4・6・9 CRT(Cathode Ray Tube)とその関係回路
従来のCRTの構造の概念を図4・42に示す。この方式は集束コイルで細く絞られた電子ビームを、偏向コイルに流した鋸歯状波電流で中心から円周部に電子ビームを移動させるものである。この偏向コイル全体をアンテナの回転に同期して回転させることで平面表示方式(PPI)としている。偏向コイルに流す鋸歯状波電流の調整が悪いと、中心部が抜けた映像になったり、ゆがんだ映像となるので注意が必要である。偏向コイルに流す鋸歯状波は送信の瞬間にスタートさせ、その傾斜を変えることで表示する距離レンジを変えている。電子ビームの強度は受信信号の強度に対応させることで、アンテナの方位と受信されるまでの時間のCRTの画面上に輝点として表示される。このようにして、CRT面には、輝点が次々のアンテナの方位と距離に対応して表示され、これがCRTに残光性をもたせることで空中線が一回転しても残光により、全周の受信信号が写し出されて、空中線の位置を中心とした360度の方向の状況がCRT面上で観測できることになる。
図4・42 従来のCRTの構造(偏向コイル回転式)
最近のレーダーの表示用CRTとしては、一般のテレビやモニタのようなラスタスキャン方式のものが使用されている。図4・43に示すように偏向コイルが水平用と垂直用の2種類を固定して取り付けておく方式もある。偏向コイルを回転させる必要がないので、回転時の雑音がなく静かな利点がある。このような方式としては、スイープレゾルバ方式、一般のテレビやモニタのようなラスタスキャン方式がある。
スイープレゾルバ方式とは、偏向に必要な鋸歯状波電流をアンテナの回転部に送り、回転に応じた水平用と垂直用の成分に変調させた電流を水平用と垂直用の2種類のコイルに接続する方式である。
ラスタスキャン方式では、電子ビームを水平方向に走査を行った後に、わずかに垂直方向の位置をずらしながら画面全体を表示する方式である。
なお、CRTに関する詳しいことは、第3章に述べてあるので、参照されたい。( 3・7節・・・CRT、レーダーブラウン管、カラーブラウン管、 3・8節・・・LCD等固体表示器)
図4・43 CRTの構造(偏向コイル固定式)
掃引線は、空中線の回転と同期して回転させる必要がある。その方法として
回転同期方式は、シンクロ発信器とシンクロ受信器が用いられるのが一般的である。
普通は、歯車装置でシンクロの回転数を空中線の10倍程度に上げ、指示器では逆にこれを1/10に落として偏向コイルを回している。これは相互の相対角度誤差を小さくするためで、いま、シンクロ発信器とシンクロ受信器との間にθ度の回転角度の差が生じたとしても、空中線と偏向コイルとの間ではθ度/10の角度差となり、角度誤差を小さくすることができる。ただこの場合、空中線の回転角度36度ごとにシンクロ発信器とシンクロ受信器は一回転するから、空中線と偏向コイルが同期する点は、空中線の一回転に対して36度おきに10箇所生ずることになるが、そのうちの一箇所だけが空中線と偏向コイルの正しい同期位置となる。このような関係において、いま、この装置のスイッチを切ると、空中線がその惰性でしばらく回って止まった位置と、偏向コイルがその惰性で回って止まった位置とでは、お互いの角度が異なってくる。そのため、スイッチを入れたとき、シンクロ発信器とシンクロ受信器は同期して回転を始めるが、空中線と偏向コイルとの向きは、36度の整数倍だけ異なってしまう。このためカムスイッチを用い角度差が0度のときに限って両方が回転し、36度×nの角度差がある場合には掃引を止めて空中線だけを回し、この角度差が一致したときに初めて偏向コイルが回転を始めるようにしている。図4・44にその機構を示す。
スイープレゾルバ同期方式は図4・45に示すような機構で、図の空中線と同期して回転する回転子(一次側)に掃引電流を流すと、これに対応した固定子のコイル(二次側)には、回転子の回転角度に応じて大きさの変化する電流が流れる。したがって、互いに90度の角度をもった固定子コイルを二組設けておくと、空中線の軸に直結した回転子にのこぎり波電流を流すことによって、この固定子には図4・46に示すように、空中線の角度に応じて、それぞれ90度位相のずれた正弦波状に変化するのこぎり波が誘起されることになる。このようにして、これに連結された二組の偏向コイル(X、Y)に流れるのこぎり波電流の割合も空中線の回転に同期して変わり、掃引方向が空中線と同期して回転することになる。この方式の利点はブラウン管側の偏向コイルは固定できることでコイルの回転機構や回転時の音がないことである。
図4・44 同期回転機構
図4・45 固定コイル式
図4・46 スイープレゾルバ方式によるスイープの回転
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