4・2 航海用レーダーの点検整備要領
航海用レーダーの整備は、これを備え付けている船舶の定期検査又は中間検査の時期に行い、その搭載船舶及び免許人の氏名又は名称が電波法に基づく免許状に記載されているとおりであること並びに「・外観点検」〜4・9・4について確認し、4・9・5の整備記録を作成する。本4・2節の点検整備要領から4・9節効力試験まで及び整備記録表(R-1)については、平成10年12月7日に改正された船舶設備規程に準拠しているが、平成11年1月1日現在、すでに改正前の船舶設備規程に準拠した航海用レーダーを装備している船舶の場合には、【 】に読み替え、アンダーライン部分は適用しない。
・外観点検
(a)構成品の点検
空中線部、送受信部、表示器及び電源部の構成品、マグネトロン等の予備品、操作説明書並びに保守のための資料が完全な状態で揃っているかを点検する。
(b)表示等の点検
イ. 航海用レーダーの各構成品の
(1)名称、型式、型式承認番号、製造年月、製造番号、製造者名、検定印又は証印
(2)操舵室に装備する機器にあっては磁気コンパスに対する最小安全距離の表示が適切なものであり、かつ、見やすい箇所になされ、かすれて見えにくくなっていないかを点検する。
ロ. 他の設備からの電磁的干渉によりその機能に障害が生じることを防止するための措置が講じられていることを確認する。
ハ. マグネトロン等の特殊管の使用時間に余裕のあることを確認すること。
ニ. テストメーターその他の性能表示装置の指示値に異常がないことを確認すること。テストメーターなどの指示値及びその他のチェックポイントの計測値を計測し、これらの指示値及び計測値が説明書のとおりであることを確認する。
また、これらの指示値及び計測値を、レーダー日誌に記録してもらうこと。
新設時には後記の定期点検の内容のほかに、空中線部の設置場所についても以下の点検を行う。
空中線部の設置状態は装備設計によって決まってしまうので最良の位置に設置されているはずであるが、もし、装備された後に次のような不都合を認めた場合には、船主や造船所に報告してその対策を協議すること。
(1)船体のマストやデリック、煙突などがレーダーのふく射ビームの障害となって、二次反射や陰を生じている場合。
(2)船体のキールライン上に取り付けられていない場合。測定用コンパスからかなり離れた位置に設置されている場合。
(3)煙突や排気口からの煙やじんあいなどのかかりやすい位置に設置されている場合。
(4)他の通信用や航海用の無線機器(インマル、GPS、VHF無線電話、無線方位測定器、ロラン等)の空中線が接近している場合。
(5)レーダーの空中線部、送受信部、表示部のそれぞれが極端に遠く離れて配置されている場合。
(6)安全についての配慮がなく、点検整備作業が行いにくい場合。
(7)船体振動のため、各ユニットの振動が激しい場合。
(8)レーダーの空中線に信号旗用のロープなどが巻き付くおそれがある場合。
(9)空中線部の取付けが水平面に対して傾斜している。また、ケーブルの貫通金物(以下グランドという)が船首方向に向いて取り付けられている場合。
(10)二台装備の場合には、
(a)相互干渉を除去するための措置が施されていない場合。
(b)それぞれの空中線ふく射角度が重なり合うような位置に設置されていて、相互干渉像が現れている場合。
〔注〕映像障害の現象
イ. 二次反射によるもの
二次反射による偽像は鏡による虚像の現れ方と同じで、マストや煙突のような電波の反射物体のある方向に現れる。(図4・1参照)
ロ. 陰によるもの
陰は空中線の位置の近くにあるマストや煙突のある方向に現れる。陰の有無を調べるには、海面反射映像を見て、その像に薄い部分か、あるいは見えない部分があるかどうかによって判断する。このような陰は常に一定の方向に現れるので判断できる。
ハ. 相互干渉によるもの
同一の周波数帯を使用する他のレーダーが近くにあると、相互干渉によって映像面に多数の斑点が現れることがある。この斑点はいろいろな現れ方をして、同じ位置に現れることはないので物標の映像と判別することができる。(図4・2参照)
図4・1 二次反射の映像
レーダ空中線と煙突の距離が短い場合には、中心よりほゞ等距離の位置に偽像が現れる。 |
図4・2 相互干渉の映像
(1)取付状態
空中線部の取付状態に異常がないこと及びふく射ビームの障害となる構造物がないことを確認する。
(2)電波のふく射面
電波ふく射面を点検し、汚損、亀裂その他の異常がないことを確認する。
(a)電波ふく射面は、特殊な樹脂製の保護カバーで覆われて防水構造になっているが、この面は電波が透過するため、十分注意して点検整備を行う必要がある。
(b)ふく射面が煙、塩、塵埃などによって汚れていないことを確認する。
(c)ふく射面には絶対に塗装をしてはいけない。もし、ペンキなどが付いているときには、適当な溶剤を用い、丁寧に、かつ、慎重に取り除くこと。
(d)長年の使用で風化してガラス繊維が白く浮き出していたり、小さな破損や亀裂を生じている場合には、エポキシ樹脂系の接着剤で補修すること。
(e)ふく射面の周囲の防水コーティングが傷んでいるときにはメーカーと相談し、使用されているコーティング剤と適合したものを使用して補修する。
(3)ペデスタル部
(a)露出している金属部分、取付ねじなどが腐食していないことを確認する。
イ. 空中線部の露出部分に使用されているねじ類などは特に腐食しやすいので十分念入りに点検する。
ロ. 取付脚の部分及び取付ねじの腐食状況を点検し、必要ならば補修あるいはねじを交換し、ペイントを塗布する。
(b)箱体及びふたに、破損、変形及び締付け不良のないことを確認する。
イ. ふたが樹脂製の場合には、長年の使用によって老化し、ひびが入っていることがあるので、念入りに点検する。
ロ. ふたとペデスタルとの間のガスケットが老化していないか点検し、必要があれば交換する。このときは溝にガスケットを確実に納め、かつ、ふたが均一に締まるよう、締付けねじは対角線の順番で徐々に締めていくこと。
ハ. ケーブルグランドに緩みがないこと、及び防水パテが劣化しておらず十分に詰められていることを確認する。
(c)回転部分の摩耗状況を点検し、異常のないことを確認する。
イ. 駆動用に直流の電動機が使用されている場合には、ブラシやコミュテータの接触状況を点検し、摩耗が著しいときには交換すること。なお、ブラシの寿命は大体3,000時間位といわれているが、ブラシの全長の約2/3の位置に切込線が入れてあるので、これを交換の目安にすればよい。
ロ. コミュテータが清浄であることを確認すること。もし、カーボンの粉などが付着していて、乾いた布などで拭き取れない場合には、500番のような極細目のサンドペーパーで磨くこと。決して目の粗いものを使用してはならない。
ハ. 電波のふく射部の支持部分にある注油口のキャップを外し、メーカー指定のグリスをグリスガンによりオイルシール部へ給油すること。
給油量は、一般的には約20cc程度であるが、オイルシール部からグリスがはみ出してくる程度であれば十分である。
ニ. ペデスタルのふたを外し歯車などの摩耗状況を点検する。摩耗があるときは、ペデスタルの下部に金属粉の混じった油が落ちているので、ある程度は判断できる。
主軸の駆動歯車やシンクロ発信機の歯車などへのグリスが古くなって固まっているようなときには、これをへらなどで丁寧に落としてから、メーカー指定のグリスをへらや、刷毛などで一様に塗布する。また、主軸歯車の“グリスため”のグリスは2年ごとに交換する。
ホ. 駆動電動機と減速機との間にVベルトを使用しているものでは、Vベルトの張り具合を調整する。すなわち、ベルトの中心部分を軽く押して約5mm程度凹むように電動機の取付位置を動かして調整する。
電動機の位置の調整は取付ボルトを緩め、電動機を左右に動かして行う。調整後は、取付ボルトを確実に締め付けること。
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