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杜子春
 
 
するとどこからやって来たか、突然彼の前へ足を止めた、片目眇の老人があります。それが夕日の光を浴びて、大きな影を門へ落とすと、じっと杜子春の顔を見ながら、
「お前は何を考えているのだ」と、横柄に言葉をかけました。
(杜子春:文中より)
 
 
竹杖は忽ち竜のように、勢いよく大空へ舞い上って、晴れ渡った春の夕空を峨眉山の方角へ飛んで行きました。
(杜子春:文中より)
 
 
杜子春は老人の戒めも忘れて、転ぶようにその側へ走りよると、両手に半死の馬の頸を抱いて、はらはらと涙を落としながら、「お母さん」と一声を叫びました。
(杜子春:文中より)
 
制作講師による下絵
蜘蛛の糸
下絵:木下五郎
 
杜子春
下絵:柴田久慶
 
紙芝居制作の参加者の声
・一枚の絵に思いっきりかけた(中3:童謡)
・絵がきれいにかけた(小1:童謡)
・色の調節が難しかった。(中1:童謡)
・イメージしてから描くのが、時間の半分くらいしかできなかったけど、たのしかった。歌をきいてかいたら、すごくかきやすかった。イメージしやすかった。(中1:童謡)
・考えすぎてしまったのでむずかしくなった。もっと変化を加えたかった。色をたくさんつかえばよかった。(中3:童謡)
・作品(歌)からイメージをふくらめていくことは思ったより難しかった。(中3:童謡)
・針の山とか、はすの花とか読んでいてイメージがわいたし、アドバイスをもらってとても描きやすかった。作るのも楽しかったし、見るのも楽しかった。(中1:蜘蛛の糸)
・自分の思ったことを自由に描けたので楽しかったです。何の色を使ったらもっと人が見てわかりやすくなるかといろいろ考えました。(中2:杜子春)
・自分の考えたものを描かなければいけないので難しかったけど、とてもたのしかったです。(中2:杜子春)
・孫と参加させて頂きました。これからも参加を希望します。(一般:牛形)
・地域に残る民話を創造するのが良いです。(作ってみたい、演じてみたい紙芝居の題材)(一般:牛形)
・子供から大人まで描くことによって自分を表現することの必要性を訴えていらっしゃる姿に感謝します。(一般:牛形)
 
「紙芝居の伝承と発展」を終えて
 制作、上演会をあわせ、100人以上もの参加者の方々によって創られた本企画。4つの物語と、16曲の童謡の紙芝居ができあがりました。
 紙芝居を作ることは難しいもので、物語を理解し、文章中の移り変わる場面をポイントでしぼり、相手に見やすく描く。参加者の皆さんも最初苦戦していましたが、徐々に、表現、技術において、+αされたオリジナルの発展した紙芝居となり、子供の発想の柔軟性と豊かな想像力に驚かされました。また、民話や童謡などの物語、言葉と感動を、今回紙芝居という形で、一度に多くの方に 見伝え・聞き伝え・言い伝え として伝承していけるということが上演会を通じて実感しました。
 紙芝居は決して独りではできないことです。紙芝居を作る者、読む者、見る者が、コミュニケーションをとり合い、あたたかな人間味あふれる物語から参加者の情操を育てていくことでしょう。これからも小中学生の皆さんが豊かな感性を持ち、日本、地域の文化をまた次の世代へと伝えていって頂きたいと願います。
 最後になりましたが、講師の方々をはじめ、ご協力いただきました皆様に深く感謝と御礼を申し上げます。
駒ケ根高原美術館
担当学芸員杉本慈子
 
 インターネットの普及によって、知りたい情報をいつでも手軽に手にいれることができるようになった現代。そしてそれらの情報は、非常にカラフルな画面で視覚に強く訴えてくるため、多くの人があまり“頭”を使わないで、全てを理解したような気持ちになってしまう。そして、国際化。外国語を身につけようとする傾向が高まり、町中に英会話教室があふれ、子どものうちから語学力を・・・という考え方も一般的になりつつある。しかし一方で、美しい日本語、伝統的な文化や習慣などは、利便性や効率性などを重視するあまりに二の次にされつつあるのが現実である。
 本ワークショップでは、童謡、伊那谷の民話、「蜘蛛の糸」「杜子春」(芥川龍之介)を題材に、日本語の美しさや祖父母世代から孫世代へつないでいきたい文化などを知ると共に、「紙芝居」というひとつの作品を、大人から子供までが協力して作り上げた。そして上演会。非常に中身の濃い、豊かな事業ができたと感じている。
 普段当たり前のように用いている“ことば”。もう一度、ことばの持つ力を再認識し、日本をよく知ることが現代社会には大切なことのひとつではないかと感じさせられた。
駒ケ根高原美術館
学芸員 須田啓子


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