4・6・6 ビデオ回路(映像増幅回路)
中間周波数増幅器で増幅され、第2検波器で検波された信号は、0.1〜数V程度なので、このままではCRTを輝度変調するのには小さ過ぎる。そこで、ビデオ回路で40〜50倍程度増幅したのち、CRTのカソードに加える。
送信パルスの幅は0.08〜1.3μs程度なので、検波された受信信号のパルス幅も同等以上となる。したがって、この信号を増幅するには、中間周波増幅の場合と同じように、周波数帯域幅を広くしなければ受信信号の信号波形を忠実に増幅することはできない。このため、ビデオ回路の特性としては10〜15MHz程度の帯域幅が要求される。
ビデオ回路は、図4・37に示すように、4段の増幅器とFTC回路、リミッタ回路、固定距離マーカ回路、可変距離マーカ回路及び船首線信号を混合する混合回路から構成されている。
FTC(Fast Time Constant)回路は雨雪反射抑制回路ともいわれ、雨や雪等からの反射波がCRTに現れると物標からの反射波がマスクされ、その識別が困難となるので、これを抑制するための回路である。FTCの原理は図4・37のような微分回路で、通常のFTCスイッチがOFFのときは、負のビデオ信号はC2 Rで決まる時定数で微分されるものの、この時定数は普通の低周波増幅に使われる程度のもので相当大きくしてあるので、入力波にはなんらの変化も与えず波形の崩れも無視できる。FTCのスイッチをONすると、ダイオードDにはバイアスがかかって、カットオフになり、ビデオ信号はC1 Rで決まる時定数で微分される。そこで、C1 Rの時定数を小さくとっておけば、ビデオ信号は完全に微分されることになる。
図4・37 ビデオ回路
図4・38 FTCの効果
FTCの効果を図4・38に示す。図の(a)は船と降雨の状態であり、(b)はFTCのOFFの状態で、物標のエコーは雨からのエコーに埋もれて見えなくなる可能性があるが、(c)はFTCをONにして微分された状態で、雨のエコーは消え、物標のエコーの微分波形のプラスの部分が映像として表示される。
リミッタ回路の目的は、ある設定レベル以上の信号が入ると振幅制限して、映像の輝度を一定に保つためのものである。その動作を図4・39に示す。
図4・39 リミッタ回路の動作
海上が非常に荒れているようなとき、CRTの中心付近が明るすぎて、自船の近くにある物標が見えなくなってしまう。これは近くの波からの反射波のために起こる現象で、海面反射といわれている。これを防ぐためCRTの中心付近の感度を下げて海面反射を抑制するための海面反射抑制回路(STC: Sensitivity Time Control)回路がある。
図4・40 STCの電圧波形
STCの動作は図4・40に示すような電圧波形を作り、距離が遠くなるに従って段々小さくなる負のバイアス電圧を、中間周波増幅回路へ加えて増幅度を落とすようにしたものである。STC調整のボリュームによってSTCの電圧波形の負電圧の振幅や時間的な長さを変えて見やすいように調整する。
CRTの陽極電圧は約10kV程度を必要とするため、専用の高圧回路を設けている。高圧回路は図4・41に示すように、制御回路、発振回路、整流回路からなり、制御回路は発振回路の電源電圧を変えて、出力電圧を8〜10kVまで加減する。発振回路は約20kHzで発振し、これを昇圧、整流して10kVの高圧を作る。
図4・41 CRT用の高圧回路の構成
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