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8. 接着剤に関するコメント等(一部再掲)
 接着剤に関するコメントは、接着剤のことについて全く知識のない電装関係者が、接着作業をしている時のつぶやきや接着剤についての感想などを書き綴ったものであり、それぞれのコメントには矛盾がある場合もある。
 
8.1 接着剤の性質・性能に関する事項
(1)接着剤の塗布厚さは接着剤のタイプにかかわらず、100〜200ミクロンあればよい。厚く塗ればよいものではない。
(2)接着には錆が大敵であり、接着母材に錆が出ると接着力が落ちるので注意が必要である。
(3)鉄材は錆止めの他に油性系の仕上げ塗装をしているものが多く、塗装の種類によっては接着に影響がある場合が予想される。
(4)アルミ材は錆びないように思われるが、接着してみると表面の錆により接着力が落ちることはよくある。
(5)プライマーを施した鋼材は錆びないが、これを接着すると、接着剤には問題がなくてもプライマー層と鋼材が剥がれることがあるので注意が必要である。
(6)接着剤の使用する際の温度は、5〜30℃としているが絶対的なものではない。使用時の温度は、硬化時間に影響を与えるものである。
(7)接着剤を使用する際の湿度は、90%としているが絶対的なものではない。使用時の部材・母材が濡れた状態(接着面が濡れた状態)でなければよい。
(8)接着剤が完全に硬化するのに、SGAで1〜2日、エポキシ樹脂系接着剤で2〜3日かかる。
(9)接着剤は硬化剤と混合されてゲル化が始まり、時間を掛けてポリマーに変わる。
(10)溶剤タイプの接着剤の場合、溶剤の揮発により接着剤の温度が下がり、湿度が高い場合、空気中の水分が結露し、水性被膜ができ、接着しないことがあるので注意が必要である。(エポキシ樹脂系接着剤、SGAには関係ない。)
(11)接着面積1cm2当たりの接着力は、200kg迄である。しかしながら実際の部材で何時もこの値を出すのは大変難しい。実際の部材での試験は必要である。
(12)接着作業をするときに最も注意を払わなければならないのは、接着面の清掃である。錆、埃、油分を充分に落とす必要がある。
(13)接着部の裏を溶接すると熱のため接着剤が焼けて接着力を失うことになる。
(14)接着剤は200℃を超える熱を与えられると、接着力を失ってしまうので、溶接熱の影響がある箇所には不向きである。
(15)接着剤は一般的に熱に弱い。ただし中には200℃程度の高温環境に耐えるものもある。特殊なものとしては宇宙飛行船などの外壁に使用されている。
(16)エポキシ樹脂系接着剤、SGAともに200℃、30分程度の粉体塗装は可能と思われる。
(17)接着剤は液体である間は導電性を持つようだが、固まると絶縁体になるものが多い。しかし中には導電性を維持するものもある。
(18)常に荷重がかかっている場合、クリープを考慮しなければならない。振動等による繰り返し荷重がある場合には、疲労を考慮しなければならない。
(19)一般的に接着剤は、接着面に垂直の引っ張りに強く、剪断には弱いので、天井に接着させる場合より、垂直壁に接着作業をする場合には、より注意を払うが必要がある。
(20)接着剤を多量に混合すると発熱によりポットライフが短くなり、短時間で使い切れない場合ロスが大きくなる。また、気温が高いとポットライフが短くなる。
(21)接着剤の保管方法は冷暗所に保管する。(20℃以下の場所が適当である。)
(22)接着剤の開封後の有効期限は製品により異なるが、密閉すれば製品に記入されている保障期限内は問題ない。
(23)ねじロックのようなものは、反応型の嫌気性の接着剤を利用すれば、特に問題はない。
(24)エポキシ樹脂系接着剤は2液タイプの混合後の有効時間は、30分程度である。反応型でアプリケーター使用のアクリル接着剤の場合は2〜3分程度である。
(25)接着は半永久的なものではなく、寿命はその置かれた環境によって違う。
 
8.2 接着剤の作業性に関する事項
(1)接着剤を用いる場合の作業方法や手順等については、接着剤の専門家の指導の下に実施するべきである。
(2)接着主剤と硬化剤とを適正に配合するため、秤量100グラム以上感量1g以下の秤が必要である。
(3)2液タイプの接着剤の使用は予想していたより簡単であるが、液状であるため部材への接着剤の適正な塗布には、経験による慣れが必要である。
(4)2液接着剤の最大の課題は、「配合比が適正か」と「充分な混合か」である。
(5)2液接着剤の場合、混合について表示する必要があるように思える。また、接着剤と硬化剤の色を変える等の工夫をする必要があるように思える。
(6)2液タイプの接着剤の硬化時間は丸1日程度かかるが、2〜3時間で取り外しが可能になる。完全に硬化するのには3〜4日かかる。
(7)2液タイプの接着剤は2液を混ぜる手間がかかり、その分作業性が悪くなるので、電装工事には1液タイプの接着剤が向いていると思われる。
(8)接着部材を垂直壁に接着させる場合には、部材がずれやすいので、より注意を払うが必要がある。
(9)一般的に硬化前の接着剤は、接着面に対して垂直方向にはずれにくいが、剪断方向にはずれやすいので、天井に接着させる場合より、垂直壁に接着作業をする場合には、より注意を払う必要がある。
(10)接着剤は、のりしろの真ん中付近に厚く塗布し、圧締したとき接着面の脇からはみ出る程度がよい。
(11)接着面が荒い場合は少し多めに塗布する必要がある。
(12)垂直壁に接着作業する際には、多少の垂れを考慮し、接着剤は接着面の中央より少し上の方に接着剤を塗布することとする。
(13)接着剤を塗布するときは、片方から一回で塗布し、折り返しの塗布は、接着面の均一な塗布ができなくなる。(慣れが必要)
(14)はみ出した接着剤を掻き取った場合、硬化後の接着剤の収縮により接着不良の原因になることがあるので、はみ出した接着剤は掻き取らない方がよい。
(15)液状の接着剤を垂直の壁に使う場合、垂れの防止策を考慮する必要がある。
(16)垂直の壁に接着する場合には、どのように圧締するかが課題である。
(17)接着作業時に部材を母材に圧締する強さは経験を要する。
(18)本試験では、部材を母材に圧締・固定するのには、粘着テープが最適であった。
(19)接着剤を用いて隔壁面と天井への部材の固定は、粘着テープで可能であった。
(20)隔壁面と天井面への接着の場合、接着剤の垂れ対策が必要である。
(21)接着作業を実施する際、部材・母材の表面処理を徹底する必要がある。
(22)FRP船で接着作業を実施するためには、FRP面が平面でない場合が多く接着面の面合わせに手間取ることが予想される。
(23)接着作業は作業前の準備が大切である。接着面の表面処理、面合わせ、部材の位置決めと作業者(接着剤を塗る人・貼り付ける人・部材をテープで固定する人)の役割を決めておけば作業をスムースに実施することができる。
(24)接着剤の成分によっては、有害ガスが発生することもあり、また、火気に注意が必要である。
(25)試験部材を実際の船に取り付ける場合、船が動いていればエンジン等の振動・騒音等があり、接着剤の性能が発揮できない可能性が高い。接着剤が硬化するまでしばらくの間、エンジン等を止める必要があると考えられる。
(26)建造中の場合、電気溶接・ガス溶接等との混在作業になるため、火気に充分気を付ける必要があると考えられる。
(27)気温が5℃以下の場合、接着作業はすべきではない。
(28)コーミングに使用したパテ状接着剤は、主剤と硬化剤とを上手く混ぜるのに少しの練習が必要である。この接着剤の利用範囲は広いと思われる。
(29)熱硬化性の接着剤は、陸上では圧締加熱して使用している。電装工事ではドライヤーを熱源とする程度のものに限られる。
(30)防振ゴムを間に挟んで接着する場合には、弾性接着剤が有効である。
(31)エポキシ樹脂系接着剤は、エポキシ主剤と硬化剤をきちっと計測して、同所定の分量をよく混ぜなければならない。ダイアボンドNo.2700Hでは同分量である。
(32)エポキシ樹脂系接着剤は、計量・混合の手間はあるが混合後は作業にゆとりがある。また、計量・混合・塗布作業を全て船外で行い、接着現場へは塗布される部材のみを持ち込めば作業能率が上がると思われる。
(33)エポキシ樹脂系接着剤は、均一に塗り広げて貼り合わせるため作業のバラツキが少ない。
(34)エポキシ樹脂系接着剤は、母材・部材に対する接着性が安定している。
(35)エポキシ樹脂系接着剤は、硬化に時間がかかるので、急いで配線工事を行う場合は不向きである。
(36)エポキシ樹脂系接着剤は、硬化時間が長いので、作業上現場向きのように思われる。
(37)エポキシ樹脂系接着剤を混合する際、使用量及び作業性を充分考慮して混合する量を決めないと接着剤のロスが大きくなる。
(38)エポキシ樹脂系接着剤は、硬化に時間が掛かるため、圧締に配慮が必要である。
(39)SGAは、アクリル主剤と硬化剤を分けて充填したダブルのカートリッジを、簡易式の手動塗布ガンに装填し、その先に混合エレメント(ミキサー)を取り付けて、接着面に塗布する。
(40)エレメントのノズル先端の穴を大きくすることによりSGAの押し出し量を大きくすることができる。
(41)SGAは、塗布ガンのレバーを引くことにより、アクリル主剤と硬化剤が混合エレメント内に押し出されながら混ぜられ、接着剤として使用することが可能となる。
(42)硬化速度は温度に影響される。SGAは20℃程度であれば、30秒程度でゲル化が始まる。
(43)SGAの場合、接着作業に時間が掛かる時には、主剤と硬化剤が混ざり合ったものを捨てながら作業を進めることとなる。これを捨てショットと称している。
(44)SGA接着剤器の中で混合されるが、硬化時間が短いの手際よく塗布し、貼り付けを行わないと混合器内で硬化して出なくなるので注意が必要である。
(45)SGAは硬化が早いので急いで塗布・貼り合わせの段取りが難しく作業に追われる。また、母材を貼り付ける時滑って固定が難しく感じた。
(46)SGAは、硬化が早いので急いで配線工事をする場合にはすぐれている。
(47)SGAは、計量・混合が簡単なので、準備(部材の手配・位置決め)と作業者手配(塗布する人、貼り付ける人、テープで固定する人)を手順よく行えば能率よく接着できる。
 
8.3 接着部材・母材に関する事項
(1)部材と母材との接触面合わせの精度を上げる必要がある。
(2)接着面の面だしが充分でない場合、接着剤の塗布の量、厚さに工夫が必要である。
(3)黒皮付鋼材やショトブラスト加工プライマー処理鋼材等の事前処理と清掃をどのように実施するか検討する必要がある。
(4)部材及び母材の接着面の清掃については、ペイントの剥離・錆びの除去を行い、その後溶剤(メチールアルコール・トルエン等)で清掃する。
(5)接着部材を母材に圧締する強さは、接着剤が周囲から少しはみ出る程度がよい。
(6)シャコ万力やボルト・ナット等を用いて強く締め付けると、接着剤がはみ出して接着力がなくなるのでよくない。
(7)接着剤を使用する際には、できる限りのりしろを大きく取る必要がある。
(8)部材の重量が重い場合、垂直面はさほど問題とならないが、天井面や横向きに接する場合自重で部材が落ち易くガムテープでの固定を充分にする必要がある。
(9)L型支電路は接着部に割裂の力がかかる。この負担を軽くするため、L字型ではなく接面が大きいコ字型にした方がいい。
(10)重量がある接着部材を接着する場合、面合わせが充分でないと上手く接着できない。石を貼るときのダンゴ貼りという方法やビート状に貼る方法などがある。その他、両面テープを使って接着面のデコボコに対応させる方法もある。
(11)パイプの接続には突き合わせだけではなく、周りからスリーブのようなもので押さえ込めば接着剤の適用に関する可能性は高まるが、パイプとスリーブとのクリアランスについて考慮する必要がある。クリアランスが大きすぎると接着が上手くできなかったりするし、小さすぎると電線管が接着剤を削ってしまう恐れがある。
(12)コーミングについては、特に問題はないが、コーミングの外径と壁穴の精度を検討する必要がある。
(13)部材が鋼材でがい装なし電線を布設した場合は部材が電気的に船体に接続される事がなく、磁化される恐れがある。
(14)新造船に接着工法を適用することは、現在のところ新造船の電路支持物の設置すべてに接着工法を適用することは必ずしも効果的とはいえないが、火気を嫌うような場所での適用は効果が得られる。
(15)フラットバーを垂直壁に接着する時、フラットバーの長手方向を縦に接着する場合には、フラットバーの下方へのずれだけに注意すればいいが、長手方向を横にして接着する場合には、下方へのずれに加えて自重による回転での壁面からのはがれに注意し、しっかり固縛する必要がある。
 
8.4 接着剤の試験・評価等に関する事項
(1)今年度の調査研究では、冷熱サイクル試験、振動試験、塩水噴霧試験、日照試験を実施した後の接着剤の強度については、何もしなかったものと比較して殆ど差がないことを確認した。
(2)フラット・バーのような屈曲部を持つ構造物の引っ張り試験は、「引張り」や「剪断」といった力が複雑に加わる。このため純粋な引張り試験の実施は難しいとの認識が得られた。
(3)接着工法で取り付けたフラットバーにかかる荷重は、電線の重量程度であるが、実際の作業や使用条件を考慮すると、1部材あたり100kg程度の接着強度があれば十分と考えられる。
(4)接着剤の試験をする場合、接着性能のバラツキが大きいと予想されるため、できるだけ多数の試験部材を用意し、試験を実施することが多い。少なくとも3個は必要である。
(5)性能については、試験結果の平均値を考慮すべきであると思われるが、本試験ではサンプル数が少なく、バラツキが大きいことから、最も低い数値を重視することとした。
(6)ここでは実際の電装工事部材を用いて、接着作業を実施した場合の接着性能が、メーカーのいうカタログ性能と、相当な開きがあることを知ることができた。
(7)接着剤の性能は、接着作業時の気温、作業姿勢、熱硬化性の接着剤の場合には熱の加え方、圧締の方法等、様々な条件によって大きく異なる。また、実際の部材を用いて実施したものをどのように評価するかは難しい。
(8)接着と溶接との工数、コスト、工事の安全性等の比較検討が必要である。
(9)接着部材、母材の接着前の表面処理に工数がかかる場合、溶接に比べてコスト高になるのであれば接着のメリットはない。
(10)接着済み部材が船体の振動に耐えられるかについては今後の研究課題である。
(11)SGAは、母材・部材に対する基本的な接着性能に不安がある。
(12)SGAはクリアランスに弱い。
(13)火気厳禁区域だけでなく、溶接作業の合間に接着作業を行えればいろいろな場所で可能であると考えられる。
(14)火気工事の少ないFRP船には接着工法は適していると考えられる。
(15)接着工法は電気溶接工法と比較して接着力・作業性において遜色無いと考えられるが、接着剤の使用量・価格・使用期限・硬化時間等を調査して溶接工法とのコスト面での比較検討する必要があると考えられる。
(16)接着工法の適用は補修作業及び増設作業において効果的であると考えられる。
(17)アルミ船の場合、電気溶接による工法の場合は裏面をサンダーなどで研磨する必要があり、接着工法が適していると考えられる。


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