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まえがき
 この報告書は、日本財団のご支援により、平成17年度補助事業として、当協会が実施した「接着剤を用いた新しい電装工事方法に関する調査研究」の成果をまとめたものである。
 接着技術は近年著しい発達を遂げた新しい技術分野であり、約20年程前から金属接着剤の開発が進み、今日ではほとんどあらゆる工業生産物の製造技術の中に何らかの形で取り入れられている。ところが船舶の建造あるいは修繕に際しては艤装工事に若干の使用例があるだけである。
 電装工事に接着剤を使用する研究については、これまで実施されたことはなく、電線支持物等(電線馬等)を、船舶の隔壁等への取り付けを溶接に替えて接着で実施することができれば、今後の画期的な電装工事方法の開発に繋がるものである。また、船舶電装工事だけでなく造船の幅広い分野に使用することが可能となる。
 そこで溶接に替わる工事方法として、取り扱いが簡単で、耐久性を具備した接着剤を電装工事へ使用するための調査研究を実施した。
 なお、本調査研究を実施するにあたっては、東京海洋大学 海洋工学部 海洋電子機械工学科木船弘康助教授を委員長とする「接着剤調査研究委員会」を設置し、各委員の熱心なご検討とご協力によるほか、国土交通省のご指導を得て実施したものであり、これらの方々に対し、心から感謝の意を表する次第である。
 
第1 緒言
1.1 調査研究の目的
 近年、接着剤は性能の向上により、航空機、鉄道車両、自動車等の多方面に使用されている。これは接着剤の長所を生かし、短所をカバーする作業方法等を検討することにより、その利用の可能性を見いだしたことによるものであり、これによって大幅な工事工数の削減とコストの低減を達成しており、且つ、接着部位の強度等の安全性も確保されている。この接着剤を船舶の電装工事に使用することができれば、画期的な電装工事方法の開発に繋がるものである。また、船舶電装工事だけでなく造船の幅広い分野に使用することが可能となる。
 船舶の電装に関する主な工事は、船舶の運航に不可欠な電気機器・補機器等を設置するともに、機関室に設置している発電機から発生する電力を、電気機器・補機器等に送るための電線の布設を行うことである。なかでも、電線布設の作業は大きなウエートを占めており、この作業の合理化が極めて重要である。
 電線布設作業は、電線支持物等(電線馬等)を、船舶の隔壁、甲板、外板及びフレーム等に溶接により取付ける作業、これに電線を固縛する作業及び電線の結線作業に大別される。
 本研究はこのうち電装工事用材料(電線馬等)を隔壁等に取り付ける方法として、溶接に替えて接着剤の使用について調査研究するものである。
 特に、船舶の修理等で、電気機器の配置換えや増設による電線張替え工事や電線増設工事を実施する場合、溶接工事の火気対策として、防熱材の撤去、修復、壁背面の塗装修復等工数の掛かる付帯工事が発生する。溶接に替えて接着剤を用いる工事方法は、火災の発生を未然に防止し、工数の削減と工事の安全をより高めることとなる。また、燃料タンク等のように壁面溶接が出来ない場合には、溶接以外の工法を採用せざるを得ない。
 このように電線布設作業に必要な溶接を接着剤使用に替えるための本調査研究は、船舶の電装工事の安全性を高め、工事コストの低減等、工事の合理化に資するものである。
 また、本「接着剤を用いた新しい電装工事方法に関する調査研究」は、船舶電装協会が平成16年度に実施した「電装工事に接着剤の利用の可能性を検討するFS研究」の成果を得て、当協会が平成17年度事業として実施したものであり、足かけ2年の調査研究をまとめたものである。
 
1.2 調査研究の実施
 調査研究を進めるに当たっては、(社)日本船舶電装協会に接着剤を電装工事に利用するための調査研究委員会を設置し本調査研究を実施した。
 
 本委員会の下に作業部会を設置し、作業部会において、次の試験を実施した。
a 陸上(工場内)での接着作業
b 引張り強度試験等(接着作業済み部材・母材の冷熱サイクル試験、振動試験、塩水噴霧試験を実施した後)
c 実船接着作業(FRP船、アルミ船、鋼船を用いた実船接着作業)
 
(順不同、敬称略)
接着剤調査研究委員会委員名簿
区分 委員名 所属等
委員長 木船弘康 東京海洋大学助教授
委員 成沢 平 (財)日本海事協会 機関部 主管
藤吉正俊 製品安全評価センター
平原 祐 日本小型船舶検査機構 検査検定課長
磯部完二 接着剤工業会(ノガワケミカル(株))
北澤英宏 接着剤工業会(コニシ(株))
杉崎正隆 三井造船(株) 船舶設計部 電装設計課長
三宅 徹 (株)IHIマリンユナイッテド艦船技術部
新田泰彦 ユニバーサル造船(株)電機武器設計室
藤岡伸吾 渦潮電機(株) 西条工場 工場長
鈴木勝幸 墨田川造船(株)技術部 部長
飯作晃男 三信船舶電具(株)技術課長
光原良雄 山陽船舶電機(株)常務取締役
浜崎久治 (有)浜崎電機工業所 代表取締役
寺林秀男 横浜電工(株)企画営業部長
大塔協一 (株)ノムラ 代表取締役
オブザーバー 生駒 豊 国交省舶用工業課
梶田智弘 国交省安全基準課
神谷和也 国交省検査測度課
事務局 関 龍一郎 (社)日本船舶電装協会 常務理事
 
1.3 委員会等の開催
第1回委員会 平成17年4月27日(水) 於:航空会館801会議室
議事
(1)委員長の選出
(2)事業計画について
(3)作業部会の設置について
(4)調査研究の進め方について
(a)アンケート調査結果について
(b)接着させる部材の選定について
(c)今年度の調査研究内容について
(d)接着作業要領の作成について
(e)調査研究担当委員について
(f)委員会スケジュールについて
 
第2回委員会 平成17年7月21日(木) 於:航空会館204会議室
議事
(1)第1回接着剤委員会議事要旨の確認
(2)第1回作業部会(接着作業試験)報告
(3)第2回作業部会(接着済み部材・母材の引張り等試験)報告
 
第3回委員会 平成18年2月13日(月) 於:航空会館204会議室
議事
(1)第2回委員会及び第3回合同分科会等議事要旨の確認
(2)17年度接着剤調査研究報告書(案)について
 
第1回作業部会(陸上(工場内)での接着作業)
平成17年6月14日(火)、15日(水) 於:墨田川造船(株)
出席者:木船委員長、磯部、北澤、藤吉、浜崎、光原、三宅、飯作、新田、杉崎委員
事務局 関、荒木、三瓶、清水、東島、高松
 
作業内容
(1)磯部、北澤委員(接着剤工業界)の指導の下にエポキシ樹脂系接着剤、SGA接着剤を用いて接着作業を実施した。
(2)接着作業は、母材をねじ止めしたベニヤ板を垂直に設置し、それに部材を接着した。
(3)接着部材数は、フラットバー146、L型フラットバー20、 三角台10、コーミング32、合計208組と予備試験分
 
第2回作業部会(接着作業済み部材・母材の引張り強度試験等)
平成17年7月12日(火) 於:安全評価センター
出席者:木船委員長、磯部、北澤、藤吉、三宅、飯作、新田、杉崎委員
事務局 関、荒木、三瓶、清水、東島、高松
 
作業内容
(1)接着作業済み部材・母材の塩水噴霧試験を6月24日〜27日に実施した。
(2)接着作業済み部材・母材の冷熱サイクル試験を6月27日〜29日に実施した。
(3)接着作業済み部材・母材の振動試験を7月11日〜14日に実施した。
(4)引張り試験は、耐熱・耐寒(熱サイクル)試験、塩水噴霧試験、振動試験終了後の、7月4日〜6日と7月12日〜15日に実施した。
(5)破断面の破壊モードの確認を7月12日と7月19日に実施した。
 
第3回作業部会(FRP船での接着作業)
平成17年10月5日(水)、6日(木)
於:松江市:(有)浜崎電機工業所、鹿島町恵曇港
出席者:北澤、浜崎、藤岡、大塔委員、事務局 関
作業内容
(1)(有)浜崎電機工業所において接着作業の予備テストを実施した。
(2)恵曇港に係留しているFRP漁船を用いて実船接着試験を実施した。
 
第4回作業部会(アルミ船、鋼船での接着作業)
平成17年10月26日(水)、27日(木)
於:尾道市:山陽船舶電機(株)、常石造船、土生港
出席者:磯部、光原、藤岡、大塔委員、事務局 関
作業内容
(1)山陽船舶電機(株)において接着作業の予備テストを実施した。
(2)常石造船にて建造中のアルミ船を用いて実船接着試験を実施した。
(3)尾道市に係留されている鋼船(フェリー)を用いて実船接着試験を実施した。
(4)尾道市因島土生港で、現在、就航中の高速アルミ船を用いて実船接着試験を実施した。
(5)山陽船舶電機(株)において粉体塗装等試験用部材の接着作業を実施した。


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