第2章 レーダーの性能
レーダーの性能は、一般的に(1)最大探知距離、(2)最小探知距離、(3)距離分解能、(4)方位分解能、(5)映像の鮮明度で表すことができる。
表2・1は、これらの性能に影響を及ぼす要素を表にして示したものである。
表2・1 レーダーの性能とその性能に影響を及ぼす要素
性能 |
影響を及ぼす要素 |
(1)最大探知距離 |
送信出力、受信感度、アンテナゲイン、アンテナの有効面積、波長、アンテナの高さ、物標の高さ、物標*のレーダー断面積 |
(2)最小探知距離 |
パルス幅、アンテナの垂直ビーム幅、ブラウン管の特性、受信機の特性、海面の状態、雨雪の状況 |
(3)距離分解能 |
パルス幅、受信機の特性、物標の種類、ブラウン管の特性、 |
(4)方位分解能 |
アンテナの水平ビーム幅、ブラウン管の特性 |
(5)映像の鮮明度 |
パルス繰り返し数、アンテナ回転数、アンテナの水平ビーム幅、ブラウン管の特性、雨雪の状況 |
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*レーダー断面積(レーダークロスセクション):レーダー波を反射する物標の有効反射面積のこと。
レーダーの最大探知距離とは、そのレーダーの性能及び物標のレーダー断面積と高さにより何海里先までの反射波を受信できるかという距離である。レーダーの最大探知距離を考えるには、レーダー電波伝搬方程式を用いて反射波の強さを計算し、この強さがそのレーダーの最小受信感度以下になる距離で決めるのが通常の手法である。
2・2・1 自由空間におけるレーダー電波伝搬方程式
図2・1 自由空間伝搬図
自由空間というのは、図2・1ように、周囲に何もない空間にレーダーと反射物標だけが存在する場合である。この場合のレーダーから出た電波が物標から反射して戻ってくる受信電力を表す式が、自由空間におけるレーダー電波伝搬方程式であって、(2・1)式で表される。
ここで、左辺のS1はレーダーで受信される受信電力である。
右辺の第1項は送信電力がP、アンテナ利得がGであるレーダーから距離Rの点の電力密度で、第2項のσは物標のレーダー電波の反射特性も含んだレーダー反射断面積(有効反射面積又はレーダークロスセクションという)である。第3項は物標で反射した電波が再びRの距離にあるレーダーの所まで戻り、開口面積Aのアンテナで受信するという項である。
一般にA=G×λ2/(4×π)の関係があり、(2・1)式は(2・2)のように整理して表すことができる。
2・2・2 海上の近距離におけるレーダー電波伝搬方程式
船用レーダーの場合は、図2・2のように海面上にレーダーと物標とがあり、直接波と海面で反射して物標に達する間接波との合成波を考える必要があり、更に物標からレーダーに戻る場合も直接波と間接波との合成波を考える必要がある。この場合、海面が水平と近似できる距離の伝搬を近距離伝搬とし、海面は地球表面に沿って湾曲していると考えなければならないような距離の伝搬を遠距離伝搬とする。
図2・2 海上近距離伝搬図
近距離伝搬の方程式は、次の(2・3)式となる。
ここでHsはレーダーアンテナの海面上での高さで、Heは物標の海面上の高さで、λはレーダー電波の波長である。(2・3)式に4×sin 2{2×π×Hs×He/(λ×R)}が入っているのはレーダーから物標までの直接波と海面で反射してくる間接波との電波伝搬経路差による位相差を考えたベクトル的合成電力を考えるからである(付録1 参照)。
次に、(2・3)式を整理すると、(2・4)式のようになる。
sin{2×π×Hs×He/(λ×R)}は0〜1の値をとるので、S2の値は(2・2)式の値(距離の4乗に逆比例)に沿いながら、距離Rが遠くなるに従い最大(16倍)と最小(0)を示しつつ、sin4の曲線に従って次第に減少することとなる。
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