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紙芝居作成の風景
平成17年8月2日(火)13:00〜16:35
配布物:日程表
童謡歌詞カード、「牛形」、「貧乏神」、「蜘蛛の糸」、「杜子春」文章
制作題材:童謡
 水彩絵の具、クレヨン、はさみ、のりなどに加え、四つ切のマーメイド紙を用いて制作開始。9グループにわかれ、2、3グループごとに講師がつき指導の下、分担を決めつくり始めた。言葉を絵にするという普段から慣れないことのため、参加者に戸惑いが見られたが、紙芝居制作の前に、当館副館長松井君子より童謡の大意と制作について、歌詞そのままを描くのでなくそこから伝わってくる感情を描くという講義を受けたことで、「シャボン玉」では命のはかなさ、「七つの子」では親子の愛情など、込められた大意、感情を読み取りコラージュ、切り抜き、色など一工夫して表現した個性ある作品が出来上がってきた。また、事前に聞いた「ともがき」の歌から感じた、「もりのよあけ」では胡桃の割れる音や「ことりのうた」では楽しく歌っている様子などを表現する子供もおり、情感豊かな紙芝居が出来上がった。また、翌日の民話、日本文学を題材にした紙芝居制作の前段階としても、コツがつかめた様子。
 最後に、翌日作成する伊那谷の民話「牛形」「貧乏神」について、原作者である小沢さとし氏より講義を受けた。民話の概要をはじめ、民話の言葉に隠された意味(例:牛形の牛はよく働く者という意味もこめられている)や、人間の生き方、教訓についてなど、民話が持つ魅力についての講義を聞き、参加者は日本の昔からの慣習だけでなく、自分の身暮らしている地域に対しての理解も深まったようだ。
 
平成17年8月3日(水)9:30〜12:40
制作題材:伊那谷の民話より「牛形」、「貧乏神」、「蜘蛛の糸」、「杜子春」
 松井副館長より、人物の描き方なども例にあげ、紙芝居をみる人に物語に込められたメッセージを伝えるように、大胆に描くことについて、また日本文学の大意についての講義があった。その後、すぐに4グループにわかれて講師の指導のもと制作に入ったが、大意を知ることで、描く場面のポイントがおさえられ、紙芝居特有の場面、人物の描き方を講義から学んだことで、先日よりも大胆な色使い、構図の紙芝居が出来上がった。
 
1、「民話:牛形」担当講師:田中邦治 制作:小学生、一般
 中央、南アルプスに囲まれた伊那谷で見られる自然現象「雪形」にまつわるこの話では、まず「雪形」について講師が写真を見せて解説した。それぞれ好きな場面から作成したが、「雪形」という身近な自然現象に興味を惹かれ、どの子もまず、山に現れた雪形を、登場人物の心情を色で表現しながら描いた。山に現れた雪形「牛形」、その牛形を見つけた時の子どもの喜びにあふれた感情、冬から春へと芽吹く四季の移ろいなど、情緒あふれる作品が完成。
 
2、「民話:貧乏神」担当講師:田中邦治 制作:小学生、一般
 「貧乏神ってどんな姿?」との声。おじいさんで髭があって、小さくて・・・といくつも描きだし考えた末、先日の小沢氏の講演であったような、ユーモラスでにくめない貧乏神の姿ができました。また、貧乏でも働いている夫婦は笑顔で描かれているように、先日の小沢氏の講演にあった「貧乏でも前向きで生きれば良い方向へ向く。前向きに働き生きることが大事」というこの民話にこめられた教訓が紙芝居へ表現されていた。
 
3、「蜘蛛の糸」担当講師:木下五郎 制作:中学生
 一つの物語をグループで制作するので、登場人物を一貫させる必要があり、講師が事前に用意した「陀多」や「お釈迦様」をもとに制作を開始。地獄の様子など、講師が資料(国宝:『地獄絵図』など)をもとに説明を参考にしつつ描き込んでいった。登場人物を大きく描き表情を見せたり、一面の蓮の花で天国を表したりと表現にも工夫が見られた。どの陀多の姿もどこかユニークで、制作終了後の発表では好評を博した。
 
4、「杜子春」担当講師:柴田久慶 制作:中学生
 今回題材の中でもっとも長い紙芝居。講師が事前に杜子春の姿と数場面の下絵を用意し、それを参考に制作開始。中国の唐の時代が舞台であるこの話は杜子春を一貫して描くだけでなく、中国文化を知り、描く必要もあった。下絵や資料をもとにした講師と説明を聞くことで、中国の昔の服装、髪型など特徴をおさえた杜子春が出来上がった。
 どうすれば見る人に見やすいか、どんな色を使えばいいか試行錯誤をした末、地獄の責苦にあう杜子春や、地獄のおどろおどろしい様子、青竹で空を翔る様子など、迫力あふれる作品が出来上がった。
 
 最後に出来上がったばかりの紙芝居「蜘蛛の糸」をスタッフで上演。自分たちが制作したばかりの紙芝居を実際見ることでも楽しんでもらえた。
 今回の紙芝居を制作すること自体初めての経験の子も多かったが、表現することの楽しさや、日本・地域の文化を知るだけでなく、見る人に内容をわかりやすく伝えたいという思いやりの心も育まれた機会となった。
 
上演会風景
平成17年11月23日(水・祝)14:00〜16:40
コーラス:女性コーラスグループ「ともがき」
読み手:奥村伸枝(「KAMISHIBAIの会」会員)
伊藤あゆみ
福沢幸
小木曽恵美(駒ヶ根高原美術館友の会副会長)
 
 今回、読み手は、制作にも参加した奥村伸枝さんをはじめ、紙芝居の読み手の経験が有る方に担当して頂いた。
 乳児からお年寄りまでと幅広い年齢層の参加者が集まり、中には制作に参加したおばあちゃんと一緒に来たお孫さんの姿や、三世代での参加なども見られた。参加人数が71名と予想を上回り、スタッフあわせて約100人の大イベントとなった。
 座ったり、寝そべったりと小さいお子さんも自由な格好で見られるように、一番前に敷いたじゅうたんには、子供をはじめ、家族で並んでみる姿もあった。上演会開始。童謡の曲中でかわる画面や、民話でのユニークな絵に「あれは何?」「あ、○○がいる」と楽しそうな声や親子の会話が聞こえてきた。「蜘蛛の糸」「杜子春」は、少し難しい内容であったが、「蜘蛛の糸」の上演中に前へ出てきて紙芝居を指差す子や、蜘蛛の糸を登る陀多の姿、数々の責苦に耐える杜子春の姿をじっとのりだして見入っている子の姿も見られ、日本文学の深い魅力を子供たちも過敏にとらえたようだった。
 参加者からも、「普段は本で読んでいる『杜子春』も、紙芝居で見て聞いているとより感動しますね」との感想もあり、見伝え、聞き伝えが実践できた上演会だった。
 
成果と今後の課題
 日本に伝わる民話、童謡、美しい日本文学の言葉を一つ一つ大切に読み解き、絵に色、形など一工夫を加え、紙芝居を制作した今回は表現することに対しての興味、向上心だけでなく、仲間と一つのものを作り上げるという連帯感と達成感や、日本文化・地域文化の伝承と、美しい日本語に触れたことで、豊かな心をはぐくむ機会になったといえるだろう。
 また、孫たちに聞かせるように、童謡を歌う「ともがき」とその孫世代が描いた「童謡」、小中学生が表現した物語を大人が読み手となるなど、多世代のコラボレーションが実現した上演会では、乳児からお年寄りまで幅広い年齢層の方が参加して、より多くの方に、紙芝居を通して、日本文化の伝承を行えた機会となった。
 今後も、「今回のように地域の民話などを残していって欲しい」、「これからも制作の機会があれば参加したい」という声もあったように題材を考慮し、更なる発展を目指し、また、今後3〜4年と本事業を続けることで、出来た紙芝居を老人ホーム、幼稚園、保育園、小中学校、子供を持つ親のための地域のサークル(例:「ぐりとぐら」)、文化サークル等へ、無料で貸出す「紙芝居ライブラリー」を当館に設立することを目指す。
 
上演会配布資料
 
 
 
 
関連ホームページ:http://www.avis.ne.jp/~kkam/


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