRITの性能基準及び機能要件案の規定は6時間に1回となった。なお、反対意見があったことは報告に明記することとなった。
(3)沿岸国のLRIT情報入手権限
 沿岸国のLRIT情報入手権限に関しては、委員会で議論すべき事項との認識のもと、今次会合では議論はなされなかった。
(4)寄港国のLRIT情報入手範囲
 条約改正案において、寄港国の情報入手範囲として各国は必要な沿岸からの距離又は入港までの時間を機関に報告することとなっているが、入港までの時間の場合、船舶の速度が不明であるため、LRITデータセンターが各国にLRIT情報を供給する指標として使用することが困難であるため、条約改正案の当該部分を再考することを委員会に求めることとした。
(5)捜索救助機関への課金
 捜索救助機関がLRIT情報を入手する場合、課金されないことが前提であるが、通常より高頻度でLRIT情報を要求する場合は課金すべきかどうかの検討が行われたところ、今次会合では結論は出さず、次回委員会に諮ることとなった。
(6)条約改正の施行時期
 委員会が条約改正の施行時期を検討するにあたり、LRITデータセンター及び国際LRITデータ交換の設立や試行を考慮する必要がある旨合意された。
(7)LRITタスクフォース
 LRITシステムを開発するにあたっていくつかの技術仕様書やより細かい技術要件の必要性について合意され、これらの技術仕様書の作成を目的としたLRITタスクフォースの設立をMSCに求めることとし、そのTOR案が作成された。
 技術仕様書は、MSC82(今年冬)で採択することを目標に作成される予定。
 
(6)旅客船の安全(議題11関係)
(1)海中にいる又は生存艇内にいる生存者の回収
 海中にいる生存者や生存艇にいる生存者を回収する「生存者回収装置」について、次の要件を含むSOLAS III/17-1案を作成した。
イ すべてのSOLAS船は、生存者回収装置を装備すること
ロ 3m有義波高又はその船舶が遭遇すると予測される有義波高の大きいほうにおいて、1時間に海中から10人の者を救助できること
ハ システムは意識を失っている人を回収できること
ニ 回収装置の個数は、当局がIMOの指針に従って決定すること。回収装置は現存の乗組員数内で運用できるものであること
 
(7)SART(レーダートランスポンダー)の性能基準の改正(議題12関係)
 我が国が提案した円偏波方式SARTの導入のための総会決議A.802(19)「レーダートランスポンダー(SART)の性能基準」は合意を得た。この改正案は海上安全委員会の承認を経て、第25回総会(2007年11月)で採択される予定である。
 なお、米国及びノルウェーが提案したAIS-SARTの導入にする総会決議A.802(19)の改正案にCOMSARは大筋合意し、付随的なSOLAS条約附属書第□章及び第□章の改正案を作成した。これらは次回会合COMSAR11(2007年2月開催)にて最終化し、海上安全委員会で承認される予定である。またA.802(19)の改正案は、我が国提案のSARTの改正案とともに、第25回総会にて採択される予定である。
 
(8)その他の議題(議題15関係)
(1)S-VDRに関するIEC規格
 IECよりS-VDRに関する規格の紹介があったところ、ICSよりIMOの基準より電源に関する要件が厳しくなっている旨の質問があったが、IECよりIEC規格はIMO基準を支持しており、コスト的にもそれほど影響はないとの回答があった。
(2)議長の選任
 現議長のアーバン・ホーボーグ(スウェーデン)氏が今期限りで転職するため、来年の小委員会の議長を辞任するとの意向が表明された。次回の議長は、次回会合冒頭に選挙する。
 
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II 各国・各海域における国際動向調査
II-1 オーストラリアにおけるREEFREPの運用に関する調査
1 調査揚所及び日時
(1)Maritime Safety Queensland(Queensland州政府の組織であるDepartment of Transportのひとつの機関、州都Brisbane市に本部が所在)
平成17年10月3日(月)14:00〜15:45
(2)REEFVTS Center(Queensland州Hay Point市に所在)
平成17年10月5日(水)10:00〜11:45
(3)Australian Maritime Safety Authority本部(首都Camberaに所在)
2 オーストラリア側(AMSA側)調査関係者
Mr. Gerry Brine, Manager of Navigation Safety
Mr. Neil Trainor, Manager of REEFVTS
Ms. Robin Newton, 0ffice Manager of REEFVTS 他
3 調査概要
(1)基本用語
 入手したパンフレット、聴取情報に基づき主要な用語の意味等は次のとおり。
(1)REEFREP
 トレース海峡及びグレート・バリア・リーフ海域を含むオーストラリア北東海域(長さ約1,300海里、海域面積約350,000平方キロメートル)における強制船位通報制度の通称。国際的にはIMOのMSC66において採択され、MSC78において改正されたもので、オーストラリア国内法ではNavigation Act 1912という法律及びこれに基づく規則(Marine Order)により定められている。
 次の船舶が強制船位通報制度の対象となっている。
・全長50メートル以上の全船舶
・油タンカー、液化ガスタンカー、化学物質輸送タンカー等
・全長150メートル以上の曳航船等
 年間約8000隻の上記対象船舶がこの海域を航行している。
 なお、これに違反した場合には個人に2,000豪州ドル又は法人に5,000豪州ドルの罰金が課せられる。
(2)REEFVTS
 The Great Barrier Reef and Torres Strait Vessel Traffic Serviceの略称。航行安全及び環境保護を目的として創設されたもので、Hay Pointにおけるセンター(REEFVTS)がREEFREP海域におけるVTSを行う唯一のセンター(オーストラリアには他に幾つかの港内VTSセンターがある。)で、1997年4月17日、Mackay近郊のHay Pointに設置。連邦政府機関であるAustralian Maritime Safety Authority(オーストラリア海上保安庁、以下「AMSA」という。)とQueensland州政府機関であるMaritime Safety Queensland(以下「MSQ」という。)が共同で管理している。
 なお、VTSセンターは航行船舶の把握、安全情報の提供、航行船へのアドバイス等を行うが停船命令等の強制権限は有しない。
(2)新たなREEFREPシステムと導入の契機、概要
(1)新たなシステム導入の契機
 2000年10月3日、The Great Barrier Reef海域内で発生したマレーシア籍コンテナ船Bunga Teratai Satu号座礁事故を契機として、この事故をオーストラリア政府が調査、分析を行い、早期のAIS陸上局整備、Inmarsatを利用した船位把握等を内容とした勧告が発出され、この勧告を基に2004年末を目途とした新システムの導入が図られた。
(2)システム導入に向けたプロセス
 2001年頃からAIS陸上局整備、船舶からの任意のInmarsat情報発信(オーストラリア船籍船等にAMSAが協力依頼)等を鋭意実施してきた。この結果、2004年には既に現在のシステムの試行的運用が開始され、大きな問題なく新たなシステムが運用開始されることとなった。
(3)新たなREEFREPシステム概要
 MSC78において通報をInmarsatにより行うこと等の改正が採択され、これを受けてNavigation Act 1912(法律)に基づき等オーストラリア国内関係法令(Marine Order 56)を改正し、2004年12月1日から施行されたもの。
 概要は次のとおり。
イ これまで行われていたVHFによる船位通報をInmarsat(InmarsatC, InmarsatD+)、AIS及びレーダーからの船位等情報並びに従前からのVHF通報により行われることとなった。この結果、REEFVTSセンターにおいて域内航行船舶の位置等が略継続して把握可能となった。
ロ REEFVTSセンター等の画面では、レーダー情報に基づく映像は□、AISに基づく映像は△、Inmarsat情報に基づく情報は△の下にアンダーラインが引かれ分類されており、優先順位をレーダー、AIS、Inmarsatの順に設定し、自動で切り替わるシステムとなっていた。
 なお、Inmarsatのポーリング間隔は15分であり、現在は、当面の措置として、REEFVTS側は船舶ID、位置(緯度・経度)、時間、船速及び進路の5つの情報を入手している。
ハ このシステムの導入により、船側はREEFREP海域入域2時間前通報、入域通報をInmarsat等により行う必要があるが、概ねのこれまでの船位通報ポイントでの通報が省略されることとなった。
ニ 新たなシステムにおけるVTSセンターへの通報は次のとおりであるが、通航中のルート変更等がない最小限の報告は、事前通報、入域通報及び出域通報のみとなる。
・事前通報→REEFREP海域への入域2時間前の通報、船舶ID、位置、入出域日時・場所等を通報
・入域通報→入域に関する情報
・位置通報→Inmarsat経由の位置通報でない場合、現在の日時・場所等を通報
・変更通報→航行計画の内容等の変更に関する通報
・最終通報→出域、域内入港に関する情報
ホ 事前通報等もInmarsatにより受け付け可能となっており、現状はInmarsatでの通報が殆んどであるとのこと。
ヘ Inmarsatによる通報料金は船舶側は無料、全てREEFVTS側(AMSA及びMSQ)の負担となっている。
(3)REEFVTSに関する聴取等の内容
(1)費用
・REEFVTSに関する年間の予算は、約5〜6百万豪州ドル(約4億円〜4.8億円)であるが、これには整備に関する費用も含まれる。人件費を除くランニングコストは概ね1.5百万豪州ドル(約1.2億円、全てが通報料ではないと思われる)。
・国(AMSA)と州(MSQ)の費用負担は契約により詳細に決定しており、REEFVTSに係るAISは国、港内VTSに係るAISは州で整備などとなっている。ランニングコストは概ね半々の負担である。
(2)Inmarsat通報料及び通報量
・船舶ID、位置(緯度・経度)、時間のみ→5豪州セント(約4円)
・上記の他に船速、進路を含めての場合→10豪州セント(約8円)
・1文字の通信→1豪州セント
(例)事前通報は所定の様式で概ね100文字である。つまり、事前通報をInmarsatで送信すると100豪州セント(1豪州ドル、約80円)の費用が必要(REEFVTS側で負担)
・現在の1日当たりのInmarsatによる通報回数は350回程度である。
(3)REEFVTSの人員及び勤務
・昼間は当直者2名と管理職1名の合計3名の勤務、夜間は当直者2名の勤務。なお、当直者はHay Point港のVTS当直も兼任。
・当直者の勤務は07:00及び19:00交代の12時間勤務
・職員はMSQの所属(州政府の所属)である。
・一人の当直者が監視する1日当たりの船舶数は50〜60隻程度
(4)新システム(Inmarsat、AIS等による継続監視)の効果
 通報の省略、無料化の他にVTS側における効果は次のとおり。
・以前、当直者は無線、ファックス対応に忙殺され、監視、アドバイス等に専心できなかったが、現在はこれが可能となった。
・略連続した船舶の動静監視を行っており、船舶が一定範囲を超えた位置に進出した場合、危険海域に接近する場合は警報が鳴り、これを受けて当直者がアドバイス等を実施することが可能となった。(そのアドバイス等の回数について質したところ)週数回程度である。
(5)Inmarsat、AIS等情報のVTS以外での利用
・位置情報等は永久保存され、統計データとして海難分析、船舶通航路設定、航路標識設置等として活用している。既に、一部の通航路の変更(以前は船位通報地点であった場所を変更)を行った。
・AUSREPとの相互情報交換により、AUSREP通報実施船への通報免除とともに、REEFREP情報の捜索救助における活用が期待される(実績不明)。
・Inmarsat、AIS等の位置情報、航行計画はパイロットサービスに活用されている。
・セキュリティ分野での活用は現在は活用されていない(Not yet)とのことであった。
(6)今後の予定
・トレス海峡〜ケインズに至る海域に7つのAIS陸上局の整備計画有り(整備完了目途は未定)。沿岸にAIS陸上局を網羅的に整備すればREEFREP海域は概ねカバーできるが、現状においてInmarsatにより位置情報等は入手可能(通信費用は発生)であり、費用対効果を勘案して整備を行う必要がある。
・REEFVTS海域における通報対象を漁船にも拡大することが検討されている。
・プレジャーボートに関してはクラスBのAISの普及状況を勘案し、検討する。
(7)AMIS計画とのリンク
 オーストラリアではAustralian Maritime Informatin Systemという情報集約、分析及び配信シ久テムを税関、軍、運輸省、AMSA等で検討している。これは統計情報、インテリジェンス情報、AIS情報等を集約して、秘匿又は非秘匿の情報に分け整理し、必要な者に情報を配信するシステムで数年での整備を企図しているようである。このシステムのひとつの重要なツールとしてREEFVTS情報が活用されることとなると思われる。


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