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 朝起きると、セロトニン神経の活動が起こってくれると、その抗重力筋の神経、運動能力に刺激がずっと行くからこの状態を保ってくれるのです。ですから、この状態をセロトニン神経をうんと活性化してやると、非常に強くなるんです。王選手の有名な話は、あの大記録を打ち立てた背景は合気道だと。合気道は呼吸法なのです。彼は筋トレをやったのではなくて、合気道をやってこの大記録を打ち立てた。荒川コーチがそういうふうにちゃんと書いていますから間違いないです。
 
 
 要するに、呼吸法をやっている、ないしは合気道をやるということは、姿勢筋、抗重力筋をきちんとさせる。ですから、一本足だって立っていられる。そういうことなのです。姿勢筋、抗重力筋を呼吸法というかたちで活性化して、それによってこの肺から、腰も含めてしっかりとした芯をつくる。ですから、セロトニン神経の活性化が、筋肉、姿勢筋に影響を与えるという一つの証拠になるというふうに考えています。
 そうしますと、セロトニン神経がもたらす効果というものをお坊さんとか僧侶の生活に照らし合わせますと、よく平常心という、心の問題がありますけれども、背筋がぴしっとしている。あれは背筋を自然にぴしっとするように、セロトニン神経の活性化をしてくれる。それから、よく荒行というか、滝に打たれたり火の上歩いたりしますけど、その痛みを抑えてくれるということもセロトニン神経の活性化で起こりますよということになります。
 もう一つ、セロトニン神経で説明できるかというのが、平常心。平常心という状況をセロトニン神経との絡みで説明できるかどうかということです。心の状態をたった三つの神経で説明できるのか。それは無謀だろうと。それはよく分かりますけれども、色を考えますと、一応、三色ですべての色がこうしてできるわけです。赤と青と緑、この三つの組み合わせであらゆる色の組み合わせができるわけです。ということを考えると、脳の中の三つの神経で心の状態を一応説明してみようと。
 
 
◎ドーパミン神経(中脳腹側皮蓋)快の情動回路・薬物依存症【赤】
◎ノルアドレナリン神経(青斑核)不快なストレス反応・不安【青】
◎セロトニン神経(縫線核)平常心・中庸【緑】
 
 一番最後にこのセロトニン神経が入りますが、二つの神経は実は赤と青です。非常に単純で、快と不快です。快の神経と不快の神経。快の神経はドーパミン神経。これは食欲、性欲、いわゆる気持ちがいいということと関係がある。これはやはり私たち生きているものには重要ですよね。それからもう一つは、ノルアドレナリン神経です。あらゆるストレスを受け入れて、それに適切に対応する。ストレスがないことを考えるのは実は間違いで、ストレスに適切に反応できるこの神経がないと何が起こるかというと、大やけどしても全然痛みも感じないわけですから、結局死ぬわけですよね。ですから、きちんとストレスに対応できる。私は脳内の危機管理センターと言うのですが、脳内の危機管理センターがちゃんと対応してくれているから、私たちは今、この状態で生きていられるのです。これはやはり大切な神経です。それがノルアドレナリン神経です。ポイントは、この両方の神経に対して、セロトニン神経が抑制を掛けるのです。もうちょっと説明しますと、ドーパミン神経というこの快の神経は、やはり脳にある程度影響を与えます。この神経が暴走しますと、ギャンブルも含めて薬物依存症、それから摂食障害。過食症も食の欲求が抑えられないという点では、恐らくドーパミン神経の独走だと思います。そういうふうに、暴走する場合には問題になります。しかし、適当に快があるということは大切なことです。この神経に対して、実はセロトニン神経は抑制を掛けています。
 
 
 それから、もう一つのノルアドレナリン神経、これはセロトニン神経と非常に近い所にありまして、この脳内の危機管理センターのものは、これが暴走しますと、不安、パニック障害、うつも含めて脳のいろんな問題が起こってくる。ですから、この神経に対するコントロールもある程度必要になる。セロトニン神経はドーパミン神経を抑制します。これは脳内の神経回路のつながりとして証明されます。それから、ノルアドレナリン神経はストレスを抑制します。
 そうすると、セロトニン神経というのは、そういう意味では舞い上がりとか不安を抑えてくれますから、いわゆる平常心を演出するということが無理なく言えるだろうと。平常心ということは座禅でよく言われる言葉ですけれども、その内容は、神経回路からすると快の神経、それからストレスの神経を適当に抑えてちょうどいい心の状態にしてくれるというふうに考えています。
 今、鍛えることばかり話をしましたけれども、逆になりますと、まず覚醒が弱くなりすっきり爽快が得られないわけですから、朝起きても寝起きが悪い。それから、心のバランスが取れませんから、キレやすい、うつ、パニック障害、いろいろな問題が起こってくる。それから、痛みのコントロールができませんから、おなかが痛い、頭が痛い、学校に行きたくない。子供がよく訴える、何となくあそこが痛い。その痛みに対するコントロールがうまくいかない。それから、見た目がもうほとんど力がない。ですから、すぐにしゃがみ込んでしまうとか、背中が丸まって力がないとかが見た目の症状として出てくるということは、恐らく皆さん納得されると思うのです。
 







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